先輩後輩入れ替わりin12月24日のラブホ

まえがき
夢見夜七葉です。挿絵がある予定でしたが、やめました。
12月25日に思いついたので、クリスマスには間に合いませんでした。

「ふへへ、やっぱミニスカサンタコスはエロいっすねえ」

「僕の顔で気色悪い顔するな!てかこれお前の体だろ!」

「まあそうっすけど、先輩が入ってるおかげで2割増くらいエロいですよ!」

 僕はいま、仲の良い後輩に体を入れ替えられた状態で際どい衣装を着せられている。
 なぜこうなってしまったかというと、つい数時間前まで遡る。

「せんぱ〜い、今日はクリスマスイブですね〜」

「ああ、そのせいで僕たちはこんなに忙しなく働かないといけないってわけだ」

 今日は12月24日。世間ではクリスマスだなんだと騒がれているが、僕にはそういったイベントへの縁などない。だからこそ、僕は今こうしてアルバイトに勤しんでいるわけだ。

「先輩、今夜は暇ですよね」

「なんで断定系なんだよ」

「ぼっちの先輩にそんなのあるわけないじゃないですか」

「なんだとぉ?」

 そんな僕を煽ってくる彼女の名は立花円佳 たちばなまどか。僕こと平井 ひらい なおとバイト先の後輩である。3つ年下の高校生で、僕より10センチくらい背が低くて、ちょっと茶色みかかった髪を肩くらいまで伸ばしていて、くりっとした目をしている。見た目だけは結構可愛い子であるが、性格は完全に僕のことを舐めくさっている。他の相手にはこんな態度を取らず、徹底的に僕だけを馬鹿にする。
 立花とは、とあることをきっかけに仲良くなった。今はたまにカラオケをしたり映画を観たりするくらいの仲だが、付き合ってはいない。

「で、実際のところは?」

「……何もないけど」

 ここは年上らしく言い返してやりたかったところだが、彼女の読み通り僕はクリスマスに誰かと会って何かするとか、そんな予定はどこにもない。こうしてイブの昼間にシフトが入っていることからも明らかであろう。こいつはわざわざそんなわかりきったことを煽って一体どうするつもりなのか。

「よろしい、じゃあ、今夜はクリスマスデートしますよ」

「おう、クリスマスデートだな。……クリスマスデート!?!?」

 一瞬理解が追いつかなかった。こいつの口からそんな浮かれた言葉が出てくるのなんて想像だにしていなかったからだ。
 しかし一旦僕は冷静になる。良く考えろ今までの彼女の言動を。絶対また僕の反応を見て揶揄うための冗談だ。

「ふへへへへっ!一瞬フリーズしててマジでウケる」

 やはり冗談だったようだ。彼女の言葉に一瞬でも期待した僕が馬鹿だった。

「じゃ、バイト終わったら行きましょー」

「へ?マジで行く流れ?」

「行きましょうよ、もう予約とってありますし」

 僕の思考は、もう一度フリーズした。冗談じゃ、ないのか?



「……で、なんでクリスマスイブの夜に来るところがここなんだよ」

「いや、ほんとはカラオケ行きたかったんですけど全部埋まってて……まあここもカラオケあるし誤差かなあって」

「だからってなんで僕をラブホに連れてくるんだよ!?あれか?パパ活ってやつか?僕からお金を毟り取る気か?」

 まったく集中できなかったバイトが終わってすぐ、立花に連れられて数キロ。たどり着いたのはやたら煌びやかなピンク色のホテルだった。

「嫌なら帰ればいいじゃないですか。あ、それともまさか先輩、童貞だからラブホ入るの怖いとかぁ!?」

 再び煽られる。確かに僕は童貞だ。いや別に怖いとかではないのだが。僕とこいつが一緒にラブホなんて入ったらやばくないか。僕は大人、相手は高校生だぞ。警察を呼ばれたら人生が終わらないか。

「いやその手には乗らないぞ。僕は帰る。未成年淫行で捕まりたくはないからな」

「まあ逃さないっすけど」

 踵を返した僕の背中にドンっと衝撃が走り、視界が揺れる。完全に不意を突かれた。

「いてて……やりやがったな立花」

「先輩が逃げようとするのが悪いんすよ」

 可愛らしい声で抗議すると、目の前にいる僕は、悪びれることもなくそういった。
 いま起こっているこの現象こそが、僕と彼女が仲良くなった原因だ。彼女とは、バイト中たまたま衝突した際に体が入れ替わってしまい、しばらくそのまま過ごしたことがある。その際にある程度お互いに情報交換したり、協力して生活したりしていたら、今のような関係性になったわけである。しかし後遺症なのか、体当たりされると、再び体が入れ替わるようになってしまった。

「ふへへ、いいんですか?このまま帰ったら、しばらく体返してあげられませんけどぉ?」

「卑怯だぞ!」

 ちなみに、なぜか入れ替わりは彼女からぶつかられないと発生しないので、こうなったら僕の生殺与奪の権は彼女に握られたも同然だ。だから僕は彼女の言うことを聞くしかない。ちなみに入れ替えられたのは持久走が面倒だからと押し付けられて以来である。

「まあまあ、とりあえず寒いですし入りましょ」

「……はぁ、しょうがないか」

 諦めてラブホテルに入る。どんなギラギラした内装なのかと思ったが、中は意外と落ち着いた雰囲気だった。立花はタッチパネルを慣れた手つきで操作し、チェックインの手続きを済ませていく。

「ラブホ、お前は初めてじゃないのか?」

「え、先輩それ聞いちゃいます?セクハラでは?」

「自分から連れ込んでおいて何言ってるんだよ」

「じゃあ、乙女の秘密ということで」

 はぐらかされてしまった。まあこいつかわいいし、きっと彼氏にでも連れてこられたことがあるのだろう。それともあれか、パパ活ってやつだろうか。

「304号室ですって。行きましょ」

「お、おう」

 やや狭いエレベーターで登った先は、見た感じ普通のホテルと変わらないような印象を受ける。扉を開けると、薄暗い部屋の中からアロマのいい香りが漂ってくる。

「はぁー、やっと座れたぁ。あ、先輩部屋明るくしてください」

「スイッチどこにあるんだ?」

「ベッドのところにでかい機械あるじゃないですか、あれです」

「あれか」

 言われるがまま、やけにでかいベッドの枕元にある機械のレバーをいじくりまわし、なんとか部屋の照明を操作する。

「とりあえずご飯食べましょー」

 僕の体は、初めてくるはずのラブホのソファでくつろぎながら、バイト先から持ち帰ってきた廃棄の惣菜と、いつの間にか用意していたシャンメリーを広げている。その様子を見ていたら緊張するのもなんだか馬鹿らしくなってきた。

「それ、どっから持ってきたんだよ」

「自前に決まってるじゃないっすか。やっちゃいましょうよ、クリスマスパーティ」

「まあ、たまにはそういうのもありか」

 部屋のウォーターサーバーの近くにあったカップを持ってきて、そこにシャンメリーを注ぐ。多少不恰好だが、そこはお互いに気にしていない。

「「かんぱーい」」

 自然に乾杯してから料理をつまみ始める。大量に入荷していたチキンが余っていたので、それなりにクリスマスっぽい料理が並んでいる。よく見たらケーキまである。ちゃっかりしたやつだ。

「今年色々ありましたねー」

「僕たちが知り合ってからはまだ半年くらいだけどな。まあ、本当に色々あったけど」

 年の瀬なので、話す内容がクリスマスというよりは忘年会のような気もしつつ、今年の出来事を振り返ってみる。立花は5月くらいから働き始めて、シフトが被ることが多かったのでそれなりに接点があった。

「ほんと、体が入れ替わるなんて今でも信じられませんよね」

「現在進行形で入れ替わってるじゃんか」

 彼女と会って1か月くらい経ったころ、ドジを踏んだ彼女と入れ替わり、そのまま一週間くらい彼女として過ごして、再び彼女とぶつかった際に元に戻った。それ以来、ことあるごとに入れ替えられては戻されて、もうこいつの存在なしで今年の話はできない。

「あの時はたまたまだったんですけどね、なんか目覚めちゃったみたいで。便利だからつい使っちゃうんですよねー」

「巻き込まれる僕の身にもなって欲しいよ、マジで生理だからとかで押し付けてくるのはもう勘弁だよ」

 色々理由をつけてなんども彼女と入れ替わっているため、もう入れ替わりには慣れてきてしまっている。今もこうして平然と彼女の体で食事して、会話しているわけだ。
 その後も思い出話をしながら夕食を平らげていく。男の体の方がたくさん食べれるから楽しいと、以前彼女が言っていたのを思い出す。入れ替わってみると、男女の差がよくわかる。逆に案外違わないところもわかる。そういう意味では貴重な経験と言えるのかもしれない。

「ごちそうさまでしたー。あー。食べた食べた」

「ごちそうさまでした。んで、この後はどうする?」

「カラオケしようって思ってましたけど、普通に疲れててあんまりやる気にならないっすね」

 食事を終え、立花はスマホをいじり始める。そのスマホは精神側のものなので、自分がプリクラの貼られているスマホを持っている変な光景になる。

「ごめんちょっとトイレ行ってくるわ」

「はーい」

 疲れて少しぼーっとしていると尿意を催してきたので、立花の体でトイレに入る。最初は男女差に戸惑ったものだが、今ではもうこの感覚にも慣れっこだ。

「……なんか、案外普通だな」

 体を入れ替えられてまでラブホに連れ込まれて、最初は何か企んでいるのではないかと疑っていたが、本当にあいつの言ったとおりカラオケが空いてなかっただけかもしれない。クリスマスなんて混雑しているだろうし不自然な話ではない。
 あいつと過ごすクリスマスイブ、案外悪くないな。なんて思った矢先、事件は起こった。

「先輩せんぱーい、これ見てくださいよ」

「……帰っていいか?」

「だめでーす」

 そこにはうすっぺらいトナカイの着ぐるみを纏い、やけに短い丈のサンタ衣装を持った僕がいた。

「いやお前何やってるんだよ」

「何って、クリスマスっぽいことですよ」

「ほとんど返答になってないぞ」

「いやぁ。このラブホにコスプレ貸し出しサービスがありましてぇ。なんと今日は特別に、全部屋にこれがおいてあるみたいでぇ。せっかくなのでぇ」

 目をそらしながら、見え透いた言い訳をしてくる彼女。もしかして最初からこれが目的だったか。

「だからって人の体でそんな格好するやつがあるか。そしてなんでお前は僕の服を脱がせようとしてくるんだ」

「あたしの服ですよーだ」

「揚げ足を取るな!パンツを脱がせるな!わかった!着るから!着るから離せ!」

 抵抗しようにも男の力で掴まれては、女である今の僕では敵わないことは明白だった。だから大人しく服を脱いで下着だけになる。

「ブラも外してください」

「なんで」

「その方がエロいので」

「おっさんか!」

 僕の顔は、期待と何かが籠ったギラギラした目で立花の体を見つめてくる。こいつ、入れ替わっているからって体の欲求に流されすぎではないだろうか。しかし抵抗はやはり無駄なので、大人しく全ての衣類を脱ぎ捨てて、ほぼ布一枚のサンタ衣装に身を包む。ついでにサンタ帽も被せられる。

「ふへへ、やっぱミニスカサンタコスはエロいっすねえ」

「僕の顔で気色悪い顔するな!てかこれお前の体だろ!」

「まあそうっすけど、先輩が入ってるおかげで2割増くらいエロいですよ!」

 もう何回も入れ替わったことがあるので、女物の服を着るのはある程度慣れたし、なんなら裸も見たことはある。だがこれはそれとは全く別種の恥ずかしさだ。文化祭で低クオリティの女装させられた時が一番近いか。ついでに下着も一切つけていないので、露出狂にでもなった気分と言えるかもしれない。

「……やばいです、先輩のアレがめちゃくちゃデカくなってます」

「そんなことを報告するな」

 確かにこいつの言うとおり、僕の体の股間部分は着ぐるみの上からもわかるくらいに膨れ上がっていた。まあ、こんな際どい格好の女が目の前にいて勃たないほうが無理というものなのだが。なんでこいつは少しずつにじり寄ってくるんだ。

「お、おい何をする気だ」

「ごめんなさい先輩っ!」

「うぉっ!?」

 ギラギラとした目で見つめてきた僕の体の立花によって、立花の体の僕は謝られながらベッドに押し倒される。

「おい待て、やめろ。これはお前の体だぞ!?」

「ならいいじゃないっすか、自分の体なんだから……!」

「んむっ!?」

 キス、されたのか。僕は。目の前にある僕の顔が、押し付けるように唇を合わせてくる。なんだか気色悪いのに、なぜだか体が熱くなる。かちりと何かのスイッチを入れられてしまったような感覚。

「はぁ、はぁ……おい……どうしたんだよ立花……」

「どうしちゃったんでしょうね……?あたしにもよくわからない、です」

 確かに僕と立花は仲が良い。だがあくまで先輩と後輩である。こんなことをする間柄ではない。だからやめさせるべきだ。それなのに、なぜか抵抗しきれない。

「でも、もっと、続けたいですっ……!」

「お、おい……んぁっ!」

 下着を外してしまった僕の下半身に、彼女の指が入り込んでくる。ちょっと痛くて、それ以上に気持ちよくなってしまう。
 そこに何かを入れる感覚は初めてではなくて、入れ替わっている間つい魔が刺していじってみたことがある。だが、僕の太い指が入った時の感触は、その時とは段違いだった。

「ふへへ……可愛い声出しますね。先輩のくせに」

「元はお前の声だろっんっ!」

 エロ漫画なんかに「口ではそう言っても体は正直だな」なんてセリフがあるが、まさに今の僕がそれになってしまっていることに気がついた。気がついて、恥ずかしくて、余計に体が熱くなっている。そんな僕に、彼女はキスと愛撫を続ける。

「ひゃぁ……ひゃめろ……」

「ふへ。かわいいですねぇ、せんぱい」

 やめろともまともに言えなくなってきた僕を見て、立花は手を緩めるどころか、どんどん激しさを増していく。

「あたしの体はねぇ、ここが気持ちいいんですよ」

「んんんんんっっ!?!?」

 突然訪れる、これまでとは段違いの、深い刺激。口を開けていたら叫んでしまいそうで、つい堪えてしまうが、それがかえって目の前にいる男の本能を刺激してしまったらしい。

「いいですねえウブな反応。どうしよう、めっちゃ、挿れたいなぁ」

 僕が今までしたことないような、獲物を見つけた獣のような顔で、自らの股間部を握り始める立花。その様子を見て、僕のお腹の奥がきゅーっとして、もう無視できないほどに熱くなっているけど。それでも残った理性は抗う。

「おい、考え直せ!今ならまだ!」

「……そんなこと言ってるけど、先輩も挿れて欲しいって、思ってるんじゃないですか?」

「っ!?」

 そんなことない、と言おうとしたのに、口から出てこなかった。頭では違うと言っても、体が、本能が、目の前にいるオスの子を孕みたいと言っているんだ。

「何も言わないってことはぁ」

 もう、全部委ねてしまいたい。正直、僕が元の立場だったら、こんな可愛い女の子を目の前にして我慢できる自信がない。でも、今の僕は、立花円佳の体を預かっているだけの身だから、せめて、少しでも彼女を守りたい。

「せめて、ゴムはつけよう?な?お前高校生だし妊娠したら困るだろ?」

 そうしてやっと絞り出したのが、妥協案だった。本当はなんとしてでもこんなことをやめてもらうべきだとは思うけど、でも、僕は残念ながらそんな聖人じゃなく、普通の男だから。

「……それは、一理あるかもですね。先輩が、あたしのことを考えて、言ってくれてるんですもんね」

 なんとか落ち着いてくれた立花は、ホテルの部屋に備え付けられていたコンドームを取り出し、少しもたつきながら装着する。僕が手伝えればよかったが、残念ながら未経験なのでそれは叶わない。

「じゃ、気を取り直して……」

 改めて宣言され、僕はごくりと唾を飲み込む。僕の下腹部が、何かを期待してきゅんきゅんと鳴っているような気がする。それを振り払おうとしたら、彼女の手が僕の足を開いて、いわゆるM字開脚のような姿勢にさせられてしまう。

「挿れますよ、覚悟はいいですね?」

「……ん」

 つぷりと、そこにある門を開け、肥大化した僕の半身たるそれは、小さく弱くなってしまった今の僕の中にずるりずるりと侵入する。僕の中に、僕だったモノが脈打っている。

「んんぁっ……」

「痛く、ないです?」

 立花は、僕の上に跨って、珍しく心配そうな顔で覗き込んでくる。

「だい、じょぶ……んっ」

「んっ……」

 答えると、そのままキスをされた。もう自然にそれを受け入れられるようになってしまったことが少し怖い。それに、気づけば正常位と呼ばれる姿勢になっており、僕はほとんど身動きが取れない状態で、陰茎を差し込まれてしまっている。

「じゃあ、動きます、ね」

 こつんこつんと、お腹の奥の方が硬く熱いモノで何度もつっつかれて、その度にびくんびくんと体が自然に跳ねる。

「んぁっ……」

 出そうとしていないのに声が漏れる。指摘された通り気持ちいい。男として味わう、一点に集中していくような感覚とは真逆の、一点から全身に拡散していくような快感。

「気持ちいいですか?」

「んっ!」

「喋らなくてもわかりますよ、だって、気持ちいい時の顔してるもん」

 僕が使っているのは立花の体なので、立花には全てバレてしまう。逆に僕はこんなこと初体験なので、なんとなくしかわからない。手のひらの上で弄ばれているような気分だ。

「んっ……っん……」

「我慢しないでいいですよ、気持ちいいなら声出しちゃいましょ。そのほうが気持ちいいっすよ」

「んくっ……」

 彼女はそう言うが、素直に声を出したらまた煽られそうなので、あえて声を我慢することにした。

「ふへへっ……先輩のナカ、熱くて気持ちいいっすよ」

「んんっ!?」

 しかしそう簡単にはいかない。この体、なぜか耳元で囁かれるだけで快感が増していってしまう。そんなことあるのか。確かに腰の動きも激しくなってきてるけど、それよりも。

「せんぱぁい、きもちいいですねぇ。一緒にきもちよくなっちゃいましょうよぉ」

 こいつの言葉責めが、頭から直接お腹の中に響いてくるようで、体がぴくぴく震える。その度に今僕が駆っている体は、その中に収めた肉棒をぎゅうぎゅうと締め付ける。

「んっ……んぁ……ぃやあ……」

「ふへっ……せんぱい、かわいい」

 ばちゅん、ばちゅんと、響く水音はどんどん激しくなって、その度にびりびりと淫靡な電流が体内を駆け巡る。体が熱くて、頭がぼーっとして、何も考えられなくなっていく。

「んっ!ああっ!」

「んっ……やっと、こえだして、くれましたねっ!」

 容赦なく、休む暇なく、僕の奥を、僕だったものが貫き続ける。

「あああっ……やば……おかしく、なるっ」

「はぁ……そろそろ、あたしっ……限界、かもっ」

「ぼく、も……んぁっ……っ!」

「く……でますっ……!」

「え……あ、あああっ……くぁああぁああぁ!!?」

 ゴム越しだけどはっきりとわかる、自分の中に熱いものを注がれている感覚。自分の体内にある器官が、吐き出されたそれをもっと搾り取ろうとする感覚。

「はあああっ……っ……」

「はぁ……はぁ……」

 その上でさらに動かれるものだから、体からもたらされる信号たちを処理し切れなくて目がちかちかして、真っ白になって。重なったふたつの体が、溶け合ってひとつになってしまいそうな感覚に襲われて。でも、とびっきり幸せで、気持ちよくて、僕の意識は、蕩けて、消えてしまいそうだった。



 気がつくと、目の前には満足気に微笑む立花の顔があった。どうやら意識がないうちに体が戻ったようだ。

「ふへへへぇ、気持ちよかったですよ、先輩の体。先輩も、あたしの体で気持ちよくなってたんですねっ……」

「……まさか童貞より先に処女奪われることになるとはな」

「ごめんなさい、つい勢いで……」

 仮にも自分の体が相手なのに、勢いで済ませてしまっていいものかと思う。でも当の彼女は「やりきった」というような顔をしているので、僕もあまり気にしないことにした。誰にだってつい欲に流されてしまうことはあるわけだし。

「あの、先輩、勢いついでに言いたいことがあるんですけど」

「ん?」

 ちょっともじもじしながら彼女は言う。真っ先に思ったのが、まさか他に何かやらかしたのではと言うことだ。入れ替わっている間のことは僕も全て知っているわけではないので、ここにきて何かを暴露されることもありえないか。

「直弥先輩のこと、好きです」

「…………え」

 今、こいつはなんと言ったのだろうか。僕の聞き間違いでなければ、僕は今、いわゆる告白ってやつを。

「だから、好きだって言ってるんです。お付き合いしたいんです」

 間違いない。間違いなく、好きだとそう言った。目を見て、まっすぐに。
 今までそんな素振りはなかったじゃないか。妙に懐かれているとは思ったけど、ずっと煽って遊んでいただけなんじゃないのか。
 それとも。

「……本気?いつもの冗談じゃなくて」

「本気じゃなかったらこんなことしませんって」

 僕が、鈍すぎただけなのではないか。
 確かに、少なくとも僕の感性としては、さっきしたような行為は愛する者同士が行う営みである。ただ、それはあくまでお互いを愛しているという前提を共有してからすべきだとは思う。

「順番おかしくない?」

「本当、そうっすね」

 少し野暮かと思いながら指摘すると、少し目をそらしながら彼女は言った。自覚があるなら、これ以上咎めることもないだろう。

「で、返事は?」

 ただ僕は、先述したとおり恋愛経験などない。だから好意を向けられるというのが、どういうことかわからなくて、まだ疑いの目を晴らすことができない。

「……お前、断ったって体入れ替えて、付き合ってくれるまで返しませんから!ってやるんだろ?」

「あ、その手があったか」

「え、そのつもりだったんじゃないの?」

 少し意地悪なことを言ってみたつもりだったが、参った。こいつは振られるかもしれないとわかりつつも、このような行為に及んで、その上僕に好意を伝えてきたと、そういうことになる。

「そんなことしないっすよ!だって、その、マジで……好きなので……」

 いつも軽い口ばかり叩く立花の、初めて見せる顔。真剣で、恥ずかしそうで、不安そうで。流石にここまでストレートに来られると、僕としてはもう打つ手がないというのが正直なところだ。だったら僕も、正直に全てを伝えるのが、せめてもの礼儀だろう。

「僕は恋愛っていうのがよくわからない。だって今まで経験がないからな。だから正直お前の好意にも全く気づかなかった。かわいいやつだとは思っていたし、入れ替わったのをきっかけに距離が近くなってラッキーくらいには思っていたけど、正直煽ってきてちょっとウザい後輩だと思っていた」

 立花円佳は、黙って聴きながら僕の顔を見つめ続けている。

「でも、なんていうか、何回か入れ替わってるおかげか、お前のこと、まるでもう1人の自分みたいな感じでさ、なんか放っておけないっていうか……ごめんうまくまとまらなくて。えっと、それでだな、立花」

「はい」

「……僕も、君のことが好きなんだと思う」

「……もう、先輩、せっかくなら、もっとビシッ!て決めてくださいよ」

「はは……悪いな、僕はこれくらいが限界だ」

 彼女の本気に対する僕の返答は、なんとも格好がつかない感じになってしまった。でも、これはこれで、僕らしいからいいかなとも思う。

「でも、よかったです。ちゃんとあたしの気持ち、伝わったんですね」

「ああ。ずっと近くにいたのにな、全然気づけなかったよ」

 入れ替わって、同じ時間を過ごしていたのに、全然伝っていなかった彼女の恋心。やっと僕がそれを受け止められて、僕たちは晴れて恋人同士になった。

「それで先輩、よかったらなんですけど」

「ん?」

「もう一回、しません?今度は、この体のまま」

 付き合えることになって吹っ切れたのか、上目遣いで甘ったるい声で誘ってくる立花。
 下を見ると、さっき1度精を放ったはずの僕の半身は、もうすっかり最大サイズまで回復していた。

「決まりっすね」

 それを見た彼女は、僕が答える前に、自らの小さい手で握りはじめた。

 クリスマスイブの夜は、まだまだ終わりそうにない。

あとがき
いかがだったでしょうか。ところで、サソリザさん主催の「冬のハートフルTS合同」にも作品を寄稿しましたので、そちらもよろしくお願いします!

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