大魔女と・・・

まえがき
前回の作品がイチャラブハッピーエンドだったので今回はダークに振り切った作品です!
今回は数百年生きた大魔女の奴隷にされてしまったオークが全てを奪って逆転する感じの話になります。やはりダークは筆が乗りますね!!

「ブギャアアアアアアアアア?!?!」

鬱蒼と木々が生い茂る深い深い森の奥にある、半ば木々と融合した一軒家。人はおろか動物さえ寄り付かないその場所で野太い悲鳴が辺りに響き渡った。
切り出した石にも似た滑らかな材質ばかりの殺風景な一室は優に50人は入れるほどの広さを誇っているが、ところどころ焦げたり凍ったり砕けていたりとまるで戦闘でもあったかのようだ。さらにその中央では暗い緑色をした塊が転がっており、焦げ臭い匂いと共にぷすぷすと煙を立ち上らせている。その塊を一人の女性がじっと品定めでもするかのような瞳で見下ろしていた。

「ふーん・・・?なかなか上手くいったわね。純粋な雷の魔法も完成は近いわ」

端的に表せば、寒気のするような美女だった。
切れ長のツリ目に全てを見透かすような黄金の瞳。美しい線を描く鼻筋や薄い唇、触れる事さえ禁忌だと思えるような白い肌。その全てが常人のそれとはかけ離れており、身に纏う冷たい雰囲気や視線と併せて「美しい」という言葉ですら陳腐になってしまうほど。その姿を見たものは誰であれ美貌に凍り付き、そして熱狂するだろう。髪は恐ろしいほどに長く、先端を頭頂部まで折り返してようやく足元まであるスーパーロングに収まっているというのだから180cm近い身長の優に二倍はある。そしてその一本一本が完璧な手入れをされており、わずかな光でも雪原のように真っ白に輝いていた。
それらに負けず劣らずの迫力を誇るのがそのボディライン。大ぶりなメロンを思わせる胸、理想的な曲線を描く腰のくびれ、むっちりとしていて肉付きの良い尻、思わずむしゃぶりつきたくなる太もも。まさに極上という言葉があつらえたように似合う肉体で、いわゆる美女と呼ばれる貴族の令嬢や村娘たちを集めたところでその全てを鎧袖一触にして男どもの視線を独占出来るだろう。さらにそんな垂涎もののグラマラスボディを身体にぴったりと張り付くような薄いローブ一枚でしか隠していないというのだからもはや凶器にすらなり得る。それ故に世の男どもが彼女を放っておくはずがなく、それ故に彼女はこのような深い森の奥に居を構えていた。

「ふふ、試作段階とはいえ十分な威力ね。並みの騎士ならもう消し炭になってもおかしくないわ」

そう満足気に彼女――大魔女ヘキサディア・ヴァルドドルンが幅広の三角帽を直しながら笑みを零す。それもそのはず、雷の魔法とは普通の人間に扱えるものではないからだ。
まず第一に、そもそも再現が出来ない。火や氷、風といったものは魔法使いにとって当たり前の魔法になって久しいが、それでも雷という強大な自然現象を人の手で再現するのは不可能とされてきた。それでもごく一部の極まりし魔法使いたちが雷の再現に至ったものの当然そんなものが制御出来るはずもなく、悉くが己の生み出した雷に灼かれて生涯を終えた。
故に雷の魔法は『神への挑戦』とされ、無謀にもそれに挑んだ人間に罰が下るというのが魔法使いたちの共通認識だ。――ここにいるヘキサディア・ヴァルドドルンを除いて。
その衰える事のない容姿からは想像もつかないが彼女は既に500年以上の永き時を生きる大魔法使いであり、彼女の魔法は現在の基準から数世代は進んでいる。故にまだ粗削りであっても雷の魔法を己のものとしており、それを実用化すべく日々研究を重ねている。もしこれが完成すれば騎士たちの堅牢な鎧や他の魔法使いの魔法防御など意にも介さない、まさしく『必殺』の魔法が手に入るのだ。
そんな日を夢見ていると目の前にあった暗い緑色の塊がもぞもぞと蠢き、呻き声を上げた。

「ぶ、ブヒ、ブヒッ・・・」

塊らしきものはヘキサディアの雷魔法を受けたオークであり、その体色も元々の鮮やかな緑色が焦げたせいでくすんでいるように見えただけだった。
豚のような鼻に下顎から大きく突き出した牙。さらに2mを優に超える身長に大柄な体躯、でっぷりと突き出した腹に身に付けているのは粗末な腰布のみとその姿はまさしく万人が想像するオークそのもの。普段は森で暮らしているはずの種族だが、その頑丈さを気に入ったヘキサディアが無理やり連れてきて魔法の実験台にした、というわけだ。その証拠に、彼女曰く並みの騎士すら消し炭になる威力の魔法を受けても五体満足で生き永らえている。

「いつまで寝ているつもり?この愚図オーク。さぁ、次の魔法も試したいからさっさと立ちなさい」
「む、むり、ブヒ・・・オデ、もう・・・」

床に転がったまま息も絶え絶えに呟く。いくら頑丈と言えども雷の直撃は相当堪えたらしく、ビクビクと全身を痙攣させて芋虫のように動く事しか出来ない。そんなオークに業を煮やしたのか、ヘキサディアは苛立ちながら『命令』をした。

「『立て』」
「ブヒッ・・・!」

ヘキサディアの言葉がオークの耳を震わせた瞬間、ビクリと一際大きく身体が跳ね上がったかと思うとまるで小鹿のような足取りでゆっくりと立ち上がる。しかし立つだけでも亀の歩みより鈍く、身体を支える二本足は今にも崩れ落ちそうだ。
明らかに本人の意思を無視した肉体の稼働。その理由はオークの身体に刻まれた『奴隷の烙印』が原因だった。
奴隷の烙印。高位の魔法使いだけが下僕に刻める絶対服従の印。これにより文字通りの奴隷、そして絶対服従となり、主に従う以外の選択肢が無くなる。仮に主の命に逆らおうとも刻まれた烙印に灼熱の激痛が走り、大抵の者はその痛みの前に膝を折る事しか出来なくなるのだ。極稀に強烈極まる意思や、なんと烙印が刻まれた腕を切り落としてまで反逆した奴隷たちもいたようだが、万が一にもそんな事が起こらぬようヘキサディアは手を打っている。
彼女が選んだのは心臓。体表ではなく体内にすら烙印を刻める彼女にしか出来ない芸当だが、これにより反逆のリスクはゼロとなっている。どんな強靭な意思を持つ人間であろうとも心臓という命に直結する場所に走る痛みは耐えられないだろうし、抉り出すなどもっての外だ。もしそれでも死を選ぶというのなら、また代わりを探せば良い。ヘキサディアにとって、奴隷とはその程度の存在だった。
そんな事を考えていると、ドサリと重いものが崩れ落ちる音がする。もはや腹を立てる気力さえ無くしながら音の方を見ると案の定オークがうつ伏せに倒れていた。

「はぁ・・・たった一発で死にかけるだなんて頑丈なオークが聞いて呆れるわ。それともオークそのものがその程度の存在なのかしら?・・・まぁ、どうせ後者だろうけど」
「ブヒュー・・・ブヒュー・・・」

もはや息をするのも精一杯といった様子のオークにヘキサディアはゴミ虫でも見るかのような冷たい視線で射貫くと吐き捨てるように一つの魔法を唱えた。

「『ヒール』」

オークへとかざした手の平が淡い光を放ったかと思うとオークの身体もまた同じ光に包まれ、焼け焦げた身体がみるみるうちに治っていく。数秒もすると光が収まり、完治とはいかないものの最低限生命を脅かすような傷は全て塞がっていた。

「ブ、ブヒ・・・魔女様、ありがとうブヒ・・・」
「何が?お前に死なれてまたオークなんかを捕まえに行くのも面倒だっただけよ。次もお前みたいに扱いやすいヤツとは限らないしね」
「ブヒィ・・・」
「それより、私はもう疲れたから部屋に戻るわ。治ったんならさっさとこの部屋片づけておきなさいよ、この愚図オーク」
「お、おやすみなさいブヒ・・・」

コツコツコツ、とヒールの音を響かせて足早に魔法の実験場から出ていくヘキサディア。残されたオークは未だ全身に残る痛みと痺れに耐えながら掃除道具を取りに向かった。

***

「ブヒィ、ブヒィ・・・や、やっと終わったブヒ・・・」

息を切らせながら磨いたばかりの床に大の字になる。攻撃魔法の実験やら何やらで汚れていた石造りの部屋はすっかり綺麗になっており、チリ一つない。流石に砕けたり焦げたりしている部分はどうしようもないが、それ以外の部分は驚くほど丁寧に磨き上げられていた。
ひんやりとした石の温度で火照った身体を冷やしながら息を整えていると故郷の森にいた頃を思い出す。蒸し暑い夏の日には洞窟でよくこうして涼んでいたものだ。

「はぁ・・・もうこんな生活イヤブヒ・・・森に帰りたいブヒ・・・」

奴隷にされる前の平穏な日々を思い出してしまい、うっかり本音が漏れてしまう。
オークというと粗暴なイメージばかり先行するが、中には穏やかな性格のオークも存在する。そんな彼らは人里では『オーク』がどんな目で見られているかを十分過ぎるほどに知っているため、森の中に引きこもっているのだ。
畑を耕し、獣や魚を狩り、キノコや山菜を採って森と共生する。ここにいるオークもまたそんな生活を気に入ってのんびりと生きていたが、ある日狩りで仲間たちとはぐれてしまい、うっかり森の浅い場所まで出ていってしまった。そこへ現れたのが大きな三角帽をかぶった寒気がするような美人――ヘキサディア。

『あ・・・こ、こんにちは、ブヒ』
『ふぅん・・・?私を見ても襲ってこないし、挨拶出来る程度の知性はあるのね。気に入ったわ』

そう言われヘキサディアがかざした手が薄い水色の光を放ったかと思うと強烈な眠気に襲われ、意識を手放した。そうして次に目覚めた時には既に奴隷の烙印を刻まれており、彼女の下僕として地獄のような日々が始まったのだった。
広すぎる拠点の清掃、食料の調達、力仕事などの雑務。そして何より、魔法の実験台。ヘキサディアは魔法の改良や新開発を生きがいにしているようで、ありとあらゆる魔法を試された。今日のように死にかけた事だって何度もある。最初の頃は何度も何度も逃げ出そうとしたが、その度に刻まれた烙印に激痛が走り、一歩も動けないところをヘキサディアに捕まって余計酷い目を見た。もはや逃げる気力も失せ、ただ彼女に従うしかない日々からどうにか脱却したいと毎日思っているが、あまり頭の良くない自分にはそんな方法が思いつけないだろうと半ば諦めている。
そうため息をつき、掃除道具を持ってとぼとぼと部屋から出ると外に作られたボロ小屋に戻り、粗末な藁の上で目を瞑ると瞬く間に意識が薄れていった。

***

翌日、オークは再びヘキサディアに実験場に呼び出されていた。連日雷に打たれるのかと思うと既に挫けそうになるが、どうあれ奴隷に拒否権などは存在しない。

「ふぅん、傷は完治してるみたいね。あの程度の治癒魔法でも一晩で全快するなんて、相変わらずオークってのは無駄に頑丈ね」
「そ、それだけが取り柄ブヒ」
「誰も褒めてないわよ」

フン、とヘキサディアは不機嫌そうに鼻を鳴らして冷めた視線でオークを貫く。主人はとても気難しい性格のようで、ほんの少し言葉を間違えただけでも機嫌を損ね、苛立ちを顔ににじませる。顔立ちが整い過ぎているせいでその迫力もまたひとしおだ。このままではまずい、とオークは慌てて話題を変える。

「それで、今日は何の魔法の実験ブヒか?ま、また雷ブヒ?」
「あれは昨日の実験で一旦満足したからしばらくはいいわ。今日は魂を身体から抜き出す魔法の実験よ」
「た、魂ブヒ?そんな事出来るブヒか?」
「出来ないわよ。――私以外はね」

ニヤリ、と口の端を釣り上げて不遜に笑うヘキサディア。魂を操る魔法もまた『神への挑戦』と言われる魔法の一つで、その中でも最高難易度を誇る伝説級の魔法だ。現在の魔法技術では魂というものの存在こそ『在る』とされているが、何人たりとも『視る』事すら叶っていない。そんなものをどうやって操るのか、と生涯を研究に捧げてもなお入り口にすら辿り着けなかった魔法使いがごまんといる魔法を、ヘキサディアは扱えるというのだ。

「とはいっても最近魔法式が組み上がったばかりの試作魔法だから、下手をするとそのまま昇天・・・なんて事もあり得るわね。ふふふっ」
「ひ、ひぃ・・・」
「でもこの魔法さえ完成すれば不老不死も夢じゃないわ!飽きるまで永遠に魔法の研究が出来るなんて最高ね・・・!」

うっとりと目を細めて夢想に耽る。あらゆる人間が一度は夢見るであろう不老不死の入り口に足を踏み入れている高揚感にまるで少女のような笑みを零すヘキサディアだったが、そんな彼女にオークは無粋にも水を差してしまう。

「ブヒ・・・?なんで魂を引っこ抜く魔法と不老不死が関係あるブヒ?」
「フン、少し考えれば分かるでしょう。老いていらなくなった身体から若くて新しい身体に魂を移せば事実上の不老不死じゃない。これだから愚図で愚鈍なオークは・・・」
「そ、そういう事ブヒか・・・ごめんブヒ、オデあんまり頭良くなくて・・・」
「主人に対する口の利き方すらなってないブタにそこまで期待しないわよ」

先ほどの屈託のない笑みはどこへやら、再び不機嫌そのものの表情でオークを睨みつける。なまじ高揚していただけにその落差で余計に気に障ったらしい。オークはその大柄な体躯が二回りは小さく見えるほど肩を縮こまらせて萎縮していたが、何故かヘキサディアの言葉を脳裏で反芻し続ける。

(いらなくなった身体から新しい身体に、ブヒ・・・)
「ちょっと愚図オーク、何ボサッとしてるのよ。さっさと始めるわよ」
「は、はいブヒっ!」

ドスの効いた声で睨まれようやく我に返ったオークは慌てて指定された位置に立つ。これまで魔法の実験と言えば同じ立ち位置だったので流石の彼も覚えている。
そうしてヘキサディアはオークへと手をかざし、いつもよりも数段長い呪文をよどみなく唱えて留めていた魔力を解放した。

「『ソウル・リリース』!」

昨日のような激痛を覚悟し、思わず目を瞑る。だが予想に反して痛みは無く、全身がひんやりとした感覚に包まれたかと思うとふわふわとした浮遊感に包まれた。まるで潜っていた川から浮かび上がる時のようだ、とゆっくり目を開けると文字通りの眼前に白くてつるつるとした何かがいっぱいに広がってた。

『ぶ、ブヒィッ?!』

反射的に手で押しのけようとしたが、虚しく空を切る――否、ずぶりと肘の辺りまで飲み込まれてしまった。まさか眼前の怪物に自分の腕が喰われてしまったのか、と恐怖しながら慌てて腕を引き抜いて確認すると二本の腕はしっかり健在だった。

『あ、あれ・・・?オデの腕、付いてるブヒ・・・?』
『何やってるのよ』

と、そんなオークに背後から妙に反響の強い女性の声がかけられた。振り返ると声の主は案の定ヘキサディアだったが、その姿はとても奇妙なものになっている。

『魔女様、なんで裸になってるブヒ?それに何だか透けてるような・・・』
『この私の裸をジロジロ見るなんて、よほどその目玉を抉られたいようねぇ?』
『ブヒイッ?!ごご、ごめんなさいブヒっ!』

にっこり、と圧のある笑顔ですごまれ、慌てて視線を逸らす。と、そこでオークはようやく自分が宙に浮いている事に気づいた。何かの見間違いかと思い周囲を見回しても壁と天井の繋ぎ目が視線と同じ高さにあり、先ほど眼前に現れた白くてつるつるした怪物はただの天井だった事に思い至る。ふと視線を落とすと昨日必死で磨き上げた床が広がっており、真下には鮮やかな緑色をした巨漢――自分の身体がうつ伏せで倒れているのが目に入った。ここまで証拠が揃ってしまえばいくら頭が悪い事を自覚しているオークであっても何が起こっているのか理解する。

『成功してるブヒ・・・本当に魂だけになってるブヒ・・・!』
『失敗よ』

だがそんなオークの言葉は魔法を行使した本人によって遮られる。諸々の疑問点こそ無くなったが、そういえばヘキサディアが一糸まとわぬ姿になっている事だけが分からない。ヘキサディアは説明するのが屈辱らしく、苦虫を嚙み潰したような声色で心底嫌そうに口を開いた。

『・・・魔法が暴発してお前の魂だけを抜き出すはずが私の魂まで抜けたのよ。これじゃあ何の意味も無いわ。全く・・・どうしてこうなったの?ちゃんと対象は絞っていたはず・・・魔力を流しすぎたのかしら?それとも・・・』

ブツブツブツブツ、と一人の世界に入り込んでしまうヘキサディア。こうなってしまった彼女は長く、時には朝から晩まで続けてしまう事もある。うっかり邪魔をしようものなら厳しい罰が飛んでくるのだ。
思わずその痛みを思い出してしまい身震いしたが、邪魔さえしなければむしろこの状態の方が理不尽な命令や魔法の実験台にされない分オークにとってはありがたい。さらに今は魂だけという生物として不自然な状況になっているせいか本能が危機感を訴えており、早めに身体へと戻った方が良いだろう。
そうして床に転がっている自分の身体めがけて慣れない魂で移動――する直前、そのすぐ側で無防備に倒れているヘキサディアの身体が目に入る。普段はその威圧的な視線に怯えているが、改めて観察すると極上という言葉でも足りない程の美人だ。
緩く伏せられた目元のまつ毛一本とっても美しく、肌は彫像のような美麗さと生き物の柔らかさを奇跡的なバランスで両立している。ボディラインも思わず生唾を飲み込まざるを得ない程にグラマラスで、胸やお尻に無意識で視線が吸い寄せられてしまう。
そんな美女の身体が魂を失って抜け殻と化しており、本当の意味で無防備になっている。それを認識した瞬間、オークの脳裏にある言葉が蘇った。

――いらない身体を捨てて、新しい身体に――

『・・・ブヒッ』

チャンスは今しかない。ゴクリ、とあるはずのない生唾を飲み込み、本人に感づかれる前に急いで行動を開始した。
とはいえ魂だけになり空中に浮かぶという何もかも初体験の状況では上手く動けるはずもなく、傍から見れば水中で溺れているようにも見えるほどジタバタとみっともなく手足を動かしてどうにか前に進む。
たった数メートルの距離があまりにも遠くもどかしい。
いつ背後の主人がこの謀反に気づくか背筋が凍り付いて仕方がない。
それでもこの奴隷生活から抜け出す千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかないのだ。
――空っぽになったヘキサディア・ヴァルドドルンの身体を奪うという、文字通り全てをひっくり返せるチャンスを。

『ブヒッ、ブヒッ・・・あと、少しっ・・・!』

少しずつであるが要領を掴み始め、幾分マシに動けるようになりどんどんヘキサディアの身体との距離が縮まっていく。
あと3m。緊張と興奮で今は無いはずの心臓が張り裂けそうだ。
あと2m。ここまで来ればもはや目と鼻の先。
あと1m。精一杯手を伸ばすがほんの少しだけ足りない。
あと――

『何やってるのよっっ!!』
『ッ!』

背後から凄まじい剣幕の怒声がオークの魂を震わせる。とうとうヘキサディアにバレてしまったらしい。もはやこの距離まで詰めて手まで伸ばしているとなると言い訳すら出来ず、元の身体に戻った暁にはあらゆる魔法で消し炭にされてしまうだろう。
何度も何度も受けてきた叱責を浴びてしまい思わず身がすくみあがるが、それをぐっと押し殺してなおも前に進み続ける。事ここに至ってまで彼女の奴隷である必要などないのだから。

『こ、このっ・・・!『止まれ』っ!』

あの巨体を何度も委縮させてきた怒声も無視され怒りのまま『命令』を口にし、主人からの絶対命令はしっかりと奴隷に下された。
だが、しかし。

『は、はぁっ?!なんで止まらないのよっ!奴隷のくせに主人の命令に逆らえるなんてっ・・・!』

命令はきちんと下されたはずだ。しかしなおもオークは手足をばたつかせ、ヘキサディアの無防備な身体へじりじりと近づいていく。と、ここでようやくヘキサディアは自身の失策を悟った。
オークに施したのは奴隷の烙印。『肉体』に刻まれ、命令に反するとその烙印に激痛が走る。つまり、肉体が無ければ何の効果もないのだ。

『ぐっ・・・!ま、待てっ!待てぇっ!』

一瞬魔法で吹き飛ばしてやろうかとも思ったがそれも不可能だろう。魔法を扱うための魔力とは肉体に溜め込まれるもの。ゆえにヘキサディアは自分の身長の倍ほども髪を伸ばし、そこに並みの魔法使いが十年かけて消費するほどの魔力を込めていた。だが肉体無き今その魔力は使えるはずもなく、こうして無様にオークの背を追いかける羽目になっている。
魔法によりその身一つで空を飛ぶ事もあり既に感覚を掴んでいるのかオークとは比べ物にならない程の速度で自分の身体へと戻っていくヘキサディア。だがいくら速かろうとも、指先が触れるまでに迫っていたオークに比べれば絶望的なまでに遅すぎた。

『ブヒ、ブヒヒヒヒッ・・・!』

オークの不気味な笑い声と共にヘキサディアの身体はまるで受け入れるかのように自分よりも大きなオークの魂をずぶずぶと飲み込んでいく。彼女のウエストより太い腕が、山のように広い胴体が、でっぷりとした腹が、丸太のように太い脚が、質量をまるで無視してヘキサディアの細くグラマラスな肉体へと受け入れられていく。彼女本来の魂が辿り着く頃には、ちょうどがさがさとした足の指先まで完全に呑み込まれた後だった。

『ッッッ~~~!!!汚らわしいオーク風情に、この私の身体が奪われるなんてっ・・・!ふざけるんじゃないわよっ!!』

はらわたが煮えくり返り、溢れ出す怒りのまま怒鳴りつけても既にオークの魂は身体に入り込んだ後。一体どうすれば、と沸騰した頭で考えると彼女の優秀極まる頭脳は瞬時に答えを導き出した。

『っ、そうよ、私も身体に戻ってあの豚を追い出せばいいのよ!私の身体からすればあんなのは異物なんだから追い出すのも簡単ね』

目の前で身体を奪われた事でらしくもなくパニックになっていたようだ、と一瞬前の自分を嗤いつつ妙案を思いついた事で幾分か冷静さを取り戻す。あまりのんびりしていると本当に身体の主導権を握られてしまうかもしれない、と早速自分の身体に手を伸ばし、そのまま潜り込む――寸前、ぐんっ、と凄まじい力で身体が後ろに引っ張られた。

『な、なにっ・・・?!きゃあっ!?』

まるで嵐の中を無理やり飛んで暴風に弄ばれているかのような絶対的な力。どうにか堪えつつ吸い込まれている発生源を振り返るとそこにはオークの巨体が倒れ込んでいた。
ヘキサディアは知る由も無いが、魂を失った肉体はその欠落を埋めようと本能的に魂を求める。例えそれが本来宿していた魂であろうと無かろうと、とにかく目の前のそれを受け入れてしまう。そしてその求める力は、本能が強ければ強いほどより貪欲になる。

『いや・・・イヤぁっ!オークなんかに、オークなんかの身体になりたくないっ!』

普段の尊大な態度もかなぐり捨ててまるで少女のように泣き叫ぶヘキサディア。だがそれでもオークの身体は目の前の魂を求め続け、自身に取り込まんと貪欲に誘う。
しばらくは恐怖と嫌悪で耐えられていたもののとうとうヘキサディアに限界が訪れ、その魂はずぶずぶとオークの身体へと吞み込まれてしまった。

『いや・・・い、や・・・』

眩んでいく視界の中、まるでぶかぶかで重い服を無理やり着せられているかのような違和感でうわ言のように呟きながら意識を手放した。

***

深い深い闇の中、断続的に聞こえる声でゆっくりと意識が浮上していく。意識が鮮明になるにつれて聴覚も明瞭になり、その声がどこか上ずった女性のものだという事が分かった。だがその声はとても女性が出すとは思えない品のない声色であり、よくよく聞けば「ブヒッ♡ブヒッ♡」とまるで豚の鳴き真似をしているかのようだ。
その声の主が一体何者かは分からないが自分にそんなみっともなく下品な声を聞かせたからにはただでは済まさない、と『ヘキサディア』は妙に重く感じる身体を起こし、霞む視界を数度の瞬きで晴らすと未だにブヒブヒと鳴いている女の方を向き――信じられない、信じたくない光景に自分の目を疑った。

「・・・は?」

『ヘキサディア』の目の前にいたのは紛れもなくヘキサディア。生まれてからずっと水面や虚像の中にしかありえなかった「ヘキサディア・ヴァルドドルン」その人が目の前にいたのだった。
だが姿形こそ本物としか思えないが、それ以外の全てが自分では決して行わないような痴態を繰り広げている。
ガパッ、とみっともないほどの大股を開いて座り、その背は猫のように丸められている。白く細い指はまるで物を扱うかのように自身の胸を乱暴に揉みしだいており、ぐにぐにとまるでスライムのように力が加わっただけその形を歪めていた。
それだけでも見ていられない程だというのに、それ以上の無様を晒しているのがその表情。瞳孔は開き、小鼻を膨らませ、鼻の下を伸ばして開いた口からはとめどなく涎を垂らしている。いくらヘキサディアが背筋も凍るほどの美女とはいえ、そのような性欲丸出しの表情をしていては何もかも台無しになるだろう。
自分の身体に欲情し、性欲に塗れた男のような表情で一心不乱に自分の胸を揉みしだく痴女。今のヘキサディアは誰がどう見てもそんな印象を抱くだろう。
そんな「自分」の痴態に何がどうなっているのだ、とただただ混乱するしかない『ヘキサディア』だったが、思わず伸ばした手が視界に入った瞬間再び凍り付く事になる。

「な、何よこの手・・・げほっ、んんっ、こ、声も・・・?」

普段の白く細い指とはかけ離れた、ゴツゴツとした太ましい「緑色」の指。声も高く透き通ったものとは程遠い、ガラガラとした低く威圧感のある声。思わず喉に手を当てればゴリッと硬い喉仏の感触がし、必然的に下がった視界に入った光景で全てを理解した。――理解してしまった。

「あ・・・あ、ぁ・・・」

でっぷりと突き出した腹。
全身から臭う獣臭。
粗末な腰布。
緑色のがさがさとした肌。

「や・・・いやっ・・・」

思わず顔に手を当てれば普段の倍ほども横幅があり、突き出した顎からはつるつるとした硬いもの――鋭い牙が伸びている。

「いやあああああああああああああああああああ?!」

ようやく自分に何が起こったのかを理解し、『ヘキサディア』は――オークは野太い絶叫を上げた。
と、そこで自分の胸を夢中で揉みしだいていたヘキサディアはようやくオークが目を覚ました事に気づいたらしく、胸から視界を外してオークの方を向きニタニタと歯を見せながらいやらしく口の端を歪めて笑った。

「ブヒヒ、やっと起きたブヒか?アンタの身体、おっぱいでっかくて柔らかくて最高ブヒ♡」

ぐにぃ、むにゅんっ、もみゅんっ♡とまるで見せつけるように胸を乱暴に揉みしだく。この身体は、この胸はもはや自分のものなのだとでも言いたげだ。
そんな知性も品性も無い言葉と表情で自分の身体を穢される事に耐えかねたオークはいつも通り奴隷への折檻を行うべく、ほとんど反射的に魔法を唱えていた。

「『パニッシュメント』!!」
「ぶ、ブヒィッ?!」

己を何十、何百と痛めつけてきた罰の言葉にヘキサディアは本能的に身を縮め、丸まりながらガタガタと怯える。だがいつまで経ってもあの全身くまなく鞭を叩きつけられたような激痛に襲われず、ゆっくりと顔を上げると信じられないという表情をした「オーク」が諦め悪く何度も叫んでいた。

「な、なんであの豚に効いてないのよ・・・!『パニッシュメント』!『パニッシュメント』ッ!!」

半ば悲鳴のように叫んでもなお奴隷への罰が下らず、徐々にオークの苛立ちは激しくなりその事だけに固執してしまう。だがヘキサディアはなぜ自分にいつもの罰が効かないのかを目の前の「オーク」を見て薄々だが感づいていた。

(もしかして、魔女様がオデになってオデが魔女様になってるから主従関係まで変わってるブヒ?だとしたら・・・)

何故かいつもより淀みなく思考が回り、「主従関係」という普段であれば知りもしない言葉さえ浮かびながら一つの結論に至る。そこから繋がった仮定を試すべく、その艶やかな唇を震わせた。

「『パニッシュメント』、ブヒ」
「っ?!うあああぁぁぁあああぁあぁ?!?」

先ほどまでオークが散々喚いてた言葉をそっくりそのまま唱えた瞬間、オークが絶叫を上げながらのたうち回る。傷一つない外見からは想像も出来ないが、彼の全身には筆舌に尽くしがたいほどの激痛が駆け巡っている事をヘキサディアは「身をもって」よく知っていた。
今まで自分が散々されてきた仕打ちをそのまま相手に返せた事で確信する。ただ身体が入れ替わっただけでなく、主と奴隷という立場すら入れ替わっているのだと。

「ブヒ、ブヒヒヒヒ・・・!ほ、本当にオデが魔女様になって、魔女様がオデになってるブヒ・・・!」
「ひゅっ・・・ひゅっ・・・こ、この、豚がぁぁぁ・・・!」

痛みで朦朧としながらも怒りと殺意を向けてくるオークの視線をヘキサディアは涼しい顔で受け流す。なにせ目の前の相手は自分に絶対服従の「奴隷」で、何を吠えたところで自分がたった一言命じるだけで何も出来なくなってしまうのだから。

「これからオデはこのでっかいおっぱいをモミモミするブヒ。だから、『絶対に邪魔をするな』ブヒ!」
「っ?!」

ヘキサディアがそう「命じた」瞬間、オークの全身がまるで見えない鎖で雁字搦めにされてしまったかの如く重くなる。後ろに下がる、手を上下させる、などの動作はいつも通り動くくせに、ヘキサディアの方へ向かう――彼女の行動を阻害しようとした瞬間身体が一切言う事を聞かなくなるのだ。
豚と見下していた奴隷に身体を奪われるどころか自分がその奴隷の立場となり、「主人」の命令に逆らえない。その純然たる事実が何より高いプライドをズタズタに引き裂いていくが、そんなオークの屈辱を他所にヘキサディアはさらに鼻の下を伸ばして胸元の肉鞠を乱雑に揉みしだき始めた。

「ぶっひょお~~♡♡やっぱりこのおっぱいたまんないブヒ!ずっしりと重くて、スライムみたいに柔らかくて、チンポ弄るみたいに気持ち良いブヒ♡」

まるで物でも扱うかのような手つきでひたすらに揉む、揉む、揉む。
ぐにぃ、ぐにゅんっ、むにぃ、と変幻自在に形を変えるその果実はあまりにも蠱惑的で見ているだけで本能を揺さぶる。牛の乳を搾るように掴めば細長く伸び、果実のように握り潰せば指の間からみちみちと肉が零れ、両側から圧迫してやれば谷間に凄まじい密度が生まれた。揉み、掴み、握り、寄せ、こね、揺らし、また揉んでも一切「飽きる」という感情が湧かず延々と新鮮な情欲を掻き立ててくる。そんな極上という言葉でも足りないような双丘が自分の、自分だけの物であるという事実だけで軽くトリップしてしまいそうだ。
何より素晴らしいのはそれがまだ半分だという事。流動的に形が変わり続ける事も、細く繊細な指先に感じる柔らかさと弾力も、あくまで「揉む」側の快感だ。この手のひら程度には収まらぬ巨大な塊二つが自分に付いているという事は当然「揉まれる」側の快感もあるという事だ。
指先が1cm沈む度にじんわりとした快楽が全身を巡る。男の硬い胸板からでは決して得られない心地良さに思わずうっとりと目尻が下がって口が半開きになってしまう。逸物を扱き上げるようなゾクゾクとした強い快感ではないものの、じんわりと全身に広がり身体の火照りが徐々に強くなっていくこの感じも悪くない。むしろ身体をゆっくりと性欲の炎が支配していく味わい方は新鮮で癖になりそうだ。
どうやら『ヘキサディア』の身体は敏感かつ欲求不満だったらしく、ぐにぐにと胸を揉みしだくだけで身体が悦んでいるのが分かる。だとすれば、こんな身体で性欲を持て余していた元主人は愚かだと言わざるを得ないだろう。研究にばかり没頭して身体の声を聞かず満足させられないなど、この至高の肉体に失礼だというものだ。その証拠に、新たな主人を得た肉体は今まで溜め込んでいた情欲を発散出来る事に感激し、ショーツがぐしょぐしょになるほど涙を流しているのだから。

「ブヒっ♡♡ブヒっ♡♡ブヒヒっ♡♡」

ニタニタとその美しさが台無しになるほど性欲で顔を歪めて自分の胸を夢中で揉み続けるヘキサディア。そんな「自分」の痴態を見せつけられているオークの心中は当然のように憎悪の炎で荒れ狂っていた。

(ッッッ~~~!!!あ、あ・・・あの、豚がぁっ!!殺すっ!!絶対に殺すっ!!元に戻ったら死んだ方がマシなくらいのありとあらゆる苦痛を与えてやるっ!!!)

脳が焼き切れんばかりに怒りを巡らせ、視線だけで射殺せるほどの迫力でヘキサディアを睨みつける。皮肉にもその姿はまさしく人々から畏怖される「オーク」そのものの姿だったが、頭の芯まで茹で上がっているオークには気づく余地もなかった。
だがそんな特大級の憎悪が注がれる視線はヘキサディアのだらしない表情を浮かべた顔ではない事に本人はまるで自覚がなかったが、当のヘキサディアはすぐに気が付く。「女性」とは往々にして「男性」からのそういう視線には敏感だった。

「んー?ブヒヒっ、魔女様、どこ見てるブヒか?そんなに『オデのおっぱい』が気になるブヒ?」
「っ?!は、はあっ!?そ、そんなわけないじゃない!私がそんな下劣なオークみたいな真似するわけないでしょう!?」

反射的に否定をするが、その語気はいつも以上に荒く焦ったものになっていた事が嫌でも分かってしまう。オーク自身、ヘキサディアの指摘でようやく自分が彼女の変幻自在に形を変える巨大な柔肉しか見ていなかった事を自覚したのだから。

「魔女様、ウソは駄目ブヒ。いっつもオデにキツーく言ってるブヒ?ウソついたらお仕置きするって」
「だから嘘なんかじゃっ・・・!」
「いーやウソブヒ。――だって魔女様、そんなにチンポ大きくしてるブヒ♡」
「は・・・?っ?!い、いやぁっ!?な、なによこれぇっ!?」

ヘキサディアが心底楽しそうに指したのはオークの股間――そこではち切れんばかりに勃起していた逸物。成人男性の倍はあろうかという長さと大きさに加え、まるでミミズのように太い血管がそこかしこに走っている。黒々とした巨体を悠然と屹立させたそれはあらゆる生物に男女問わず畏怖を与え、オスとしての絶対的な強さを誇示していた。
一度自覚してしまったそれは否応なく意識させられてしまい、一度心臓が鼓動する度にズクン、と逸物も震え、その凶悪極まる肉棒が紛れもなく自分のものだと理解してしまう。その事実にオークの女としての自尊心がガラガラと音を立てて崩れ去っていった。

「ブヒヒヒヒっ♡魔女様、もしかしてオデのオナニーに興奮したブヒか?まぁでもしょうがないブヒ。オデだって最初の頃は毎日魔女様のでっかいおっぱい見せつけられて勃起を隠すの大変だったブヒ♡」
「す、するわけないじゃない!自分の身体に興奮なんて!これはっ・・・その、そう!お前の・・・オークの豚以下の醜い性欲が勝手に反応しただけよ!」

それでも「元自分の身体に興奮した」という事を決して認めたくないオークは必死に反論を紡ぐ。それを認めてしまえば、心までオークに成り下がった事を意味してしまうのだから。
そんな確たる証拠を突き付けられてもなお否定してくるオークにヘキサディアは一度嘆息すると少しだけ何かを考え――一瞬で閃いたアイデアを即座に実行した。

「じゃあ・・・こぉーんな事をされても興奮してないって言えるブヒ?」

そう言うとオークは話している間もずっと揉んでいた胸からようやく手を放し、あるポーズを取る。
興奮の汗で蒸れた脇を見せつけるように手を頭の後ろで組み、わざとらしいまでに脚を大股に開いてナニかを受け入れるかのような態勢になり、腰をへこっ♡へこっ♡と振って目の前の相手の獣性を挑発する。よく見れば左右の胸中央にそれぞれはっきりと突起が浮かび上がり、股間の辺りは水分を吸って明確に色が濃くなっていた。
娼婦でも躊躇ってしまうような、下品という言葉でさえ物足りないようなガニ股スクワット。それを隔絶的な『美』を誇る体形のヘキサディアが行えば、そのギャップであらゆる男が我を忘れて彼女に襲い掛かるだろう。当然それは人間の数倍もの性欲を秘めるオークも例外ではなく、いくら中身が元女性であろうとも身体に刻まれた本能がはっきりと顔を出した。

「っ!!!」
「・・・ぷっ、ブヒャヒャヒャヒャ!!ま、まさかそんな必死に見てくるとは思わなかったブヒっ!お、おまけにそんな鼻血まで出してっ・・・!ブヒっ、おっ、おもしろすぎるブヒっ!ブヒャヒャヒャヒャ!」
「~~~ッッッ!!?」

言葉すら発さずに血走った目を見開いて全身を舐め回すように見つめてくるオークの姿が余程お気に召したのか、服が汚れるのも構わず腹を抱えながらゲラゲラと床で笑い転げるヘキサディア。聡明な彼女とは正反対の品の無い馬鹿笑いだったが、それこそ今の彼女の性格そのものだった。
普段の自分では天地がひっくり返ってもやらないような大口を開けた笑い方で嘲笑された挙句、未だに自分の豚鼻から流れてくる鼻血も止まらないせいでオークの胸中は恥辱で埋め尽くされ、これ以上なく表情が歪む。あの馬鹿笑いを殴り飛ばして一秒でも早く止めたい。こんな豚の身体など捨てて早く自分の身体を取り戻したい。だが先ほどのヘキサディアの『絶対に邪魔をするな』という厳命が未だに彼の身体を縛り付けていた。

「ぶひーっ、ぶひーっ・・・あーあ、笑ったブヒ。まさかあの偉そうな魔女様が自分の身体に興奮するスケベだったとは思わなかったブヒ♡案外その身体も似合ってると思うブヒよ?」
「ほざくなっ、この豚・・・!身体を取り返された後にその態度を後悔しても遅いわよ・・・!」
「ブヒヒ、怖いブヒねぇ。でも今から魔女様も気持ち良くしてあげるから許して欲しいブヒ♡」

主人の身体を奪い、奴隷という立場を押し付けて調子付き出しているヘキサディアは畳みかけるような行動を起こす。オークに仰向けで寝転がるよう命令するとやや苦労しながらもまとっていた薄いローブの胸元をずらすとしっとりと汗をかいた胸を露出させた。サイズに比例してやや大きめの乳輪やほとんど弄られた形跡のない綺麗な桜色の乳首に思わず視線が奪われてしまったオークだが、それがあてがわれた先に絶句する。

「ちょっと?!何をする気よっ!?私の胸をそんな汚らわしいモノに触れさせて良いと思ってるの?!」
「汚らわしいとか酷いブヒ。それは魔女様がこれから一生付き合っていく「相棒」なんだから仲良くして欲しいブヒ!」

それは豊かな双丘の谷間で逸物を挟んで扱き上げる、いわゆるパイズリ。暴力的なまでのサイズを誇るヘキサディアの双丘も当然可能だが、オークの逸物もまた尋常のサイズではないので彼女ほどの大きさをもってしてもなお全ては包み込めなかった。
だがそんな事はまるで気にせず、ヘキサディアは位置を微調整しながら心底楽しそうに語る。

「前にオデの村の森でニンゲンたちがこんな感じでおっぱいでチンポ挟んでたブヒ。オデはこっそりそれを見てたけど、すっごく気持ち良さそうだったブヒ♡オデもいつかでっかいおっぱいでチンポ挟んで欲しいって憧れてたけど・・・まさか自分でやるとは思わなかったブヒ♡」
「や、やめろって言ってるじゃないこの愚図オークっ!私の胸をそんな気持ち悪い事に使わせっ・・・あっ?♡♡」

唾を飛ばさんばかりに怒りでわめいていたオークだったが、か細い声を漏らしていきなり押し黙る。ぎゅむっ♡と胸の両側からかける圧を少し強められただけだったが、それでもオークのガチガチに勃起した逸物はその感触を余すところなく持ち主へと伝えた。

(あ、あったか・・・やわらか、きもちいいっ・・・?!な、なんなのよっ、これぇっ・・・!♡♡)

はみ出した部分を除き逸物全体に吸い付くようにして密着してきた柔肉は元自分の物であったはずなのに今まで感じた事もないような顔を覗かせる。
人肌特有の本能的に最も安心出来る温かさ、鋼のような硬度で勃起する逸物とは真逆のどこまでも沈み込んで受け入れてくれる柔らかさ、さらにその奥では程良い抵抗の弾力が押し返し、手で触れていた時からは考えられないほどの極上の快楽を生み出していた。
ただでさえ性欲や性器からの快楽が強いオークの身体に押し込まれた事に加え、それを感じる精神が受け止めるにはあまりに未熟だった事もあり、ただ挟まれただけでビクビクと今にも中身を吐き出しそうなほど逸物が震えている。それをどうにか押し留めているのはひとえにオークのプライドの高さゆえだった。

「んぎぃっ・・・♡♡っぐ・・・♡♡こ、こんなものかしら?お前の口ぶりから相当の快楽が得られると思っていたのだけれど・・・所詮オークが憧れる行為はこの程度ね。私からすればこんなものを耐える事なんて造作も・・・」
「ん?何言ってるブヒ?今から始めるところブヒ」
「へっ・・・?」

耐えきった、オークの性欲に意志で抗った、奴らが性欲に流されているのは所詮その程度の知能と思考しか持ち合わせていないからだ――と内心勝ち誇っていたオークに向けられたのはあまりにも絶望的な宣告。ヘキサディアの反応も全くの「素」で騙そうという思考はこれっぽっちも無い事が分かってしまい、オークは間抜けな声を出してしまった。
そんな彼の思考の空白を知ってか知らずか、その隙にヘキサディアは記憶の隅に焼き付けられていた憧れのパイズリを見様見真似で始めた。

「んっ、しょっと・・・確かこうやって、おっぱいでチンポをゴシゴシしてやるブヒ。こんな事考えるなんてニンゲンはヘンタイブヒ♡」
「んあぁっ?!♡♡♡っっうぅぅっ・・・!♡♡♡まっ、やめっ・・・!♡♡♡」

ヘキサディアの豊満な肉鞠で擦り上げられる度に挟まれた時の数倍の快楽が走り、ゾワゾワと腰が砕けて全身が強張る。その温かさも柔らかさも弾力も肌触りも全て性器という敏感極まる部位で体感させられ、性欲のボルテージが一気に燃え広がった事を嫌でも自覚してしまった。
理性は今すぐやめろ、身体を返せ、と確かな本音で叫んでいるのだが、それと同じかより強く身体はもっと気持ち良くなりたい、目の前のメスを味わいたい、と叫んでおり、その板挟みにされてしまったオークはただひたすら歯を食いしばって耐える事しかできない。一瞬でも気を抜けばその瞬間全てが本能に吞まれてしまうだろう、という恐怖と確信があった。
だがそんなオークの必死の抵抗も虚しく、ヘキサディアのパイズリは徐々に要領を掴んでいく。

「ふっ、くうっ・・・なんとなく分かってきたブヒ。こうやって、おっきく動かしてっ・・・両側からむぎゅ~ってするとチンポがビクビクするブヒ♡」

最初の方こそ動きがぎこちなかったものの、普段の手際の悪いヘキサディアからは考えられないほどのペースで上達していく。だぱっ♡だぱっ♡と胸の肉を総動員して上下させ、挟み込む時にしっかりとした乳圧で押し潰し、胸全体を平たく変形させながら逸物全体を扱き上げる。ただでさえそこらの娼婦など足元にも及ばないほどの大きさと張りを誇っているヘキサディアの胸で行われているパイズリに効率よく刺激を与えるテクニックすらも加わってしまえば、それはある意味あらゆる男を虜にしてしまう『魔法』足りえるだろう。
そんな、一擦りの度に快楽が増していく『魔法』を延々と――ただし未だ五分と満たない――受け続けるオークの様子はもはや悲惨なものだった。

「~~~?!♡♡♡ッッ!!♡♡♡ッッ~~!!♡♡♡」
「ブヒヒヒヒッ♡魔女様もとっても気持ち良さそうブヒ♡やっぱり魔女様にはオークのチンポがよく似合ってるブヒね♡」

折れそうなほど奥歯を噛みしめ、口の端から唾液を零して目を潤ませながらもすんでのところで身体の奥底から今にも溢れ出しそうな衝動に抗っていたオークだが、それももはや時間の問題だった。

(お゛っ♡♡♡おっぱいきもちいいっ♡♡♡こんなっ♡♡♡こんなオーク如きの身体にっ♡♡♡オーク如きの性欲にっ、負けたくないのにぃっ・・・!♡♡♡おっぱいあったかくて、やわらかくて、ぷにぷにでっ・・・も、もうだめぇっ?!♡♡♡)

どこか遠いところでぷつん、と糸が切れたような感覚がした途端、今までせき止めていたはずの衝動が濁流となって身体の奥底から襲い掛かってくる。それは全身へと波及し、特に下半身――股間の逸物へと直撃した。本能的に力を込めて抑えていた逸物が弛緩し、グラグラと溶岩のように煮えたぎった「何か」がもう限界とばかりに尿道を駆け上がって外界へと一息に飛び出す――

「ッッッ~~~?!?!♡♡♡」

かと、思われたが。

(にゃっ♡♡♡にゃんでぇっ?!♡♡♡イってるのにっ♡♡♡イってるのになんでイけないのぉっ?!♡♡♡)

全身は確かに絶頂した時の快楽が走っている。だがそれが圧倒的に足りておらず、何より最も強い衝動を持て余している逸物が金縛りにでもあったかのように動きを止めてしまっているのだ。もっと具体的に表すならば、「何か」が尿道を駆け上がって外へと飛び出そうとした瞬間逸物の根本がまるで紐か何かで締め上げられたかのように閉じ、そこで全てが押し留められしまった。
絶頂しているのに絶頂出来ない。そんな生殺しの状況の答えをヘキサディアは実に楽しそうに話し出す。

「おっ、魔女様もしかしてイったブヒ?でも残念ブヒ、オデは――オデの身体は絶対にチンポから精液出せないようになってるブヒ♡他でもない、魔女様自身が『命令』してきた事ブヒ?♡」

そう言われた瞬間、オークの脳裏にある記憶が蘇る。
それはオークを奴隷にして数日経った日の事。朝起きて顔を合わせた瞬間とてつもなく不快な臭いが鼻にまとわりついてきたのだ。その原因はオークが昨日の夜に自慰で射精した時の残り香だと判明するや否や怒りのままに『射精禁止』の命令を下した事を。

「っ!!」
「思い出したみたいブヒ?そのせいでオデはいっつも精液出なくて辛かったブヒ。せっかくだから魔女様もその辛さを味わって欲しいブヒ♡」
「はぁっ?!ふ、ふざけるのも大概にぃっ?!?♡♡♡」

ヘキサディアの宣言に怒りでいくらか理性を取り戻し、反射的に怒声を返すがそれも途中で裏返った嬌声に変わる。絶頂したばかりの逸物に向かってヘキサディアが容赦なくパイズリを再開したせいだった。

――五分。
「ブヒヒッ♡もう完全にやり方をマスターしたブヒ!そらそら、自分のおっぱいはどうブヒかぁ?♡」
「や゛めろぉっ♡♡♡このっ、愚図がぁっ?!♡♡♡」

――十分。
「汗と我慢汁でおっぱいの間がぐちょぐちょブヒ♡でもその分ぬるぬるしてやりやすくなってるなってるブヒ♡」
「あ゛ぁっ!♡♡♡んぎぃっ?!♡♡♡」

――二十分。
「あーあ、ひどい顔ブヒ。いくらオデの顔でも嫌になるブヒ・・・」
「ッッ?!♡♡♡~~!!♡♡♡」

そして、三十分が経過したころにようやくオークはヘキサディアのパイズリから――地獄のような快楽から解放された。

「ふぅー・・・これ意外と疲れるブヒ・・・おっぱいがもうぐちょぐちょブヒ」
「はっ♡♡♡はぁっ♡♡♡はぁっ・・・♡♡♡」

手をプラプラと振りながら谷間にまとわりつく粘液に顔をしかめるヘキサディア。対してオークはようやく全身を苛む快楽から解放された事で息も絶え絶えに天井を眺めていた。
ただの一度も射精をしていない――否、出来なかったせいで肉体的にはともかく精神的に凄まじい疲労感が襲ってくる。だがそれ以上に胸中を占めていたのは地獄とさえ思えた行為への欲求だった。

(なん、でっ・・・♡♡あんなに辛かったのに、あんなに苦しかったのに・・・なんで「アレ」をもっとやって欲しいって思ってるのよぉっ・・・!?♡♡)

やられている最中は声も出せず芋虫のようにのたうつ事しか出来なかったのにも関わらず、いざやめられると「もっと欲しい」「もっと気持ち良くなりたい」という下卑た欲望が身体の奥底に眠る本能から溢れて止まらない。それは元々彼が最も嫌悪する類のもので屈辱に震えるが、そんな精神の声などおかまいなしに逸物は物欲しそうにビクビクと己を揺らしていた。
そんなオークの様子をヘキサディアはニヤニヤと馬鹿にするような笑みを浮かべて目ざとく見咎めた。

「ブヒヒヒヒッ♡なんだか物足りないって顔してるブヒ。そんなにオデの・・・オークのチンポが気に入ったブヒ?♡」
「は、はあっ?!そんなわけないでしょう!?目玉が腐ってるのかしら!」

罵詈雑言が元自分の肉体に向けられるという事にも気づかず、咄嗟にそう反論してしまうオーク。あまりにも的確に心中を言い当てられ動揺のあまり口をついて出てしまった言葉だが、その態度こそ図星だと言わんばかりにヘキサディアは余裕の笑みを崩さずにオークへと近寄った。

「強情すぎるのも考えものブヒ。じゃあ・・・こんなのはどうブヒ?」
「な゛っ・・・?!」

それは性的興奮でゆだっていたオークの頭すら一瞬で冷やす行為。
ヘキサディアは大きく股を広げて腰を落とし、己の秘部にオークの勃起した逸物をあてがっていた。

「さっきから魔女様ばっかり気持ち良くなっててズルいブヒ。オデのチンポ・・・じゃなくて、マンコもびしょ濡れでもう我慢出来ないブヒ♡」
「おっ、お前っ・・・!それは、それだけはやめろぉっ!私の身体を下劣なオーク如きと交わらせるなぁっ!」

目を剝いて半狂乱で叫ぶオーク。これまで気まぐれで顔のいい男に抱かせてやった事もある身体だが、オークなどという人語を解する獣風情と交わる気など毛頭なかったし、そもそも触れていいものですらない。誰に見せる触れさせるものでもないが、毎日丹念に磨き続けてもはや芸術品の域にまで達したと自負するほどの圧倒的な『美』を体現するその肉体に絶対の自信と誇りを持っていた。そんな至高の身体が獣と「交尾」させられそうになるとあっては誰であってもそういった反応を示すのは道理だが、その獣であるオークの身体になってしまった『ヘキサディア』はそれと同じかそれ以上の理由で強い拒否感を示していた。

(胸だけであんなに気持ち良かったのに・・・女性器まで知ってしまったら絶対に戻れなくなるっ・・・!私が私じゃなくなって、『オーク』になってしまう!!)

脳裏によぎるのは先ほどの快感。ただでさえ男性器からの快感は初めてだったというのに、それが全生物の中でもトップクラスで性欲の強いオークのものを感じてしまったのだ。その感覚はもはや魂の奥底にまで刻まれてしまい、身体は今もなお目の前のメスを犯す事しか考えていない。それをどうにか押し留められているのはオークの性欲に屈してなるものかという最後にして最大のプライドゆえだったが、それももはや風前の灯火に過ぎない。もし本当に挿入させられてしまえば、と考えるだけでどうにかなりそうだった。
しかしそんな葛藤を毛ほども考慮しないヘキサディアはニタニタと歯を見せたいやらしい表情で嘲笑う。

「ブヒヒ、そんな事言われてももうオデはセックスしたくてたまらないブヒ♡メスはオスの何倍も気持ち良いって言うし、早くマンコにチンポを突っ込んでみたいブヒよ♡それに、さっきからおっぱいモミモミしてたりマンコ触ったりして気持ち良くなる度になんだか頭が冴えてくるような気がするブヒ。つまりこのままセックスしたらオデも魔女様みたいにかしこくなれるブヒ!」

理屈も分からないまま知りもしなかった語彙で上機嫌に話す。
「この身体」を奪ってからというもの、自分の中に無かったはずの知識やできもしなかった考えが次々に浮かんでくる。自覚出来るほどに鈍い頭だったはずが今や思考がすらすらとよく回り、複数の事を同時に考えられるまでになっていた。とりわけ胸や秘部を弄り回して性的快楽を得た時により洗練されていっているので、もしそれらを遥かに凌駕する快感――すなわちセックスまで味わってしまったのならば、その時は自分こそが『ヘキサディア・ヴァルドドルン』になれるのだと朧気ながらも確信していた。

「魔女様のチンポもセックスしたいって言ってるブヒ。元持ち主のオデが言うんだから間違いないブヒ♡」
「い、言ってないわよ!いいからやめっ・・・!」
「もう遅いブヒ♡」

ずぐりゅんっ!という異音がはっきりと響く。まるで小さな穴には入りきらないほど大きなものを力ずくでねじ込むような不快な音。一瞬遅れてオークの逸物に火傷しそうなほどの熱と凄まじい圧迫感が訪れた。元々限界まで刺激されていたオークはそれだけで射精しそうになってしまったが、やはり主人からの絶対命令により無理やり押し留められてしまう。
一瞬のうちに訪れた熱と圧迫、そしてパイズリなど遥かに凌駕するほどの快楽に頭が真っ白になるが、滲んだ視界で確かに目撃してしまった。先ほどまで不快なほどに視界でその存在を主張していた逸物が、八割ほどもヘキサディアのナカに「吞み込まれて」いる事を。

「いっ、いやああああああああ?!抜けっ!抜いてぇっ?!♡♡♡」
「お゛っ?!♡♡♡う゛ぉ、ほお゛っ・・・!♡♡♡」

裏返った野太い声で絶叫するオークだったが、その懇願はヘキサディアに届いているかも怪しい。あまりに尋常ではないサイズの逸物を無理やりねじ込んだせいか目はほとんど白目を剥き、成人男性どころかオークにも負けず劣らずの野太い声で掠れた喘ぎ声を漏らすので精一杯、というような有様だった。今まで喰らってきたものとは比べ物にならないほどの太さと長さを誇る逸物は当然のように根本まで届いておらず、ミチミチと今にも裂けそうなほどに秘部が拡張されてもなお下腹部には逸物の形がぽっこりと浮き上がっている。普通の女性であれば快楽よりも苦痛や恐怖が勝って泣き叫んでしまうほどの光景だが、それでもなおヘキサディアの身体は確かな快楽を生み出していた。

(しぬっ♡♡♡チンポで死ぬブヒぃっ♡♡♡でも、でもぉっ♡♡♡身体が悦んでるのが分かるブヒっ♡♡♡)

ヘキサディアの肉体が最後に男と交わったのはもはや数十年も前の話。さらに元の主はあろうことか研究に没頭し、身体を慰めてやるのは自身のストレスが溜まった時のみという身勝手さだった。そんな男日照りで際限なく性欲を溜め込んでいた身体が逸物を受け入れてしまえば、いかに異常なサイズといえども魂がトリップしてしまうほどの膨大な快楽を悦んで生み出してしまうのも無理はない話だった。

「う、ぐぅっ・・・!♡♡♡は、早く抜きなさいこの愚図オークっ!♡♡♡い、今ならこれまでの事を全部許してやるからっ!♡♡♡早く抜きなさいっ!♡♡♡」

逸物から生み出されてしまう尋常ではない快感に意識と理性を持っていかれそうになりながらも懸命に奥歯を食いしばってそれらを保ち、「奴隷への命令」を口にする。だが悲しいかな、オークはそのプライドに固執するあまり未だに理解出来ていなかった――否、理解を拒んでいた。もはや自分がその「命令される奴隷」であるという事に。

「ブヒューっ・・・♡♡♡ブヒューっ・・・♡♡♡こ、これがメスのマンコブヒ・・・?♡♡♡こんなのやめられるわけないブヒっ!♡♡♡『このままセックスする』ブヒっ!♡♡♡」
「っ?!お、お前っ・・・!っぐぅぅぅっ?!♡♡♡」

ほとんど無意識で出た言葉ではあったもののヘキサディアの言葉はしっかりと奴隷の烙印に伝わり、オークの身体は持ち主の意志を無視して腰を振り始める。ヘキサディアもまた小鹿のように足腰を震わせながらも身体を持ち上げ、全体重をかけて杭を打つようにピストンを開始した。

「お゛ほっ♡♡♡お゛っ♡♡♡んほぉ゛っ?!♡♡♡お゛ぁっ!♡♡♡」
「んいぃっ?!♡♡♡ぎっ、いっ!?♡♡♡っっ~~!?♡♡♡」

片やオークも真っ青な野太い声で喘ぐ「メス」。片や迫り来る怒涛の快感に歯を食いしばって理性を飛ばさないよう耐える事しか出来ない「オス」。好意も愛もない、ただひたすらに欲だけが存在する原始的な『交尾』がそこでは繰り広げられていた。
――そうして濁流の如く全てを押し流すような快楽の中で、お互いは自分の中に起こっている変化を明確に認識していた。

「お゛っ♡♡♡んお゛っ?!♡♡♡す、すごい、ブヒっ♡♡♡どんどん、魔法の事がっ♡♡♡『思い出せる』ブヒっ♡♡♡」

ヘキサディアの頭の中には猛烈な勢いで高位の魔法が矢継ぎ早に浮かび、それらが「高位である」と理解出来るだけの知識も同時に得ていく。さらに手に入れた魔法や知識は『思い出せる』という言葉の通り元々自分の中にあったかの如く自然に馴染み、滞りなく頭の中を駆け巡る。もしこの場でヘキサディアが魔法を行使しようとすればまるで手足の如く扱えるだろう。
だが得る者がいれば失う者もいる。

「あ・・・あぁ・・・私っ、私の魔法がっ・・・!」

パクパクと口を開閉させてその一瞬だけは快楽を忘れたかのように呆然と呟く。
ヘキサディアが魔法を得ていくのと同じ速度でオークからは数百年かけて蓄積したそれらを失っており、まるで底に穴が開いた器から水が漏れ続けるようにその勢いは留まる事を知らない。昨日確かな手ごたえを感じた雷の魔法も、便利な奴隷を生み出す烙印の刻み方も、世界で自分しか扱えない魔法の数々も、あらゆるものが抜け落ちて思い出せなくなっていく。後に残ったのは「そこに何かが存在したはず」という喪失感だけだった。
だがそんな喪失感も瞬く間に埋められていってしまう。性交の快楽という、あらゆる生物が本能的に満たされるものによって。

「ブヒッ♡♡♡ブヒッ♡♡♡ブヒッ♡♡♡もっと、もっとよこすブヒッ♡♡♡魔法も知識もチンポももっと欲しいブヒィッ!♡♡♡」

目の前にいるのは「極上」という言葉でも物足りないとすら思える、背筋も凍るような美女。そんな女が目を潤ませて顔を赤らめ、口の端からみっともなく涎をこぼしたメスの顔をしている。オークの巨大な手のひらでも収める事が不可能なほど巨大な肉鞠をどゆんどゆんと縦横無尽に暴れさせ、まるで円を描くような艶めかしくも淫らな腰使いで一心不乱に上下している。髪を振り乱し、全身にじっとりとかいた汗はてらてらと全身を淫靡に彩り、体臭や愛液の臭いと混ざって周囲に性行為特有の臭いを振りまく。そして獣としか思えない下品な喘ぎ声と肉付きの良い下半身がぶつかる事で奏でる破裂音が鼓膜を震わせる。
その全てが「メスを犯している」という事実を否応なく認識させ、オークの最も誇るべき欠点である制御できないほどの生殖本能に火を点けた。

「ん゛お゛っ?!♡♡♡・・・ブヒヒッ、魔女様もやっと乗り気になってくれたブヒ♡♡♡」
「っ~!ち、違うわよ!これはあんたの命令でっ・・・!♡♡♡」
「オデは『セックスしろ』って言ったけど『自分から腰を振れ』なんて言ってないブヒ♡おまけにマンコの中でチンポもでっかくなってるブヒ・・・お゛ほぉっ!♡♡♡」
「っっっ~~~!!♡♡♡」

プライドの高さゆえについ反射的に否定してしまったものの、それが嘘である事はオーク自身が誰よりもよく分かっていた。
目の前のメスを犯す。自らの肉棒でぐちゃぐちゃに蹂躙して、煮えたぎった精液をナカにこれでもかとブチ撒ける。そんな暴力的な衝動がついに理性の枷を破壊し、オーク自らの意志でこの『交尾』に臨んでいた。その証拠に命令だけではぎこちなかったピストンもヘキサディアが最も腰を深く突き下ろすタイミングでオークも腰を突き上げているし、逃がさないとでも言わんばかりに彼女のむっちりとした太ももを掴んでいる。それが散々蔑んできた醜い豚と同じ立場に自らを貶めると理解してもなお、逸物からの快楽に、目の前のメスを犯す衝動に逆らえなかった。

「お゛っ♡♡♡あ゛っ♡♡♡お゛ほ゛っ♡♡♡マンコっ♡♡♡マンコ壊れるブヒぃっ♡♡♡」
「っ!♡♡♡っ!♡♡♡っ!♡♡♡っ!♡♡♡」

片や下品に喘ぎ、片や無言で腰を振る。態度こそ真逆なものの、互いに共有している快感は全く同じものだった。
だがそんな絶大な快楽に晒されてもなお、オークは同じくらいの苦痛を味わっていた。

(うっ、また何か出っ・・・ないっ・・・!!♡♡♡なんでっ、なんでなんでなんでっ♡♡♡なんでイけないのよぉっ?!♡♡♡こんなにマンコ犯してるのにっ♡♡♡こんなにチンポ気持ち良いのにぃっ♡♡♡射精させてっ♡♡♡射精させろぉっ!!♡♡♡)

先ほどのパイズリから延々と続く快楽の地獄。その原因である『射精禁止』の命令に気が狂う程に苦しんでいた。
イきそうなのにイけない。イったのにイけない。あとほんの少し、風が吹いた程度の衝撃で射精する寸前まで来ているのに絶対に射精できない。そんな状態になってもなおオークの絶大な性欲は「射精させろ」と絶叫するのだから頭の中は『射精』の二文字で埋め尽くされた。
そんなオークの内心を的確に見抜いたように、ヘキサディアは悪魔のような提案を持ち掛けてくる。

「ブヒヒヒヒッ♡魔女様、射精出来なくて本当に辛そうブヒ♡可哀そうだから射精禁止を解除してやってもいいブヒ♡」
「っ!!♡♡♡」

まるで目の前にエサを出された野良犬のような卑しさで思い切り顔を上げてしまう。そんな彼の様子に満足したのか、ニタニタと口の端を歪めながらヘキサディアは言葉を続ける。

「ただしこの身体に関する事全部・・・身体とか記憶とか全部くれたらの話ブヒ♡」
「分かったっ♡♡♡分かったからっ!♡♡♡射精っ!!♡♡♡射精させてっ♡♡♡その身体も、記憶も、魔力も魔法も全部あげるからっ♡♡♡お願いだからチンポからびゅーって精液吐き出させてぇっ!♡♡♡」
「プッ、ブヒャヒャヒャヒャ!即答ブヒ!やっぱり魔女様にはオークの身体がお似合いブヒ♡」

狙っていたタイミングとはいえほんの一瞬すら考える様子も見せずに射精する事を選んだ滑稽さに大笑いしながらもヘキサディアはオークの射精禁止を解除する。その瞬間、性交を始めてからずっと逸物の根本に感じていた緊縛感が綺麗に消失し、全ての枷が取り払われたオークは今度こそ本当に絶頂を迎えた。

「っっっっっ~~~~~!!?!?♡♡♡♡♡」
「んお゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛~~~~!?♡♡♡♡♡」

ドロドロの精液が尿道を駆け上がり、凄まじい勢いで外へと飛び出していく。
一瞬にして下腹部が膨れ上がる程の尋常ではない量の精液が子宮に注ぎ込まれる。
逸物から、秘部から、まるで爆発するように広がった絶頂の快感は全身へと広がり、思考もろとも全てを真っ白になるまで押し流していった。

「ブヒッ♡♡♡ブヒぃっ・・・♡♡♡は、腹がもうパンパンブヒ・・・♡♡♡破裂しちゃうブヒ・・・♡♡♡」
「はーっ♡♡♡はーっ♡♡♡はーっ♡♡♡はーっ♡♡♡」

そうして一体どれほど長い時間射精していたのだろうか、オークから吐き出された精液はヘキサディアの子宮に収まり切らず、ボタボタと膣から際限なく零れだしてオークの腹上に白濁した水たまりを形作っていた。
そのまましばらくはお互いに挿入したままの逸物を抜く気力もなく荒くなった呼吸を整えながら余韻に浸っていたが、ふとヘキサディアが空中に音もなく出現した一枚の紙を手に取り、満足気な笑みを浮かべた。

「ブヒヒッ♡これで契約成立ブヒ♡」
「・・・えっ?」

ヘキサディアが呟いた不穏な一言でオークも一気に頭が冷えて現実に引き戻される。まるで狩りの最中に視界の端で魔狼を見かけた時のような悪寒。そうしてそれは幸か不幸か的中しており、ヘキサディアは紙をこちらに向けて心底楽しそうに言い放った。

「『身体、知識、記憶、魔力、魔法の全てを差し出す代わりに射精を許可する』って書いてあるブヒ。あぁ、もう読めてるかも分かんないブヒ♡」

ヘキサディアが手にしていた紙に書いていたのはまるで見た事のない文字。オークは知る由もないがそれは魔法文字といって、全ての魔導書はこの言語で書かれているため魔法使いであればまずこの文字を読めるようになる事から始まるという基礎の基礎、初歩の初歩の文字だった。
だが読めなくともヘキサディアがわざわざ読み上げたので内容は理解出来た。そうしてあまりにも遅まきながら、自身が「射精させて欲しい」と懇願した時にヘキサディアが契約魔法を使ったのだと思い至った。
いくらオークでも魔法の契約の事はヘキサディアから散々結ばされたので知っている。それは双方の合意のもと初めて結ばれるべきものなので、こんなものは無効だろう、と叫ぶ。

「オデ、そんなずるいの知らないブヒ!無効ブヒ!」

だが口をついて出たのはまるで『オーク』そのものの言葉。口調も語尾もオークのもので、語彙力さえない。そんな発言を自分がしてしまった事が信じられないのか口を押えてわなわなと震えるオークにヘキサディアは追い打ちをかける。

「早速契約の効果が出てるみたいブヒ♡これで正真正銘あんたがオークで、オデ・・・いや、『私』が『ヘキサディア・ヴァルドドルン』になったのよ。理解出来ているかしら?」

ヘキサディアは『いつも通りの口調』でオークをなじる。
ヘキサディアは知識や記憶を奪うだけには飽き足らず、目の前の哀れな元主人を徹底的に『オーク』へと貶めたのだ。もし仮に身体を取り戻せたとしても彼はもはやオークでしかないため、その身体を十全に使いこなす事は不可能だろう。
かくして双方の契約により、ヘキサディアは『ヘキサディア』に、オークは『オーク』になったのだった。

「ぁ・・・あ、ぁ・・・」
「ブヒッ♡それじゃあ私もまだまだヤり足りないし・・・たっぷり私を楽しませなさいよ、この愚図オーク♡」

***

一週間後・ヘキサディアの寝室。
二、三人は余裕で眠れるであろう豪奢なベッドの上でオークが泣きながらヘキサディアを犯していた。

「も、もう嫌ブヒッ!♡♡チンポ千切れちゃうブヒぃ!♡♡」
「ほら、泣き言いってないでもっと腰振りなさい♡♡メスを犯すのは得意なんでしょう?♡♡」

ヘキサディアの腰を掴んで腰を前後させ、彼女の大きなお尻とでっぷりと突き出た腹がぶつかり合って激しい破裂音が部屋中に響く。かれこれ数時間は続けられていてもはや快楽も苦痛に変わりつつあるが、『主人』は未だに満足しないらしい。
と、すでに「我慢する」という感覚が消え失せた逸物からもう何度目かも分からない精液が吐き出される。しかしいくらオークといえども限界のようでほんの少量しか出なかった事がヘキサディアにとっては大層不満だったようで。

「はぁ・・・全く、この愚図オーク。私をセックスで満足させろって言ったわよね?何よそのみっともない射精は」
「ご、ごめんなさいブヒ、ヘキサディア様・・・でももうオデ、本当にチンポが限界ブヒ・・・!」

ヘキサディアが渋々ながらも逸物を抜いて向かい合い、吐き捨てるように呟く。ギロリ、と鋭い視線で射すくめられ、オークはその巨体が一回り小さく見えるほどに身体を縮めた。ここ一週間は罰を受けていないが、それでも「今まで罰を受けてきた記憶」というものは簡単には消えてくれないらしい。
はぁ、とヘキサディアは呆れたようにため息をつく。ヘキサディアは底なしの性欲で体力の続く限りいつまでも性交をする気満々だが、いつもオークの方が先に音を上げて終了していた。今回もようやく終わった、とオークが一息つこうとした瞬間、ヘキサディアはオークに向かって一気に魔法を唱えた。

「『ヒール』『チャージ』『エンハンス』!」

三つの魔法は全てオーク――ではなく、オークの逸物に飛んでいく。すっかり萎えていた逸物が再び力強く勃起し、空っぽだった睾丸には破裂しそうなほどの精液がずっしりと溜め込まれ、さらに逸物は普段より二回りは大きく膨らんでいた。
消えかけていた性欲の炎が再び激しく燃え盛っていくのを感じ、オークが目を白黒させているとヘキサディアはニタニタといやらしい笑みを浮かべて実に楽しそうに話し出した。

「あら、冗談のつもりだったけど本当に成功したわね。流石天才の私♡さぁオーク、お前のチンポもこうして元気になった事だし、まだまだイけるわよね?♡」
「ブヒィッ?!へ、ヘキサディア様っ、もう勘弁して欲しいブヒィッ!」

ペロリ、と舌なめずりをしながら迫ってくるヘキサディアにオークは思わず後ずさりをしてしまう。
毎日毎日倒れるまでセックス漬けの日々を送っているせいでヘキサディアの肉体は一週間前とは比べ物にならないほど淫靡に変化していた。
ただでさえ大きかった胸は揉んで揉ませてを繰り返したせいでさらに二回りは巨大化したものの、乳首はじっとりと黒ずんだ上に重力に負けて下品に垂れ下がっている。美しいくの字を描いていたくびれは影も形もなく、抱き心地の良い柔らかな脂肪が乗り始めていた。お尻も一挙手一投足で肉が弾むほど贅肉が乗ってひどいものだが、何よりその秘部は常にオークのものを咥え込んでいたせいでゆるゆるのガバガバになるまで拡張されており、もはや人間サイズでは彼女を満足させられないだろう。さらにろくにシャワーも浴びていないせいで汗や精液、愛液といった臭いが全身に染み付き、たったひと嗅ぎでオスを発情させる淫臭にまで熟成されていた。黄金比で成り立っていた魔女の身体はいまやすっかりオスと交わる事しか考えていないような下品極まる身体つきに成り果て、今後一生戻る事はないだろう。
だが、ヘキサディア自身がそれを望むかは怪しい。彼女の興味はすでに魔法の研究にはないのだから。

「ブヒヒヒヒッ♡さぁ、始めましょうか。私が満足するまで、ね?♡」

あとがき
読んで頂きありがとうございました!pixivでも様々な小説やCOM3D2を用いたシチュを投稿しているので、お気に召したら見て頂けると嬉しいです!

野良猫さん宛の匿名メッセージ

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