夏の天気は変わりやすいというが,今日は特に変わり様が激しい。
朝は晴天だったのに昼前は嵐のような暴風雨で,昼過ぎにはまた晴天になり,今は真っ黒な雲が空一面を覆う曇天。
話は変わるけど…僕の目の前には今,人間の女性の形をした悪魔の皮がある。
全身真っ赤の肌に,背中には悪魔の翼が生えており,頭頂部には左右に栄螺みたいな角が2つ生え,尾骶骨からは尻尾も生えている…まさに人間が想像する悪魔が具現化した姿だ。
ただ…皮になっている為萎んではいるものの,胸には女性らしさを象徴する立派な乳房があったと思しき名残があり,股間には何も付いてなくて割れ目がくっきりと存在する。
まぁ「どうして悪魔が女性の形をしているのか?」は,この際考えない事にする。
『此処からなら入れそうだな…』
悪魔の皮の背中にポッカリと空いた穴から中を覗くと,内臓も骨も筋肉もない空っぽの空間が広がっており,ダイビングスーツや全身タイツを彷彿とさせる。
昔あった海外映画みたいに身につければ悪魔に成れるかもしれない。
確証はないけど,これが悪魔の皮である事だけは紛れもない事実だ。
そんな事を思いつつ,僕は悪魔の皮の背中に空いた穴に左足を入れ,悪魔の皮の左足の中へと伸ばしていく。
靴下を履くように悪魔の皮を引っ張りつつ,悪魔の足の指に自分の足の指を揃え,悪魔の踵に自分の踵を揃えると…悪魔の皮がぴったりと密着して,僕の足が悪魔の足のサイズに変わる。
「おおっ…凄い締め付け!皮が足から離れない!何コレw」
締め付けられている筈なのに痛みはなく,密着した部分は引っ張っても皮みたいに伸びず,僕の身体の一部になっている。
まだ足だけだけど,これが股間や胸部…更に頭まで悪魔の皮に入れたらどうなってしまうのだろう。
恐怖がないと言えば嘘になるが,それ以上に好奇心の方が勝り,それを象徴するように僕の股間のブツは天を仰いでいる。
早く中に入りたいと言わんばかりに…そんな興奮を抑えつつ僕は,更に悪魔の皮に自らの身体を入れていく。
「ぐっ…股間に血が通っている感覚はあるのに息子の存在がないのは不思議な感覚だ」
悪魔の皮に両足を入れて腰まで持ち上げると,股間部分が中から押し上げられて盛り上がる。
だが,悪魔の皮が密着した事ですぐに盛り上がった部分は萎んでいって真っ平に。
同時に,お尻は大きさを増し,尾骶骨から生えた尻尾も僕の意思で動くようになる。
『おお…尻尾ってこんな風に動くのか!これは面白いかも♪』
お尻が重たくて重心が取りづらいものの,それ以上に人間の身体では味わえない尻尾を動かす感覚が新鮮で,何度も命令を出しては尻尾を動かして悦に浸る。
上半身は人間,下半身は悪魔というキメラみたいな姿だったが,そんな事も気にならないくらい尻尾の感覚が面白くて。
暫く尻尾で遊んでいたが,其処でふと背中に生えた翼の存在を思い出す。
『そうだよな…尻尾が自由に動かせるなら翼も自由に動かせるって事だよな?…という事は空も飛べるのか?』
まだ下半身しか悪魔の皮に入れていない事に漸く意識が向いた僕は,腰から前掛けのように垂れ下がる悪魔の皮に手を伸ばして持ち上げる。
そのまま悪魔の左右の腕に左右の腕を通して指に指を入れていき,肩まで身体を入れる。
すると,脚や股間の時同様に締め付けが始まり,密着した悪魔の皮が僕の身体を作り変えていく。
胸も密着した事で萎んでいた乳房も膨らみ始め,本来のボリュームに戻り,肩にずっしりとした重みを感じる。
ぶるんぶるん…
「重たっ!これが乳房の重みか…凄い!僕の胸におっぱいがある♪」
男の身体ではまず体験する事がない乳房の重みを味わい,初めてみる女性の乳房に興奮して何度も身体を左右に振って揺らしてみる。
「手で下から持ち上げて離せばいいのに」と思うかもしれないけど,女性と一度もそういう事をした事のない僕にとって,女性の乳房に触れる勇気はなく。
だが,乳房に興奮していた僕に想定外の事態が起こる。
なんと,背中に空いていた筈の悪魔の皮の穴が閉じており,首から下は完全に悪魔の身体になっていたのだ…まだ頭を悪魔の皮に入れてないのに。
「ちょっ…何時の間に!?」
空気の抜けた悪魔の頭部が涎掛けみたく首から乳房に掛けて垂れている。
首から下は悪魔の身体で,僕よりも足が長くて何時もよりも視線が高い。
背中の翼に意識を向ければ自由に動かせ,翼を横にいっぱい広げれば両手よりも長く立派な翼が存在感を主張する。
この翼なら空を飛びたいという夢を叶える事は出来るだろう…けど,流石にこのままというのはマズい。
こんな姿を家族に見られたら“変態コスプレ野郎”と言われるのは目に見えているし,脱げなかったら一生そう言われ続ける事になってしまう。
慌てふためく僕…だったけど,それは杞憂に終わる。
まぁ簡単に言えば,勝手に思い込んだ僕が勝手にテンパっていただけなんだけど。
「あっ…頭にも穴が開いてる…良かったぁ」
とは言え,僕が悪魔の皮を着ようとしていた時は,頭に穴は開いていなかった。
それは何度も確認したから間違いない!
でも今は,背中の穴は消えて僕の身体に密着し,代わりに首から頭に掛けて穴が開いていた。
『これを被れば…僕は完全に悪魔になるんだよなぁ』
引き返すなら今だ!と僕の勘が訴えてくる。
だけど,既に悪魔の皮に魅了されていた僕は,自らの身体が発する危機能力を無視し,悪魔の皮の頭に自分の頭を収納した。
すると,身体の時同様に頭も皮に締め付けられ,ゴキゴキと骨がなって悪魔の身体に形を変えていく。
同時に,悪魔の記憶が僕の脳に一気に流れ込んできて,謎の高揚感に身体が震える。
「んんっ♡気持ち良い♪最高の気分だわ♪あぁんっ♡」
流れ込んでくる悪魔の記憶は途轍もない量で,容赦なく僕の脳を圧迫し,押し潰されそうになりつつも脳が必死に処理していく。
ただ,押し潰されそうになる度に身体が興奮して火照り,身体に一切触れてもいないのに快感の波が押し寄せてくる。
身体の奥深くが熱くなるのを感じ,乳首も徐々に硬くなっていき,熱い吐息が口から漏れる。
そして,記憶の雪崩れ込みに何とか耐えた僕は,悪魔としてこの地に降り立った。
その瞬間,それを祝福するように暴風雨が吹き荒れ,途轍もない雷の怒号が街中を襲った。
こうして僕は悪魔になった。
悪魔になった僕が何をしたのかは,また別のお話。