アランブール伯爵邸集団入れ替わり事件

「あ、見つけましたわユーリ!」
 これから買い物や諸用で街に出ようと、城の玄関に立った瞬間。
 このアランブール伯爵家の執事である俺、ユーリは主人であるヴァレリーお嬢様に発見され声をかけられてしまった。お嬢様には見つからずに外に出るよう気を付けているのに、相変わらずその嗅覚には敵わない。
「あなたねぇ、外に出る時はあたしに一言言うようにって、いつも言ってるじゃない!」
「申し訳ございません、お嬢様」
 ヴァレリーお嬢様は口調の通り気が強く、しかし美しい少女だ。長い金色の髪はロールのツインテールになっていて、今日もセットにかなりの時間をかけていた。ツリ目ながらもぱっちりした目には綺麗な紅い瞳が輝いていて、十代半ばながら豊かな女体を青くシンプルなドレスに包んでいる。
 いずれこの国の王子の妻となる身、父である伯爵からいついかなる時も着飾り上品に振る舞うことを義務付けられたその生き方は、彼女の性格も考えると見ていてかなり窮屈そうだ。
 しかし今日もまた、その身体が俺のものになると思うと……興奮する気持ちもなくはないが、それよりもうんざりといった感情がこの胸を占めた。
「ですがその……俺が外に出ると知れば、お嬢様はまた〈アレ〉をするのではないかと、心配でして」
「何、あたしのすることに文句でもありますの? 元はどっかのお偉いさんの息子だかなんだか知りませんけど、今のあなたはあたしの使用人ですのよ!」
 お嬢様の言う通り、俺もかつてはこの国の貴族の息子だった。
 しかし度重なる天災によって領民が家を失い飢餓に苦しんだため、俺の父上は私財を投げ打ってでも国中の食料や建材を買い集めた。結果として領民を救うことができたが、俺の家は没落。領地はアランブール伯爵に買い取られ、俺は使用人として買われ働くことになった。
 アランブール伯爵は向上心が強い人物で、元は俺の家と同じ辺境の一貴族に過ぎなかったそうだ。しかしその商才によって国内での地位と発言力を高め、ついには娘を次期国王の妃として送り出すまでに至った。国内でその領地だけが天災に見舞われなかった幸運も、彼の立場を大きくした一因だろう。
 だが俺は……彼のことを内心蔑んでいる。
 伯爵は確かに優れた商才を持っているが、彼のビジネスには血が通っていない。領主が保証すべき民の幸福よりも、重い税や厳しい労働により己が豊かになることを優先している。それに大変な好色家で、妻を持ちながら気に入ったメイドを夜伽の相手にしてるとかいう噂もある。
 思い返せば民のために立場も私財も投げ打った、俺の父上とは正反対だな。父上のことは立派だと思っているし、恨んでもいない。今も俺の誇りだ。
 そんな父のような貴族になるのが、俺の目標だったんだけど。
 歳が近く『元貴族として作法や様々な学問に精通している』という理由で、お嬢様専属の執事にされてしまった。伯爵に甘やかされて育ったお嬢様はじゃじゃ馬でワガママで、見ている分には可愛らしいが……仕えるとなると、かなり手を焼く。
 弟君のリオネル様はまだ幼いとは言え、あんなに大人しく素直だというのに……。
「あなたには主人であるあたしに口答えする権利なんてありませんことよ! わかってますの!?」
「お言葉ですがお嬢様、あんな怪しげな自称魔女から買った魔導具など、そう易々と使わない方が」
「だーかーらー! あたしの言葉に口答えしないの! もういいですわ、さっさと入れ替わってやるんだから!」
 彼女はある日こっそり城を抜け出した際、怪しい骨董商の女から買った手鏡を所有している。それがまた厄介な代物で、件の手鏡を見てしまった人物は次にこれを見た人物と……。
「しまった……またお嬢様にされたのか……」
「ふふっ、これであたしは堂々と外に出られますわ! じゃ、今日のお勤め頑張ってくださいませ、ヴァレリーお嬢様♪」
 身体が入れ替わる。
 迂闊にも鏡を見てしまった俺はヴァレリーお嬢様の身体に、お嬢様は執事である俺の身体に、それぞれ魂を入れられてしまった。そして鏡は常にお嬢様の魂が入った身体の元に移動するので、俺が使うことはできない。
 お嬢様はこうして俺の身体で自由に外に出て、俺は代わりに勉強やレッスン、他の貴族との会合に出席させられるわけだ。
 もちろん胸を触ったり裸を見たり……そんなことはできない。お嬢様の周りには常に人がいるし、上手く一人になってそんなことをしてもバレたら即刻斬首刑だ。
 気に食わない相手とはいえ、せっかく伯爵に拾われた命。そんなくだらないことで散らすわけにはいかない。
「お待ちください! 今日はこのあと、クロディーヌ様がいらしてお茶会の予定が」
「だから入れ替わったのですわ! あの子ったらやけにベタベタしてくるから苦手なの! あたしはもう行くから、あなたが代わりに相手してやって頂戴!」
 クロディーヌ様というのは、隣の領地に住む貴族の娘だ。
 父親同士が懇意にしているようで、クロディーヌ様もヴァレリーお嬢様ととても仲が良い……と本人は思っている。お嬢様は少し迷惑がっているが。
「いけません! こんな道具に頼って逃げ続けていれば、いつかとんでもないことになります!」
「そんなのしーらないっ!」
「お嬢様、お待ちをっ……!」
 俺の言葉は、走り出したお嬢様の背中には届かなかった。
 重いドレス、ひらめくスカート、慣れないハイヒールの靴、運動に適していないお嬢様の身体。今の俺の姿では、走って追いかけるなんてこともできない。こうして拒否権もないまま、いつも身体を持ち逃げされてしまう。
 こんなことを続けていれば、いずれ絶対に痛い目を見ると思っているのだが……お嬢様は全く聞く耳を持ってくれない。
 俺がため息を吐くと、背後から女性の声がした。
「見つけましたよお嬢様」
「ポレット……」
 振り返ると、長い赤髪をまとめ眼鏡をかけたメイドが冷たい表情で立っている。
 ポレットはこの屋敷のメイドで、俺と同じく貴族の出の才女だ。男勝りかつ冷静な性格と勉学などの才能からいずれ女領主になるとまで噂されたが、彼女を疎む弟の策略にはまりアランブール伯爵家に売られたとかなんとか。ヴァレリーお嬢様とリオネル様の教育係として働いていて、いつもムスッと冷たい表情を浮かべている。お嬢様曰く「鬼教師」だそうだ。
 当然、今の彼女には俺がヴァレリーお嬢様に見えている。あの鏡は異性同士を入れ替えることしかできないらしく、その力と存在を知っているのは俺だけだ。
「お嬢様、お願いですから部屋にお戻りになってください。でないとまた、伯爵様から叱られてしまいます」
 本当にすまない、ポレット。
 同じ立場の人間として君の心労は痛いほどよくわかるし、俺だってこんなことしたくない。
 しかしお嬢様のため、俺はお嬢様になりきらなければならないんだ。
「『お父様に叱られる』って、あたしじゃなくてポレットが、でしょう。あなたが叱られようがクビになろうが、あたしはどうでもいいですわ」
「そんなこと仰らないでください。どうかお茶会の準備をさせてくださいませ」
「まったく、仕方ないですわね。でも何なの、お茶会の準備って」
「そうですね。まずはしたなく走ってシルエットが崩れた、そのお召し物を着替えていただいて……せっかくですから髪も結い直しましょう。クロディーヌ様はお嬢様のことが大好きですから、お揃いの髪型にしてみるというのはいかがでしょうか?」
「え、あ、そうですわねっ。あんたにしては良い考えじゃない! じゃ、早く部屋に戻りましょ!」
 はぁ。もう既に疲れた。
 しかし……着替えか。
 これは不可抗力であり、お嬢様の方から入れ替わりを仕掛けたのだから、肌を見ても文句はないだろう。着替えを手伝うためポレットが側にいるのは仕方ないが、俺も年頃の男だ。
 お嬢様の身体と立場、そしてクロディーヌ様との触れ合い……お叱りのない程度に楽しませてもらうか。





「いい加減にしてください、お嬢様。入れ替わりなんてバレたら、後で困るのはお嬢様なのですよ?」
 今日もまた俺はお嬢様と身体を入れ替えられていた。
 午前はポレットの歴史の講義、そしてこれからは文学の講義だ。もちろん、そのどちらも嫌がるお嬢様によって、俺は朝から代役を演じさせられている。
 俺は講義の休憩時間の間に、お嬢様の部屋で彼女を見つけた。彼女は大抵、『お嬢様の部屋の掃除』という名目でベッドでくつろぎ俺としての仕事をサボっている。
 が、今日は一段と機嫌が悪いようだ。
「もー、ホントうるさいですわねユーリは! っていうか、もうずっとこのままでよくありませんこと? あなたが王子と結婚してくれたら、あたしも専属執事なんてやめて自由になれますし!」
「ご、ご冗談を! 男の俺が、お嬢様として王子様と結婚などと……」
「それはこっちのセリフよ! あたしには、結ばれる相手を選ぶ権利もないなんて……そんなの、冗談じゃありませんわ!」
 その言葉に、俺はようやくお嬢様の本音を見出した。
 俺は男なのに、男と結婚するなんて考えただけでゾワゾワする。相手が王子様で、俺がその妃という立場を手に入れられるとしても。
 ……でも、それはお嬢様も同じなんだ。
 生まれた時からアランブール伯爵が権力を得るための道具として育てられ、堅苦しい生活を強いられているのだから。お嬢様にも本当は、王子様以外に結ばれたい相手がいるのかもしれない。
 だとしても。男が権力を持ち、女は世継ぎを生むか性欲を満たす道具、権力を誇示する飾り物のように扱われる貴族の世界では、いくら望んでもお嬢様が自由を得ることなどない。
 俺の仕事は、それをお嬢様に教え理解させることなんだ。
「どうか、入れ替わりなどで逃げずに現実を受け入れてください。お嬢様はこの国の姫となるお方。伯爵様もお嬢様の幸せを思えばこそ、王子様との婚姻を進めているのです。ですから」
「うるさいっ! あたしの気も知らないで、この朴念仁のすっとこどっこい! 顔も見たことない男との結婚が、あたしの幸せですって!? じゃあもういいですわ! そんな幸せ、あなたにくれてやりますっ!」
「お嬢様っ!」
 俺はお嬢様に駆け寄ろうとしたが、こんな時に限って靴のヒールでバランスを崩し躓いてしまった。ソファに掴まってなんとか転倒は堪えたが……。
 起き上がり腕を振り上げたお嬢様は、手鏡をベッドの天蓋の柱に叩き付けてしまった。
 バリン。
 鏡は軽い音を立てながらいとも簡単に砕け、ベッドに飛び散った。
 でもそれだけじゃない。
 砕けた鏡面の破片たちから、黒いモヤが立ち上がって……それは瞬く間に部屋を埋め尽くし、開いたドアから廊下にまで広がっていった。
「…………!」
 俺は再び走ってベッドに飛び乗り、掛け布団を引っ張り上げる。そうして鏡の破片を床に落とすと同時に、お嬢様とその中にくるまった。お嬢様は何か言いたげだったが、俺は「静かに」とジェスチャーで伝え小声で尋ねる。
「お嬢様、お怪我はありませんか?」
「う、うん……。でも、何が起こりましたの?」
「あれはおそらく鏡に封じられていた魔力……しかしあれほどの量、直に浴びたり吸い込んだりするとどのような影響があるかわかりません。しばらくはここで、声や呼吸も小さく抑えてくださ……お嬢様!?」
 声を抑えろと注意した手前、俺は驚きに声を上げてしまった。
 身体は入れ替わったままとはいえ、お嬢様が俺に抱きついてきたからだ。その表情は泣きそうで、しかも俺の顔だから見ていられない。
 でも、目を逸らしてはいけない気がした。
「ユーリはいつも、あたしを守ってくれて……大切にしてくれますわね……。そんなあなただから、あたしは入れ替わりの相手に選んで……好きに、なったのです」
「お嬢様……? い、いけません、私のようなただの使用人に、そんな……」
 お嬢様が泣きそうなのは、恐怖のせいではなかった。
 ずっと溜め込んできたであろう気持ちの吐露、それと共に自然と涙が溢れてきたのだと思う。
 ……俺も気付いてはいた、お嬢様の恋心。
 それは絶対に叶うことはないし、俺も応えるわけにはいかず見て見ぬふりをしてきた。
 しかし鈍感を演じる俺の態度に、お嬢様はフラストレーションを溜め込み……それが今、一気に爆発してしまった。魔法の手鏡は割れ、中の魔力が霧散してしまった以上、元に戻ることはおそらくできない。
 俺とお嬢様の間には「永遠に身体を交換した」という、決して断つことのできない結び付きが生まれてしまったのだ。
「えぇ。あたしがどれだけユーリが好きでも、あたしたちは結ばれぬ運命。いずれあたしは、顔も知らない男の妻になりますわ。……でもそんなの、耐えられなくて……逃れる術は、これしか思いつきませんでしたの……! せめて、愛した男の身体だけでも永遠に、あたしのものに……ぐずっ、うぅ、うぇぇん……」
 なんと強引な思考、なんと愚かな行動なのだろう。
 でもお嬢様が自由を手にする方法は、他になかったのかもしれない。
「お嬢様、お手を」
 俺はお嬢様の右手を掴み、その甲にそっと口付けた。
「ユーリ……?」
「俺はお嬢様の執事ですから。お嬢様の望みとあらば、これからは俺がヴァレリーお嬢様として生きましょう。俺は王子様と結婚し、お嬢様の代わりにこの国の姫になります。でもきっと、お嬢様に執事は無理ですから……クビにして差し上げますね。どうか、望み焦がれていた通り、誰にも縛られず自由に生きてください……」
 ワガママで粗暴で、手を焼かされてばかりだったヴァレリーお嬢様。
 しかしお嬢様が俺に好意を抱いていると気付いてからは、俺もお嬢様のことを意識していたのかもしれない。結ばれることはないとわかっていたから、自分でも気付かないふりをしていたのだろうけど……やっぱりそうか。
 己の運命を受け入れ、死んだ魚のような目で生き続ける。いや、生かされ続ける。貴族の家に生まれた女は皆そんなものだと思っていたけれど、ヴァレリーお嬢様は違った。
 伯爵の出世のための道具として生かされてきたのに、ずっと外の世界や自由に憧れて。その目は常に夢を見て、輝いている。そして俺を巻き込みながらも、いつも眩しい笑みを浮かべている。……俺も、そんなヴァレリーお嬢様のことが好きだったんだな。
「ぐ、うぅぅ、ユーリぃ……!」
 俺もまたお嬢様の背に手を伸ばし、彼女が落ち着くまで軽く抱擁してやった。





 これは……どういうことかしら。
 確かヴァレリーお嬢様への講義を終え、リオネル様に数学の講義をしていたところで……そう、突然室内が黒いモヤに覆われて、気を失ったのよね。
 そして目が覚めたら、何故か私がリオネル様になっている、と。
 まだ幼いとはいえ、やっぱり女の身体とは違うわね。
 胸に無駄な肉がないのはいいけれど、脚を動かすたびに内腿に当たるアレの感覚が気になるわ。
 ふっ……ふふふっ。
 でもこれが、今の私が男である証。
 私はメイドのポレットではなく、アランブール家次期当主リオネル・アランブールである証左に他ならない。
 女だからと力を持つことを許されず、地位を奪われ、民を人とも思わぬ外道の家に売られて。おまけにその外道の夜伽の相手まで強いられ、何度己の生まれを、性を呪ったことか。
 でもこの状況……「次は男に生まれたい」という私の願いを、神が聞き届けてくださったに違いないわ!
 リオネル様はまだ素直で無垢な男の子。でも伯爵様の教育方針に従っていれば、いずれ彼や私の家族のような、俗物に成り下がることは明らかだった。
 ところが私自身がリオネル様になった今、民のことを思う正しい領主になることができる。幼い頃から私が目指してきた、『性差や貧困のない国作り』を、『民を幸せにする為政者』を再び目指すことができる!
「……えっ、わ、なにこれっ!?」
 その声に振り返ると、私が立ち上がっていた。
 私はスカートや胸を触っていたけれど、手つきにいやらしさはなく純粋に驚いているみたい。
 私は直感で理解した。
 私の身体には、リオネル様の魂が入っているのだと。
 それにしても少し恥ずかしいけど……可笑しいわね。無表情で「氷のよう」だとか言われていた二十六歳の女の身体に、十三歳の男の子の魂が入って目や口を大きく開いているんだもの。
「どうやら、私とリオネル様の身体が入れ替わってしまったようですね」
「え、僕……じゃなくて、ポレット?」
「はい。私がポレットでございます」
 声をかけて説明してあげると、リオネル様は少し落ち着いた。そして駆け寄ってくると、腰を屈めて私の肩に手を置く。
 私って、こんなに良い匂いがしたのね。それにはしたないくらい……胸が、大きいわ。切羽詰まったような表情のリオネル様とは対照的に、私は呑気にそんなことを考えた。
「そんな、どうしよう!? 僕はアランブール家を継がなきゃいけないのに……女に、しかもメイドなんかになっちゃった! ポレット、これどうやったら元に戻るの!?」
「ふむ……」
 こんな現象、魔法か何かの仕業だとしか思えないけど……さすがに、魔法なんて実在するかどうかもわからないものは学んだことがない。
 まぁ理由なんてどうでも良いわ。
 それよりイラっとした。
 リオネル様も私たちのことを、「メイドなんか」とお考えでしたか。
 正しい紳士に育つことを期待していたけれど、もうお父上の考え方に毒されているようね。やっぱりこの身体は私がもらった方が民の、世の中のためになることは間違いない。
 そうなってくると……少し可哀想だけど、私になったリオネル様には一生私として生きていただくことになる、か。
 えぇ、リオネル様個人に恨みはありませんが……「男という性への復讐」、受けていただきましょう。
「そういえば昔、魔術の本で読んだことがあります。男女の身体が入れ替わってしまった場合、身体を繋げ粘液を交換すると良いとかなんとか」
「身体をつなげて……ねんえき? を、交換?」
 もちろん今思いついたデマカセだけど。
 そういえば、この手の教育はまだあまり進めてなかったわ。もう二十六歳にもなるのに、性に無知で無邪気な女……奇妙だけど、どことなく可愛らしくも思えるかも。
「そうです。もっとわかり易く言えば……まぐわい、交尾、セックス。どれか一つくらい、聞いたことはありませんか?」
 尋ねると、急にリオネル様は私の顔を真っ赤にした。こんな顔、鏡でも見たことないわね。
「ほ、本当に、それで元に戻れるの……?」
「わかりません。が、試してみるしかないでしょう。リオネル様、こちらにお掛けください。身体は違えど私はメイドですから、お召し物を脱がせて差し上げます」
「……う、うん。じゃあ、お願いするね」
 リオネル様は躊躇いがちに、しかし私の指示通り、椅子に座って身を預けてきた。
 やはり年頃の男の子。自分が大人の女になったことに少なからず興奮していることが、その表情から見て取れる。
 私は所々で細かく指示を出しながらも、リオネル様のメイド服を脱がせていく。身長差があるから苦戦はしたけれど、数分後には……下着さえ剥ぎ取り、リオネル様は女として生まれたままの姿で立っていた。
「こ、これが、女の身体……これが、僕……」
 やはり一番気になるであろうところ、たぷんと揺れるおっぱいと、少し毛の生えた股関にリオネル様の手が伸びる。けれど性感帯という言葉すら知らない男の子の精神は、ただそれらを『触るだけ』だった。
「リオネル様、ベッドに横になってください。あとのことも、このポレットにお任せくださいませ」
「あぁ、そうだね。僕は男に戻らなきゃいけないんだし!」
 当然ながら、リオネル様は男に戻りたがっている。彼は女の裸を眺めることよりも、早く元に戻るため私に従うことを選んだ。
 ごめんなさい、リオネル様。
 リオネル様にはこれから女として、メイドのポレットとして生きていただきます。でもきっと、これが終わる頃には……「一生女でいい」と、満足していただけるかと。
「では、始めますね」
 私はリオネル様の胸を揉みながら、舌で白い肌を舐めていった。
 早速リオネル様は「あっ、ん……」と喘ぎ始める。
「ポレット、これ、なんか変だよ……身体が熱くて、おっぱいとか、お腹が、ムズムズするぅっ……。ホントに、合ってるの……?」
「はい。女は首や鎖骨を刺激されると、子宮もじんわりとほぐれてくるそうです。リオネル様の身体は今、セックスの準備をしているのですよ」
「あぁ、はぁん……しきゅうって、なに……?」
 不安げにそう尋ねられ、私のおちんちんも興奮で大きくなるのがわかった。
 その説明をすれば、女を見下しているリオネル様はどんな表情を浮かべるだろう。そんなことを考えて、私は愉悦に口角を上げていた。
 いけないわね。今再び、民の幸福を願う為政者になろうと決意したのに、こんな意地悪を楽しみにしちゃうなんて。でもこれが……羨み、妬み、そして憎んだ、男という性への唯一にして最大の復讐なの。
「女の身体にしかない器官です。簡単に言えば……赤ちゃんができて、育つ場所ですよ」
 私の言葉に、緊張や興奮で赤くなっていたリオネル様の顔が一気に青ざめた。
「あ、赤ちゃんができるところ……!? 僕、そんなのいらないよ! 世継ぎを産むなんて女の仕事でしょ!? 早く僕を元に戻して!」
 やはり、女を見下すその態度……救いようがありませんね。
 だったら私も今だけは男女の間に差があることを認め、まだ男でいるつもりのリオネル様にしっかりと教えて差し上げましょう。今はリオネル様が、世継ぎを産むのが仕事の女という生き物である、と。
 ふふ、これが教育係のメイドとしての、最後のレッスンになるかもしれないわね。
「畏まりました。では今しばらくお待ちください」
 私もリオネル様のお召し物を脱ぎ捨て、下半身を露出させる。
「まぁ、見てください。一生懸命勃起してますね、私のショタちんちん」
 伯爵様のものと比べると、まだ小さく可愛らしいおちんちん。けれど私の興奮と愉悦によりそれはピンと真上を向くように膨らみ勃っていて、男という生き物の役割を存分に果たすことができるように思えた。
「ひゃっ」
 リオネル様のおまんこに触れると……指に糸を引く粘液が絡みつく。私はそれを、リオネル様に見せつけた。
「わかりますか? 赤ちゃんにおちちをあげるため、大きく膨らんだおっぱい。リオネル様はそれを触られて、おちんちんのない股間からこんないやらしい汁をお出しになったのですよ。リオネル様はもう立派に、ご自身のお世継ぎを産める身体になったのです」
「待ってよ、何言ってるの……? ひっ!? ぼ、僕のお股に、何か入ってる……!?」
「えぇ、リオネル様は女なのですから。おちんちんの代わりに、おまんこという穴があるのですよ。男におちんちんを挿れられて、赤ちゃんを産むための穴が」
 そう告げてやると、リオネル様はさらに青ざめる……ことはなかった。その顔は既に、快感で火照っていたから。
 これが男としてのセックスなのね。男根と繋がった股関、うねる身体、揺れる胸、悶える顔。相手のことを冷静に俯瞰できて、どこを見ても性欲を掻き立てられる。おちんちんはさらに膨らみ、ドクドクと脈打つのがわかる。
 おまんこの存在自体よく知らなかったであろうリオネル様は、全く未知の快感によって蕩けたメスの表情を浮かべていた。ただ、何が起こっているのかは本能で理解きているみたい。
 伯爵様の巨根に処女を奪われたはずのおまんこは、私の小さなおちんちんにも吸い付くようにキュッと狭くなる。
 気持ちいい。ショタちんちん気持ちいいっ♡ 女の膣肉に抱きしめられて、よしよしされて、「お射精しようね」ってエッグい搾られ方して、こんなのクセになっちゃう♡
「うぁ、あぁんっ♡ ダメなのに、きもちいいっ! ポレット、おちんちん抜いてっ……このままじゃ僕、ホントにダメになっちゃう……男なのに、赤ちゃんできちゃうよぉっ」
「違いますよ、リオネル様っ。リオネル様はもう大人の女なのです! そして仰った通り、女としてのお仕事を果たしてくださいっ! ご自身のお世継ぎを、身籠もってくださいませっ!」
「やだっ、僕、まだ十三歳なのにぃっ! 家を継ぐって、もっと豊かにするって、んくっ、お父様と、約束したのにぃっ! メイドなんかの身体で、自分の赤ちゃん産むのやだぁっ! んひぃぃっ♡ やっ、動くのダメっ、僕のおまんこっ、しきゅうっ、きもちよくなっちゃうからぁ♡」
 まだ現実を受け入れられずごねるリオネル様。
 けれど腰を振っておちんちんを出し入れしてやると、リオネル様は身体をビクつかせ声も一気に艶めかしいものに変わる。もう一息、といったところかしら。
 でも不思議。言葉では意地悪言ってるつもりなのに、身体はリオネル様を気持ちよくしてやろうと優しくまぐわってる。やっぱり私も、ずっとお仕えしてきたリオネル様への情を捨てきれないのね。
「そうですよ、そのおまんこも、子宮も、リオネル様のものですっ! 大丈夫、責任は私が取ります! 私のメイドに、私の妻になってくださいっ! ずっと気持ちよく、ずっと幸せにしてあげますから!」
「あぁ、んぁんっ♡ 僕が、ポレットの、メイドで、お嫁さんっ……? んくあぁっ♡ おちんちん、しゅごいいっ♡ お嫁さん、なるからぁ、もっと、もっとおちんちんしてっ♡ きもちいいの、ちょうだいっ♡」
 一気にペースを上げると、リオネル様の男としての誇りはとうとう女の快感に負けてしまった。
 そんな状態で求婚を迫るのは卑怯だったかも。
 でも私自身、目の前で喘ぐ淫らな女が愛おしくてたまらなくなったの。この女が欲しい、私のものにしたいって。これが男の欲望なのかもしれない。
「頼み方が、なってないですよ! メイドなら、ご主人様にお願いしてください!」
「はひっ、んいぃっ♡ ご、ごしゅじんさまっ、ぼくの、おまんこぉぉっ♡ おちんちんで、もっとつんつんして、くだしゃいっ♡」
 恥じらいながらもプライドを投げ捨て、泣き顔で懇願するリオネル様。
 その姿を見て私の股関に何かが込み上げてくる。それが精液なんだと気付いた時には、二十年以上を女として生きてきた私にはもう止めようがなかった。
「リオネル様、出します! 赤ちゃんのもと、出しちゃいますよ!」
「あぇ、それ、は、ん、くっ、んあぁぁぁぁぁぁぁぁっ♡」
 私の射精を受け、リオネル様も絶頂に至った。
 これ、リオネル様の身体の精通だったのかしら。思っていた以上にたくさん出た精液は、震えるリオネル様のおまんこからトロリと溢れ出た。
 気持ちいい……けれど、こんな一瞬の快楽のためだけに女を過剰に求める男の気持ちは、あまり理解できなかった。ま、良い為政者になるためには知る必要もないかもしれないわね。
「あ、うぁぁ……どうしよ……。僕、メイドになっちゃった……僕のおなか、ホントに赤ちゃんできちゃうぅ……」
 子供のように泣きじゃくる大人の女、しかも元の自分の顔なんて見るに堪えないけど……ちゃんと約束は、守るから。
「心配なさらないでください。リオネル様は私のメイドとして、妻として、ずっと愛してあげます」
 優しく囁くと、他に頼るもののないリオネル様はギュッと私に抱きついてきた。
 私に身体を、権力のある立場を、男という性を奪われた、可哀想なリオネル様。その分しっかり、幸せにして差し上げますからね。





 髪はまとめているけどこのお顔、間違いない。アランブール伯爵夫人、マリーヌ様だ。
 俺は農夫の一人息子、アルノーという十代のガキだった。
 うちでは代々葡萄を作っていて、ずっとアランブール家に贔屓にしてもらっていたのに……つい先日、一方的に契約を打ち切られてしまった。
 なんでも新しく買い取った土地で多少味は落ちるがより安く、より多くの葡萄が生産できるようになったそうだ。
 アランブール家の当主が今の伯爵になってから、情や品質よりも効率と生産性を求めるあまり、これまでの専売契約を次々と切っているとは聞いていたけど……ついにうちまで切られちゃった。
 でもうちはずっとアランブール家との高価な契約料だけで食ってきたんだ。一般市民向けに値下げして売ったって元は取れないし、このままじゃ家族まとめて露頭に迷っちまう。
 そこで俺はこの城に乗り込み、伯爵に直談判しようとした。
 けれど城内に入った途端、黒い霧に包まれて……目が覚めたら、俺は浅い湯船に浸かっていた。
 驚いたなんてもんじゃねぇよ。いきなり見たこともない豪奢な浴室にいて、しかも視線を下げると薔薇だか何かの花びらとおっぱいが湯に浮かんでいたんだから。
 そして慌てて湯船を覗き込んだら……マリーヌ様の顔が映っていて、俺は理解したわけだ。
 なんでか知らんが、俺がマリーヌ様になっちまってるって。
 んで「これからどうしよう」とか「俺の元の身体はどうなってる」とか色々考えたが……俺、頭悪りぃし頭痛が痛くなっちまった。
 とにかく! せっかく女の裸を拝んだり触ったりできるんだ。しかも相手はあのにっくき伯爵の夫人様だぜ? むしゃくしゃしていた鬱憤を晴らすべく、俺は湯船から上がって自分の身体を弄ることにした。
 伯爵夫人っていくつだっけなぁ。でもお嬢様が多分俺と同じくらいだから……うげぇ、四十前後のオバサンじゃん! 道理で身体が重いと思った。いきなりお袋と同年代の女になっちまうなんて……でも顔は美人なんだよな。
 なのにおっぱいはデケェし腹もタプタプしてやがる。伯爵夫人なんだから、毎日うちの葡萄で作ったワインに合うような良いもん食ってんのかな。俺もあとで何か食えるかな。でもさすがにこの贅肉はひでぇ。うちの農園で働くなりして、痩せた方がいいんじゃねぇか?
 ……って、そういやもううちの農園と契約切ってやがったな! 思い出したらまたイライラしてきた、もう容赦しねぇぞ。
「おっふ……」
 うひょぉ、これが女の乳かぁ。悪戯で幼馴染の女の子、ジゼルのおっぱいを触ることはあるが、生でガッツリ触ったのは初めてだ。重いし柔らけぇ……。
 そういやジゼルの家も、伯爵家とチーズの専売契約を切られたんだっけな。んであいつは、伯爵の家に給仕として売られたって聞いたけど……今の俺は伯爵夫人だし、あとで助けられるかも!
 で、でもまずは、女の身体を楽しんでからでもいいよな。
「ひゃ、んっ」
 うぉ、これが女の乳首ってやつか!? ヤッベ、気持ちいい……。マジで勝手に声出るじゃん、スゲェ。しかも触った分だけコリコリに勃起してきたし。
 だけどジゼルの着替えを覗いた時に見た、あのピンクの乳首とは違う。なんか茶色くて、いかにもオバサンって感じだ。二人も子どもを産んで母乳飲ませてたらこうなんのかな。
 そういやジゼルの家は、牛の血統が良いとかなんとか言って高値で牛乳も売っていたな。でも今の俺の母乳の方がよっぽど良い値で売れるんじゃね? なんせもうすぐお嬢様が王子様と結婚するらしいからな、そうなりゃマリーヌ様も王室入りだ。そこらの牛なんかとは血統が違うぜ。
「あんっ♡ へへ……俺の母乳、ロイヤルミルクとか言って売れたらボロ儲けなのになぁ」
 乳首いじるのがこんなに気持ちよくて、しかも母乳出して金になるならこのまま乳牛になっちまいそう。……まぁ実際は、いくら触ってもさすがに母乳なんて出ねぇけど。
 つーかそもそも、そんなことする必要ないじゃん。このままマリーヌ様に成りすましていれば、俺が王子様の義理の母になるわけだし。
 そうなりゃ毎日美味いもん食べ放題の贅沢三昧かなぁ。今よりブクブクに太っちまいそうだ。つーか王族なんだから当然、権力もあるよな? じゃあ俺の権限で、うちの農園とも再契約できるかも!
 アリ、だな。ずっとこのデブオバサンの身体で生きるのは嫌だけど、せめてうちの農園を立て直すまでは俺がマリーヌ様をやるか!
 うし、なんかテンション上がってきたぞ。
 そうと決まったら、この身体にも慣れないといけないよなぁ?
「うぉ、マジでヌルヌルする……」
 おっぱいはほどほどに堪能したので、続いて股に触ってみる。
 胸や腹の脂肪でよく見えないが、俺の股関には確かに柔らかい肉に覆われた割れ目があった。しかも明らかに水ではない液体で湿っていて、指を離すとネチャっとした感覚がまとわりつく。
 俺のマンコ、濡れてる……。
「んほっ」
 しかも割れ目に指を擦りつけるだけで、なんか気持ちいい。
 オバサンでもちゃんとマンコ感じるんだな。いや、むしろ二回も出産したオバサンだからこそ感じるのか? わかんねぇけど、この身体はマンコがすっげー敏感なんだってことはわかった。
「オ゛ォ、簡単に指入るっ……やべ、イグっ!?」
 いや、イってないよな、これ……。
 指をある程度の深さまで挿れると、身体がビクってして射精したかと思った。でも実際には、指で膣内を擦るたびにその強い快感に襲われる。
 これがデフォルトの快感とか、デブオバサンの身体やべぇな……。
 どうやら俺の指は、マンコの中でも特に気持ちいいところを探り当ててしまったようだ。そこを擦るたびに、「ンオッ」「オ゛ホッ」と濁った汚い喘ぎ声が出る。もっと可愛い声出せねぇのかよ、オバサン。
「ングォッ♡ 伯爵夫人の、ロイヤルマンコでオナニーっ♡ きもち、よすぎて、おかじぐなるぅ♡ チンコ、欲しぐなるぅっ♡」
 二度も出産したこの身体は、チンコの味を覚えている。
 そしてマンコがチンコを求めようと蠢き、その動きは俺の心まで侵食していくようだった。
 あ゛ー、チンコ。チンコに犯されてぇ。男だった時は持て余していたのに、こんなに焦がれるようになるなんて。オバサンのくせに、性欲強すぎだろこの身体っ……♡
 頭の中はすっかりチンコ一色になって、俺の指は少しでもその代わりを果たそうと激しくマンコをさする。
 俺は若い男だったのに、チンコを求めてオナニーする太ったオバサンになってしまった。そんなみっともない存在になった自覚はあっても、やめられない。そんなことより快感と渇望が頭の中を占めていたから。
「セックス、セックスしてぇっ♡ チンコで生ハメ、してほじいぃっ♡」
 つーかこのマンコも、少なくとも伯爵のチンコを二回以上突っ込まれて妊娠してるわけだよな。
 今更俺は憎たらしい伯爵の妻で、彼に抱かれた女である、という現実を思い出した。それでも指は止まらないし、興奮が冷めることもない。
 あ、これ、この感じは。
「ンォ、オ゛ッ、オ゛ッ、イク、イグッ♡ オバサンマンコイグゥゥゥゥゥゥッ♡」
 ぶしっ、しょわぁぁ……。
 股から何かが噴き出し、俺はその場にへたり込んだ。
 でも一度火がついた身体の疼きは全然止まらなくて、股関から離した指はすぐにおっぱいをいじり始めた。
 すると。
「マリーヌ様!」
 ドアを開け、背の高いイケメン執事が慌てた様相で浴室に駆け込んできた。
 彼は俺の前で跪くと、泣きそうな顔で語り始めた。
「私ですっ、ジョゼフの身体になってますけど、メイドのナタリーですっ! マリーヌ様はご無事ですか!?」
 どうやらこの執事、中身はマリーヌ様のおつきのメイドさんらしい。
 …………!
 そうだ。今の俺は伯爵夫人なんだし、言うなればここのご主人様みたいなもんだろ? だったらメイドたちは、今の俺に逆らえないんじゃねぇか? 身体を触ったり、えっちなことしても……いいよな、多分!
 意を決した俺はとりあえず立ち上がったが……動くたびに胸や腹の脂肪が揺れて、ヤな感じだ。ある程度楽しんだら元に戻りたいんだけど……これ、ちゃんと戻れるよな?
 ふと漠然とした不安に駆られたが、それを忘れようと俺はナタリーちゃんの肩に手を置いた。
「え、えぇ、わっ、わたくしは大丈夫だぜ。それよりナタリーちゃん、チンコを出しなさい」
「はぇっ!? マリーヌ様、何を言って……」
「わたくしに逆らうの?」
「うぅ、それは……」
 マリーヌ様の話し方なんてよくわからないけど、ナタリーちゃんは抵抗をやめたので俺は彼女の服を脱がせた。
 しかしナタリーちゃんも、日頃からマリーヌ様に対して不満があったようだ。鬱憤を晴らすべく罵倒とスパンキングで怒りをぶつけてきて、でもそれが気持ちよくて……俺は気を失うまで、若くて立派なチンコでマンコを犯され続けた。





「あんっ、は、あぁっ♡ ……!?」
 下腹部、身体の中の異物感と自分の声で目が覚めた。
 いや、こんな高く艶めかしい……女のような声が、ワシの声であるはずがない。
 ワシは巨万の富を持ち、じきに王室入りして絶大な権力をも手にすることになるシルヴァン・ジル・アランブール伯爵だぞ。
 それが何故……なぜブラジャーを着せられている!? ワシの股の中に入っているのは一体何だ!? 寝そべったワシに馬乗りになっている、この不届者は誰だ!?
 覚えているのは……ミスをしてワシをイラつかせた、グズメイドのジゼル。あいつを部屋に呼び出し、仕置きとしてベッドに押し倒したところまでだ。それから部屋の中に黒い霧が入ってきて、気を失ったかと思えば……こうなっていた。
「うぁ、あっ、やぁん♡」
 ええい、なんだこれはっ。腹の中は気持ち悪いのに、気持ちよくて、声が抑えられんっ。
 それにこれは……乳房か? 白いブラジャーに包まれた乳房が、ワシの胸で揺れている……?
「なんだ、お前はっ……! このシルヴァン・ジル・アランブールに何をしている!」
 裸でワシの身体に何かしている気色の悪い男。その顔を見てやろうと視線を上げ……絶句した。
 それはワシだった。
 他ならぬシルヴァン・ジル・アランブールが、愉悦に浸った笑顔でワシを見下ろしている。
 ……であればワシは? ワシは誰なんだ?
「あら? お目覚めになりましたか、伯爵……あぁいえ、ジゼル」
「ジゼル、だとっ……!?」
 言われてみると、この下着やソックス、ガーターベルトはうちのメイドに支給しているものだ。頭に何か付けているような奇妙な感覚もあるが、これもメイドに支給しているホワイトブリムか?
 この胸に真っ先に込み上げてきた感情は、伯爵であるワシに女の給仕の格好をさせた目の前の男への怒りだった。
 だが起き上がろうにも、股関からくる未知の感覚のせいで身体に力が入らない。せいぜい顔を上げることしかできないが、そうすると目の前のワシと自分の胸についた乳房が視界に入って……伯爵であるワシとメイドのジゼルの身体が入れ替わった、その事実を嫌でも突きつけられる。
「ひぁ、んやぁっ♡ ワシ、マンコを、犯されてっ!? やめろっ、やめんかジゼルっ!」
 理解してしまった。
 今のワシは若くてエロい身体しか取り柄のないドジなメイドになっていて、マンコに己のチンコを挿入されていることを。
 この国最大の富と権力を手にするはずのワシの身体を、どこぞの農家から売られた田舎娘に使われている。ワシが田舎娘になって、一方的にマンコを犯されている。
 やはり込み上げてくる感情は屈辱に対する怒りであったが、それをぶつける術はなかった。
「いいの、そんな口の利き方してっ! 今は私がアランブール伯爵で、あなたがメイドのジゼルなのよ! 今衛兵を呼んで、あんたを牢獄にぶち込んでやったっていいのよっ!」
「それ、はぁっ♡ やめ、チンコ、奥に挿れるなっ……!」
「まだ立場がわかってないのね、このグズメイド!」
「んひぃぃぃっ♡ はふ、ん、くぁぁっ♡」
 チンコが、マンコの中のビラビラをかき分けてくるっ。わかりたくもないのに、狭くて敏感な膣肉でチンコの、亀頭の形ハッキリわかるぅ♡
 奥っ、奥のところカリで擦られるとぉ、頭、おかしくなるっ。ワシは女なんだって、無理やりわからされるっ。ここいじられながら「グズメイド」なんて言われたら、本当にワシはグズメイドなんだって、思い込んでしまうぅっ……!
「それにあんたは、私が『やめて』って言ってもやめなかったよね! 私の初めてはアルノーに……好きな男の子にあげるって、決めてたのにっ! 自分だけ『やめて』って言えばやめてもらえるなんて、都合が良すぎるのよ!」
「ふー、ひぃ、ワシは、シルヴァン・ジル・アランブールなんだぞっ……。ワシの言葉が、お前などの言葉と対等なはずがなひぃんっ♡ はっ、あっ、やんっ♡」
「そうね、対等なはずなかったわね! 今は私が伯爵で、あんたがグズメイドなんだから! 今のあんたの言葉には、何の力も価値もないのよ! それがわかるまで、やめないから!」
 クソっ、田舎娘が好き放題言いおって……!
 血筋だけでふんぞり返る無能な侯爵や公爵を出し抜き、王室に迎えられるというワシの野望があと少しで叶うというのに! ワシの立場を丸ごと奪われた上、女に、ただのメイドにされるなど、我慢ならん!
 なのに……マンコは勝手に悦んで、ワシのチンコに吸い付いておる。いや、マンコだけじゃない。メイドに次々と手を出すほどセックスを好むワシ自身、女体の強い快感に酔いしれているようだ。女として抱かれるなんて屈辱なのに、心のどこかで「もっと激しく抱かれたい、女の快感を味わってみたい」と思ってもいる。
「ふふっ、気付いてる? ジゼルちゃん、自分から腰振ってるよ? そんなに女の身体が、男に犯されるのが、気に入ったのね」
「ふ、あぁっ、黙れっ……!」
 指摘され顔が赤くなることを自覚したが、それ以上の反論はできなかった。……図星を突かれたという自覚が、あったからだ。
 こんなに強い快感を押し付けられているのに、この身体はまだ満足しない。チンコで突かれているところのさらに奥がキュンキュンと切なくて、まだ何かを求めている。けれどそれをどうすれば満たすことができるのかわからなくて、ただ腰を振り「もっと犯してくれ」とせがむことしかできない。
 それに「ジゼルちゃん」と呼ばれ、快感が一層強まったようにも思う。どういうわけか、ワシが自分を伯爵ではなくメイドのジゼルだと認めれば認めるほど、気持ちよくなれるのか……? しかしそれは、それだけはできん。
「そんなこと言いながら腰振っておまんこ締めて、ふふっ。実家で飼ってたワンちゃんの発情期を思い出しちゃった。ジゼルも口先だけは生意気だけど、すっかりメスになっちゃったね」
「う、くぁぁっ♡」
 まただ。ジゼルって呼ばれるたびに、伯爵であることを否定されるたびに、心が軽くなってマンコがキュンとするっ。女どころかメス犬扱いされて、悦んでるっ……?
 そう、かもしれん。
 伯爵として立派に振る舞う父の背を見て育ったワシは、父がこの世で一番偉いんだと思っていた。けれど社交の場で王族やより爵位の高い者どもに頭を下げる父の姿にショックを受け、ワシは金と権力を求めるようになった。
 だが今にして思えば、幼い日のワシはそんなものがなくとも幸せな日々を送っていたかもしれん。
 多くを求めれば求めるほど幸せは遠のき、しかしそのことに気付けず、何とか己を満たそうとさらに金を集めたり若い女に手を出したりした。
 そんな日々に、疲れていたのか。
 だから自分をジゼルだと思い込み己を否定することで……セックスのこと以外何も考えなくていいメス犬になろうとすることで、心が軽くなって気持ちよくなるのか。
 ……しかし数十年にも渡る我が悲願、そう簡単に手放せるものか!
「主人に向かって、口が過ぎるぞっ……! 例え田舎娘の身体であろうと、おぉ、ワシは、シルヴァン・ジル・アランブール伯爵っ……。メイドごときに屈しはせんぞ!」
「はぁ。カネの亡者もここまできたら、なんだか可哀想になってきたわ。だからってこれまでの非道を許すつもりも、身体を返してやるつもりもないけどねっ!」
「はぐっ!? ん、ぃ、おっ、お、んぉっ♡」
 ジゼルめ、急に動いてっ……! チンコが、膣肉を擦って、それだけで射精以上の快感がっ♡ しかもコツン、コツンって、腹の奥突かれて、足りなかったモノが満たされていくっ♡
 これは、まさか……子宮口を突かれているのか? ここに精液を注がれる予感、それがワシを満たしているのか? そうだ、ここに射精されたら、絶対気持ちいいっ♡
 だがそれは、男として最も屈辱的なことでもある。
「やめ、ろぉっ♡ ワシの、子宮、押すなぁっ♡ 孕むっ、このままだと、赤ちゃん孕むぅ♡」
「冷酷な伯爵だったのに、『赤ちゃん』なんて、ずいぶん可愛い言葉を、使うようになったわねっ! そのままメイドに、女の子になっちゃえばいいのよ!」
 そうだ、いつもなら「赤子」とか「ガキ」とか言ってるはずなのに。ワシの精神まで、女に近付いているのか? まだデキてもいないのに、自分の身体に宿る生命を慈しんでいるのか?
 そんなはずはない、ワシは男だ。いずれ王室に迎えられ、この国で最も多くの金と強い権力を持つことになる、シルヴァン・ジル・アランブール伯爵だ。
 心を強く持て、今は耐えろ。そして身体を取り戻し、この不届なメイドを牢にでもぶち込んで
「あ、やばっ、これ、精液出そうっ! 伯爵ちんちんで、メイドのジゼルに中出ししちゃうっ!」
「ひぃんっ♡ まっ、やめっ、おちんちんだめっ♡ ワシが、ワシが悪かったからぁっ♡ ジゼルに、なりたくないぃ♡ 中出しは、赤ちゃんはだめぇぇっ♡」
 今になってこれまで抱いてきたメイドたちの気持ちがわかったが、だからこそ今解放されることも、許されることもないことがわかるっ。
 そうしてプライドがズタズタに引き裂かれると同時に、アランブール伯爵という重荷を捨てられる喜びも感じてる。
 あうぅ……このままだと、自分の隠し子身籠っちゃう♡ お腹が膨らんで、おっぱいから母乳出るようになるっ♡ ワシは男だったのにお母さんに、伯爵だったのに伯爵の愛人メイド、ジゼルになりゅうっ♡
 嫌なのに嬉しくて、もうわけわかんないっ♡
「言ったでしょ、今のあんたの言葉は、無意味で無価値って! それにこんな気持ちいいの、止められないからっ! あぁもう出るっ、私が、伯爵になれるっ!」
「んぃっ? おっ、お、おぉぉぉぉぉぉぉぉんっ♡」
 子宮に精液きたっ♡
 ワシ、イってる♡ おまんこで中イキしてる、というか、全身がおまんこになっておちんちんに貫かれたみたいっ♡ 頭までおまんこに、女になるぅぅ♡
 …………。
「ふぅ、これが男の……悪くない、わね。……アルノーとは、結婚できなくなっちゃったけど。でもこれからは私が伯爵だもん。私の家も、アルノーの家も、契約を切られて困ってるみんなも、私が助けてあげられる。……ほらジゼル、あんたはメイドなんだから、さっさと後片付けしなさいよ」
 ワシは……メイドの、ジゼル……? ご主人様の、命令に、従うだけでいいんだ……。
「はひ……んぶっ、む、ぐっ♡」
 ワシはボーッとする頭で考えることも放棄し、目の前に差し出されたおちんちんをしゃぶって綺麗にしてあげた。臭くて苦かったけど、美味しいような気もした。





「そんな、いけません、お嬢様っ……」
「うるさいですわね! 仕方ないでしょう、男の性欲が制御できないのですから!」
 お嬢様は紐やら布やらを引きちぎるようにして、俺のドレスやコルセットを脱がせていく。
 魔力の黒い霧が晴れ、ヴァレリーお嬢様が泣き止んだと思ったら、急に立たされてこの有様だ。切り替えが早いのは良いことかもしれないが、このままでは……。
 足元には鏡の破片が落ちているので、靴とソックス、ガーターベルトだけは身につけることを許されたが、さすがに恥じらいで俺の声も小さくなった。
「あの、そんなにまじまじ見ないでください……」
 何度も入れ替わっているが、初めて見るお嬢様の裸。ドレスに抑えられていた乳房は思っていたより大きく、今の俺は子を産み育てられる身体なのだとわからされる。股にはアレが生えていない上、お腹の奥のあたりがムズムズと疼いていて、男ではあり得ない感覚に戸惑っていた。
「べっ、別に良いでしょ、あたしの身体なんだもの! さすがあたし、どこから見ても美しくて良い女ですわ! おーっほっほっほ!」
 お嬢様、そんな笑い方をするキャラじゃないでしょうに。
 やっぱり無理をしていたようで、お嬢様はすぐにしゅんと泣きそうな顔になった。
「……もっとしゃんとしなさい。これからはあなたが、ヴァレリーお嬢様なんだから」
 これまでも入れ替わるたび揶揄うように「ヴァレリーお嬢様」と呼ばれてきたし、メイドや使用人たちからもその名で呼ばれたことはある。
 けれど今のお嬢様の、寂しげな言い方は……それが今後一生俺の名前になるのだと、強く俺に意識させた。
「ユーリ……ぐすっ……あぁもうっ! でもやっぱり、イヤですわ! ユーリは、あたしの執事だもんっ……! お姫様なんかになっちゃ、イヤですわっ……!」
「ひゃっ」
 またお嬢様が抱きついてきた。
 大きく、固く、たくましい俺の身体。それに抱かれて胸がドキドキするのは、俺が女に……お嬢様になってしまったからだろうか。それとも、身体と性別が入れ替わっても俺がお嬢様を愛することができるからだろうか。
 それにしても、相変わらずワガママな人だ。
「俺だって、姫になんかなりたくないですよ。でも身体を入れ替えた上に鏡を割ったのは、お嬢様ではありませんか」
「そうだけどぉ、うぅ……そうやって正論であたしの揚げ足を取るところ、大っ嫌い……!」
 そう言いながらも、お嬢様は俺の肩を優しく押す。
 俺はアランブール伯爵の娘で、いずれは王子様の妻となる女。そしてお嬢様は没落貴族出身の、ただの執事。そんな俺たちが交わることなど、あってはならないのに。
「んっ」
 この行為を咎めようとする俺の唇を、お嬢様の唇が塞ぐ。俺も、そしておそらくお嬢様も、唇同士のキスなど初めてなのに。熱く、強く求められて……この身体が、快感を覚える。
「む、ちゅっ……。い、いけませんお嬢様っ。お嬢様のお身体を、俺なんかの身体で穢しては……」
「自由に生きろって言ったのはあなたでしょう? だから一番最初に、あたしが一番欲しいものを手に入れるの! 男になったからかしら。元は自分の身体なのに、抱きしめてキスをするだけで……こんなにも、あなたが欲しいという気持ちが強くなって」
 これは本当に俺の顔だったのだろうか。そう思ってしまうほど、お嬢様はうっとりしたような表情で俺を見下ろす。
 もう逃げられないな、と俺は直感した。
 王族に嫁いだ娘が傷ものとわかれば、アランブール家もタダでは済まないだろう。お嬢様はそれを見越した上で俺を犯し、自分を縛り続けてきた伯爵へ復讐しようとしているのかもしれない。
「あ、んっ」
 ……いいや、それも違うか。
 お嬢様は、優しく俺の胸を触る。その手はただ純粋に、俺のことを愛そうとしているのがわかる。
 この愛を受け入れてしまったら、俺はどうなるのだろう。
 ヴァレリー・ルネ・アランブールとして、男なのに純白のドレスを着せられて。好きでもない男とキスをして、結婚して。そしてこの国のお姫様になり、王族の世継ぎを産むために王子に抱かれる。
 でも俺が処女ではないと知った王子は、婚姻の前に不貞を働き傷ものになっていた妻をどうする? 怒って流刑や幽閉に処するかもしれないし、最悪の場合処刑される。それほどまでにこの国では王家が力を持っており、王家を欺いたり怒らせることは大罪とされる。きっと俺も、無事では済まないだろう。
 でも……それでも、構わない。
 今ヴァレリーお嬢様からの愛を受け取れるのなら、俺は未来の罰を恐れない。どんな目に遭ったって、俺は後悔しないだろう。だから。
 背伸びをして、今度は俺の方からお嬢様に口付けをした。
「むちゅっ……俺もいつからか、明るく眩いお嬢様の笑顔に惚れ、お慕いしておりました。俺も、お嬢様が欲しいです」
 俺の告白にお嬢様は驚いたけれど……あえて言葉ではリアクションを取らず、すぐに毅然とした態度で胸を張った。
「……ではユーリ。このあたし、ヴァレリー・ルネ・アランブールが命じます。あたしの愛を、受け取りなさい」
「我が身に余る光栄、謹んでお受けいたします」
 身体が入れ替わっても、俺は執事でお嬢様はお嬢様。そのことを互いに意識させるのに、これ以上のやり取りはないだろう。
 お嬢様の手が優しく俺の肩を押す。服の上からでも高鳴る鼓動や肌の熱さがバレてしまいそうで、恥ずかしい。
 俺がベッドに押し倒され寝転ぶと、お嬢様は腰の辺りにゆっくり乗っかって胸を揉んできた。
「や、んっ……お嬢様ぁ……」
「ちょっと、そんなはしたない声出さないでくださいましっ。自分の嬌声なんて……恥ずかしい、ですわ」
「ですが、あぁ、お嬢様のお胸が、気持ちよくってぇ……♡ 今まで抑圧してきた、お嬢様への想いが溢れてくるようで……俺、いやらしい女の子になっちゃったみたいです♡」
 胸を揉まれて走る快感。それは確かに気持ちいいのだけれど……俺は過剰に喘ぎ、舌を出しただらしない表情でお嬢様を煽る。
 それを見たお嬢様は、乳首を重点的に触ってきた。
「ひぁっ!? は、う、お嬢様の、乳首、すごいっ♡ こんなの、おかしくなりますっ♡」
「ふふっ、ユーリったら。いつも真面目でお堅いのに、女になった途端こんなに淫らでえっちになっちゃうなんて。でもユーリ、その大きな乳房と敏感な乳首は、これからずっとあなたのものですのよ?」
 この乳房と乳首が、ずっと俺のもの……?
 そんなの、ダメだ。こんなにいやらしくて気持ちいいものが自分の身体に付いていたら、触るのやめられなくなってしまう。ずっと自分のおっぱいを揉んで乳首を勃起させる、変態女になってしまうっ。
 でもそんな妄想のせいで、快感はさらに強まって。
「はぁ、ひぃんっ♡ ダメです、お嬢様っ。そんな、爪先で、カリカリされるとぉ♡ なんか、出るっ、漏れちゃいますっ♡」
「いいですわよ、我慢しなくてもっ! ユーリのイキ顔、お見せなさい!」
「あ、ひ、ありがとう、ございますっ♡ 俺っ、もう、イクゥゥゥゥっ♡」
 こんなにあっさり、乳首だけでイってしまうなんて。
 あまりの快感に身体が震え、股関から何かが漏れ出すような感覚に襲われる。
 しかし男の身体と違い、絶頂しても全身の熱が冷めることはない。それどころか絶頂にも程度があり、今のはとても浅いイキ方だったことを知ってしまった。
 俺の顔を見たお嬢様は満足げだが……恥ずかしくて、俺は横を向く。けれど口からは、もっと恥ずかしい言葉が漏れ出ていた。
「お嬢、様……俺、本当に好きな人に、初めてを奪って欲しいです。俺はお嬢様のものなんだっていう証を、この身体に刻んでください……」
 執事のくせに、おねだりなんて。自然と「初めてを奪って」なんて言葉が出たあたり、俺は心まで女になってしまったのだろうか。
 生意気だって怒られるかもしれないと思ったけれど、お嬢様は優しく俺を撫でてくれた。
「もちろんですわ、ユーリ。例え離れても、あたし以外の男と結ばれ抱かれようとも……その魂はあたしのもの。これより始まるまぐわいを、互いに契りとしましょう」
 お嬢様は無理やり布を引っ張り、服を脱いでいく。お嬢様が男の身体の力を得るとこうなるのか。感心半分、恐怖半分で、ビリビリと響く音に俺は苦笑いを浮かべた。
 けれどお嬢様が、勃起した男性器を見せつけてくると……俺の股の疼きが、さらに強くなる。
 お嬢様のペニス……熱く、固くなっていることが見ているだけでわかる。
 あれが、俺の女性器を貫くんだ。俺がお嬢様のものである証を、決して消えぬ烙印を押す焼鏝なんだ。これから熱と痛みに苦しむことがわかっていながら、俺はそれが欲しくてたまらなかった。
「お嬢様、来てください……。俺のおまんこ、お嬢様で満たしてくださいっ……♡」
「えぇ。あなたはずっとあたしのものよ、可愛いユーリ♡」
「ひゃ、んっ……く、あぁぁぁぁっ♡」
 股の中に、熱く太いものが入ってくる。
 やがてそれは俺の膣内でつっかえ、それでもミチミチと突き進もうとする。
 当然痛みはあったが、それも覚悟の上。俺はお嬢様に無用な気遣いをさせまいと、悲鳴のかわりに高く艶やかな嬌声を上げた。
「だ、大丈夫ですの? 血が出てますわよ、ユーリ……」
「はひ、大丈夫、です……。使用人にすぎなかった俺が、お嬢様のペニスで、処女をもらわれて……本当に、お嬢様のものになれたんだって、誇らしいんです」
「あたしも、嬉しいですわ。これであなたの身体には、決して消えぬ愛のしるしが刻まれたのですから。でもあたし、もっとあなたを感じたい……動いてみても、よろしくて?」
「えぇ……今の俺は、お嬢様の女ですから……。この身体、好きなようにお使いください」
 お嬢様に求められる悦びで、痛みさえも誉に変わる。
 おまんこだけじゃない。命じられたならこの艶やかな唇でも、大きな胸でも、お尻の穴でだって、お嬢様にご奉仕したい。ついさっきまで男だったのにそんなことを考えてしまうほど、お嬢様の愛が込もったおちんちんは俺を女にしてしまった。
「や、んぁっ、お嬢様の、ちんちんっ♡ 俺の、おまんこの、イイところ擦って♡ これ、好きですっ♡」
 でも、今はおまんこがいい。おちんちんを膣の肉で包んでいるだけなのに、全身で抱き合っているような感じがして。相手がお嬢様だから、愛している人だから、こんなにも気持ちいい。この快感が、ずっと続けばいいのに。
「あたしも、ユーリのおまんこ好きっ♡ ぎゅって、抱きしめられてるみたいっ♡ はぁ、ユーリっ、ずっと、ずっとあたしのものっ! ずっと、そばにいなきゃイヤ!」
 お嬢様も同じことを感じているようで、それが嬉しくて。またおまんこに、何か込み上げてくる。これ、確実にさっきより深くイクっ♡
「あ、おっ、お嬢様っ、俺、イキます♡ お嬢様っ、イかせてくだしゃい♡」
「じゃあもっと、おまんこ締めなさいっ♡ あたしのおちんちんも、イかせてみせなさい!」
「がっ、がんばりますっ、俺のおまんこ、ぎゅってしますっ♡ ぎゅっ、ぎゅーっ、あぁ、お゛っ、激しっ、お嬢様、お嬢様ぁ♡」
「ん、これ、キツくて、すごいっ♡ 可愛いユーリのおまんこに、濃いの出ちゃいますわぁぁ♡」
「んひぃぃぃっ♡ これ、なかにっ、あぁぁぁぁぁぁあっ♡」
 腹の中が、熱くて重い液体で満たされる。
 その快感と満足感に、俺も頭がどうにかなるんじゃないかってイキ方をした。
 …………。
「は、ぐっ♡ お嬢様っ、俺、イったばかりなのにぃ♡」
 なのにお嬢様はおちんちんを抜かず、それどころかまた俺の膣内で膨らませてきた。
「ふと考えましたの。このままあなたが身籠ってしまえば、婚約も破談になるのではなくって?」
「え、まぁ、それは、あんっ♡ そう、かもしれませんけど」
「というわけで命令よ、ユーリ! あたしとあなたの子を産みなさい!」
「……わかりました、お嬢様」
 まったく、最後までお嬢様のワガママに付き合わされるとは。
 でも、俺とお嬢様の子か。きっと父親に似て賢く、母親に似て美しい子に育つだろう。……いや、逆か? 俺が母親になるんだよな……? じゃあ、俺のお腹で……。
 うぅ、むしろ興奮してる。愛する人と子作り、ドキドキするっ♡
 俺たちがどうなるかはわからないけど……今はまだもう少し、お嬢様に愛されたい。





 結論から言うと……俺と王子様の婚約は破棄され、俺は晴れてお嬢様の妻となった。
 というのも、伯爵が娘……というか俺の意思を尊重し、婚姻を取りやめたいと王族に申し出てくれたからだ。王族からは強く非難され、多額の違約金じみたものを払わされたそうだが、伯爵はまるで気にしていなかった。
 というのも。
「モグモグモグ、ン、ゲプッ。くぁーっ、なんだこれ! めちゃくちゃうめぇ!」
 一家揃っての食事の席で、伯爵夫人のマリーヌ様は皿に乗った料理を一気に平らげた。
「ちょっとアルノー、お行儀が悪いわよ。私たちは伯爵夫妻なんだから、もっとお上品に食べなきゃ」
 隣に座った伯爵が、夫人をたしなめる。
 あの日、入れ替わったのは俺たちだけではなかった。
 伯爵はメイドのジゼルと、マリーヌ様は城に忍び込んでいたアルノーという少年と入れ替わってしまったようだ。なんたる偶然か、二人は農家出身の幼馴染だったらしく、今は伯爵夫妻として仲睦まじく暮らしている。
 そして伯爵の地位と金をそのまま受け継ぎ、周囲の人間に相談しつつ、素人ながら民のための治世に精を出している。
「んなこと言ったって仕方ねぇだろ。昨日まで生理でダウンしてて、全然食ってねーんだからよ。寝てた分まで食わねぇと損しちまうっ! メイドさんっ、これおかわりね!」
「あんた、また太るわよ。……でも生理が来るってことは、まだ、その……」
「ん? なんだって?」
「な、なんでもないっ! ほどほどにしておきなさいよ、食べ物を作る人、料理する人への感謝を忘れたら、私たちはただのイヤなオジサンオバサンなんだからね!」
 ジゼルはアルノーくんと子作りをしたがっているフシがあり、見ていて微笑ましい。あの様子じゃ、進展はもう少し先かもしれないけど。
 ちなみに本物の伯爵夫妻は若く貧しい身体になってしまったが、どう心変わりしたのか「また二人でやり直す」とこの家を出た。今はアルノーくんの実家を継ぐため勉強中みたいだ。
 テーブルの向かいでは。
「あ、あの、ポレット様……そのオードブル、いかがでしょうか……? 皆さんに教えてもらいながら、僕が作ってみたんですけど……」
「塩味が強すぎ。これでは次に出るポタージュの味がわからなくなるでしょ? ……でも野菜の切り方は上達してるわ。また一歩、立派なメイドに近付いたわね」
「やった! ありがとうございます、ポレット様!」
 伯爵の息子リオネル様と、教育係をしていたメイドのポレットがそんな会話をしながら食事している。
 あの二人も身体が入れ替わってしまい、ポレットは才色兼備な御曹司として伯爵夫妻をサポートしながら、いずれ家を継ぐための勉強を進めている。「自分の手で人々を幸せにする夢が叶う」と随分嬉しそうだった。
 何があったのかはわからないが……自分より倍近く歳上の女になったリオネル様は、「花嫁修行」と称してメイドの仕事に精を出している。将来は「ポレットのお嫁さんになる!」とのことで、周りの使用人たちからも可愛がられているようだ。もっとも、使用人たちもみんな男女で身体が入れ替わってしまったのだが。
 ただ不思議なことに、伯爵夫妻やポレットたちのように、この集団入れ替わり事件で不幸になった人間はいない。みんな多かれ少なかれ嘆くことはあれど、納得した上で新たな人生を進んだり、パートナーを見つけたりしている。
 そして俺たちも。
「はぁ……弟のリオネルが、あの鬼教師のポレットになってニコニコしてるなんて、いつ見ても変な気分」
「お嬢様も同じこと思われてるんじゃないですか?」
「あなたはメイドになっても本当に一言多いですわね、ユーリ」
 ため息を吐くお嬢様を茶化すと、睨まれた。
 これはレアケースのようだが……あれから俺たちは、身体だけを交換して生活している。お嬢様は俺の身体で伯爵家の嫡男、ヴァレリー・ルネ・アランブールとして生きているわけだ。
 外見も性別も変わったので、さすがに社交界や表舞台に出ることはなくなった。それでも新たな伯爵夫妻を手伝い、今は俺の実家など、アランブール家が踏み台にしてきた貴族の立て直しの援助を主な仕事にしている。
 俺はお嬢様の身体で、お嬢様専属の使用人を続けている。性別が変わったので執事からメイドになっているが。
 仕事もお嬢様のお世話と、以前から変わらない。いや、着替えや入浴のお世話など、さらに任される仕事が増えた。その分、よりお嬢様のワガママに振り回されている気もする。
 でも今は、それだけじゃない。
「それよりお嬢様、報告することがあるのでしょう」
「わ、わかってますわよ……! こほん、えー、食事中ですが、家族のみなさま……じゃない人も半分以上いますけれど、ご報告がございますわ」
 お嬢様が照れながらも声を上げると、部屋の中の視線が一斉にこちらを向く。しかし注目されることに慣れているのであろうお嬢様は、そのまま立ち上がった。
「あたし、ヴァレリー・ルネ・アランブールの妻、メイドのユーリは……本日、懐妊していることがわかりました」
 一瞬、シンとした沈黙が部屋の中を満たす。
 けれど伯爵夫人……になったアルノーくんが、最初に声を上げた。
「え、じゃあ俺、おばあちゃんってこと!? オバサンっていうかもうババアじゃん!」
「ちょっ、何言ってんのよバカ! あ、えっと、おめでとうございます、ヴァレリー様、ユーリさん! ほら、あんたも!」
「お、おう、おめでとうございます!」
 二人が祝福してくれると、一気に拍手が響いた。
 アルノーくんはジゼルに頭を叩かれていたが、俺は結構好きなんだよな。アルノーくんのデリカシーはないけど、場を和ませてくれる物言い。
 二人も性別が変わった上、一気に歳を取ったのだからもっと悲嘆に暮れてもおかしくないのに……やはりお互いに心が通じ合って、愛し合っているからこんなにも笑顔が素敵なのだろう。
 続いてリオネル様が、お嬢様に声をかけた。
「おめでとうございます、お姉様! 僕も早くポレット様の赤ちゃんを授かれるよう、頑張りますね!」
「う、うん……頑張って……」
 それに対してお嬢様は苦笑いを返すしかないようだ。
 俺には教育係の元同僚、ポレットが話しかけてきた。
「おめでとう、ユーリ。あなたがお嬢様の身体で懐妊だなんて……ふふ。お互い、人生何が起こるかわからないものね。まぁ元お嬢様の世話係のよしみで、妊娠中はあなたの世話をしてあげてもいいわよ」
「それは助かるよ、ポレット。……早速だけどさ、妊婦が食べちゃいけないものとか、わかる?」
「アルコール、食中毒の危険がある生ものや、塩分の高いもの。あと魚全般がおすすめできないわ。つまりこのテーブルにあるもののほとんどね」
「え、そうなのか!?」
「はいはいはい! じゃあユーリさんの分も俺が食べてあげる!」
「あんたは食べなくて良いの! そのうち、私たちだって赤ちゃん作るんだから……」
「へ? なんて?」
「なんでもない! 痩せろって言ってんの、このデブババア!」
「んだとぉ、ジゼルだっておっさんのくせに!」
 途中からアルノーくんとジゼルが会話に入り込み、貴族の食事の場とは思えないほど賑やかになった。
 アランブール伯爵の非道は枚挙に暇がない。その全てを精算するなんて容易ではないはずだ。俺たちには何の罪もないけれど、アランブール家の人間としてきっと大勢の人から恨まれている。王族からも疎まれているし、多くの理不尽に見舞われるだろう。
 それでも、俺たちならきっとやり遂げられる。全ての民も、俺たちも幸せになれる。
 そんな気がしてならない。
 元は赤の他人同士だったり、身分に違いがあったりしても。今はこんなにも、明るい家族になれたんだから。
 俺はお腹を優しく撫でた。ここに宿った生命を、希望の象徴のように感じたから。
 ……いっそのこと俺たちみたいに入れ替わってしまえば、みんなしがらみを捨てて幸せになれるのかも……? なんて、考えたりして。

あとがき
どうも、これを書いた異空です。
前回は入れ替わった男女の甘々なえっちを書きましたが…
入れ替わりの真髄は獲得と喪失と混沌! だと思うので、それを知らしめるべく今回のお話を書きました。美味しい目に遭う者もいれば、酷い目に遭う者もいる、入れ替わりの醍醐味を楽しんでいただけたら嬉しいです。

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