至高のBLを見たい!

まえがき
どうも、TS界の金髪黒リボンアイドルことんごんごです!今回はちょっと趣向を凝らして、腐女子目線の入れ替わりTS小説を作ってみました!我ながらとても斬新な仕上がりになったと自負していますので、興味のある方もそうでない方もぜひ、ご覧頂けたら幸いです!



■プロローグ■
「あ"あ"あ"あ"あ"!! 至高のBLが見てえええええ!!」
 ある日の夜の12時前。自室でBL本を読みながらそう叫ぶ私は東雲 しののめ かすみ。学校では大人しくしている陰キャで腐女子の女子高生。もちろん彼氏はいない。
 いやまぁ、陰キャだからいないというか腐女子だからできてはいけないというか......とりあえずいない。ちなみにリア友ならごく少数だがいる。全員腐女子だけどな!
「はぁ~......BL本に浸るのはいいけど、リアルで至高のBLが拝めたらなぁ~......」
 男友達など一人もいない私は、もちろんそういうシーンを間近で拝められるはずもなく、今日もこうしてお気に入りのBL本を読むという日課に明け暮れるのだった。
「はぁ~あ......ん?」
 そうして何気なくペラペラとページをめくっていると、あるページに一枚の紙が挟まっていた。しおり? なんで買った本にしおりが? 誰かのメモ? 新品を買ったんですがそれは。
「これは......入れ替わり優待券?」
 薄桃色の長方形の紙にでかでかと『入れ替わり優待券』と書いてあり、その下には一文も添えられている。『相手と好きな時に好きな所を入れ替えることができる素敵なチケット』......ちょっと待って、それなんてエロゲ?


■第一章■
 翌日、私は昨日ひょんなことからゲットした入れ替わり優待券なるものを携えて学校へ登校し、教室の自分の机に座ってそれを取り出す。裏面にはさらに事細かな使用方法が書かれていた。
1.使用する場合は、まずご自身でこの優待券を持ち、そして入れ替わりたい相手に優待券の切れ端の半券を持たせてください。するとすぐに効果が現れます。
2.入れ替わった相手とは生涯にわたって好きな時に好きなものを入れ替えることができます。肉体、精神、年齢、立場、服装......どんなものでも自由にできます。
3.入れ替わる権利を持つのはこの優待券の持ち主のあなたです。言い換えれば、入れ替わった相手はあなたの『入れ替えパーツ』となります。
4.ただし使用は一度きり、使える相手も一人だけです。さあ、素敵な相手と素敵な入れ替わりライフを楽しみましょう!
「いかがわしい、非常にいかがわしい......だけど......うひひ」
 正直、現実においてそんなことできようはずがない。非現実的でちゃんちゃらおかしい。誰かが作ったデタラメアイテムだ。そう思う自分が脳内で3割ぐらいはいた。だけど、残る7割がそれを使って果てしない妄想を繰り広げ、その影響ですごく脳をふにゃふにゃさせられた。
「もし本当に入れ替われるならぁ~、やっぱ超絶イケメンアイドルとかいいかなぁ~、そうすれば......ふへぇぇ」
 まだ高校生なのに既に色々と諦めてる感じの私にももちろん女子的な願望はある。イケメンと付き合ってイチャイチャしたり......あとはイチャイチャしたり、イチャイチャしたり?
 だけどもっとやりたいこととしては、自分自身がイケメンになって、女子に目もくれず他のイケメンとイチャイチャして、イケメン同士でイチャイチャするように仕向けたりもして、間近でそれを見て......あ"あ"~! 妄想が止まらねえ! 鼻血出そう!
 だからこのアイテムが本当に好きな人と好きな時に好きな所を入れ替えることができるもので、しかもその主導権が全部自分にあるとなれば、私のこれからの人生バラ色待ったなし! やったぜ! 母ちゃん見てるか!
「うへ、へ、へへへへへ......」
「あ、あの、東雲さん......」
「イケメンと入れ替わる......イケメンと......入れ替わ......」
「し、東雲さん!」
「ひゃうっ!?」
 そうして妄想を加速させている最中に声をかけられたので、私はつい変な声をあげてしまう。慌てて優待券を隠して目の前を見ると、そこには一人の男子クラスメイトが立っていた。
「日本史のノートの提出......あと東雲さんだけなんだけど......」
「あ! そ、そっか! あ、ごめんごめん! あはは!」
 私は急いで机の中を漁り、ノートを取り出して渡す。彼はクラスメイトの靄門 あいもん 満斗 みつとくん。ぶっちゃけ全く話したことがない。私の見立てではルックス、勉強、運動、全てにおいて中の中に位置するTHE 普通男子。
「あ、ありがとう。じゃあね......」
「う、うん! ははは......」
 靄門くんは私のテンパりぶりに結構な引き反応を見せながらその場を去った。やらかした~、せっかく男子と話せるチャンスだったのに。いやまぁ、話したところで腐女子と話題なんて合うわけないか。
 そうだ、靄門くんで思い出したけど、私にはさっきとはテイストが違うが一つの理想がある。イケメンになることももちろん理想だが、靄門くんみたいな普通男子を超絶イケメンと絡ませて愛し合わせる光景が見たいのだ。これは私の至高のBLカップリングだ。
 ルックスも立場も能力も、全てにおいて分不相応な二人。だけどイケメンが普通男子のことを気に入って、自分だけの物として扱い、熱烈な攻めの愛を施すの。普通男子はもちろんそんな経験がないし、イケメンに気に入られるもんだから受けとしてもうなすがまま。
 あ、でも普通男子にヘタレ攻めさせてイケメンは誘い受けの方がいいかも? いやいや、絶対イケメンは攻めだって。普通男子も受けの体勢が一番映えるんだから。いやいやいや、でもやっぱりだいぶ腐をこじらせた身としては......。
「あ、あの、東雲さん......」
「攻めと受け......普通男子とイケメン......どちらがどちらでもよし......うへへ......」
「し、東雲さん!」
「ほぅあぁ!?」
 再び妄想を加速させ、再びその最中に声をかけられたので、再び変な声をあげてしまう。情けない私。そして目の前を見ると、そこには再び靄門くんが立っていた。もしや全部聞いてた?
「東雲さんのノート、世界史なんだけど......」
「あ! ああそっか! 申しわけない! 日本史だよね日本史! あはは、は!」
 私は再び机の中を漁り、今度は日本史のノートであることをしっかり確認して渡す。靄門くんはそっとそれを受け取って私に世界史のノートを返し、そそくさとその場を後にした。申し訳ねえ! ノート提出係お疲れさんです!


 キーンコーンカーンコーン......
 4時間目終了のチャイムが鳴る。私は購買で昼ごはん用のパンを買うため、財布を片手に教室を出る。例の優待券は財布の中にしまっている。もちろんまだ未使用のままだ。チャンスは一度きりだから、今はラストエリクサーのように大事に保管しておくのである。
「んでよぉ、この間は結局寝坊しちまったんだわ!」
「ウハハハハ! 何だよそれ!」
 購買へ行く途中の廊下、私の少し前で数人の男子たちが列をなして歩いている。そのグループの中心には、学校カースト断トツナンバーワン、女子をめっちゃ食ってるんじゃないかと噂のイケメン番長、霧崎 蔵人 くらうどくんがいた。
 霧崎くんのルックスはあまりにもイケメンで、女子に少し顔を近づけただけでその女子が即卒倒するほどである。背が高くて運動神経抜群で頭もよくてケンカも強く、おまけに相当なカリスマ性もあって、男女かまわず友達なんてごまんといるリア充中のリア充だ。
 あまりに完璧オーラがすごすぎて、正直私は近づくことすらままならない。でも私は、この学校でなら霧崎君と入れ替わりたい。だってそうでしょ、腐女子じゃなくてもあんなイケメンボディ欲しくない人なんかいないわ。でもあの感じ、絶対に近づけやしねえ......。
「わっ! ご、ごめん!」
「あ? てめーどこ見て歩いてんだコラ!」
「ご、ごめんってば! や、やめて......!」
「やめてじゃねーよシメんぞオラ!」
 そうやって再三の妄想にふけていたところで、何やらトラブルが発生している。靄門くんだ。靄門くんが霧崎くんのグループの男子の一人に肩がぶつかってキレられてるみたい。い、いけない! でも、私には止められる力も勇気も......。
「おいやめろ。どう見てもわざとぶつかった感じじゃねえだろ」
「き、霧崎くん......」
「ケガしてねえか? 俺のツレが悪かったな。後でちゃんと言っとくから、気を付けて戻れよ?」
「あっ......う、うん......ありがとう......」
「じゃあな」
「......ちょっと見た今の!? 霧崎くんめっちゃカッコよくない!?」
「見た見た! 私も優しく肩ポンポンされたい~!」
 ええ、私もしっかり目に焼き付けましたよ女子諸君。寸前のところで霧崎くんが止めて靄門くんに優しく語りかけ、彼の肩を優しくポンポンした一部始終を。私の性癖ドストライクのシーンすぎて頭フットーからの鼻血ドバドバ不可避です。
 顔を赤くして目を見開いたまま、しばらくそのまま立ち尽くす靄門くん。そりゃそうよ、あんなイケメンムーブされたら。私だったら仮にそれを受けた直後に突然死したとしても短い余生を満足に過ごせたと思えるぐらいっすよ。
「ん、待てよ......?」
 そしてその光景を見て、私はあることを思いついた。今持っている優待券、どうやら私の思い描く至高のBLを実現させるにはもってこいのアイテムのようだ。あれをあれしてああすれば......うん、最高じゃん。
 私は財布から優待券を取り出してそれをまじまじと見つめると、やがてニヤリと口角を上げてゆっくりそれをしまう。そして頭の中で急速に組み立てられる至高のBL計画を原動力にしたスキップで、意気揚々と購買へ向かった。


 キーンコーンカーンコーン......
 あくる日の昼休み。私は体育館倉庫の裏に足を運んだ。昨晩、靄門くんと霧崎くんに向けた手紙を一通ずつ作成し、今朝にそれぞれの下駄箱に入れている。もちろん、名前は書いていない。
 程なくして、一人の男子がその手紙を片手にやってきた。さぁて、私の至高のBL計画の幕開けよ!
「あ、あれ? 東雲さん......?」
「や、やあ、靄門くん、昨日ぶり! へへ......」
 私はリアルで至高のBLを拝みたい。そしてそのカップリングは昨日決まった。そう、靄門くんと霧崎くん、あなたたちに至高のBLを形成してもらうわ。霧×靄がとか靄×霧がとか細かいことはこの際どうでもいい。あなたたち二人のカップリングの時点で既に至高は決まっているのだから!
 そしてその至高のBLを形成するにはズバリ、この優待券が必要不可欠。私から霧崎くんには絶対近づけやしない。手紙を出すだけで精一杯。だから靄門くん、私があなたと入れ替わって霧崎くんと結ばれてしんぜようって寸法なのよ! ふふ、ふふふふふ!


■第二章■
「それで、どうしたの......?」
「あ、はは! いや、そのさ、靄門くんに話がある、の......!」
「は、話って......?」
「そ、その......こ、これ......」
 私はコミュ力を振り絞り、靄門くんとコンタクトを取る。そして、あらかじめちぎっていた半券を左ポケットから出して彼に差し出す。
「何これ......?」
「あはぁ! い、いいからさ、受け取ってくれたらありがたいなぁ、なんて......」
「う、うん......」
 彼は私の目を見ながら恐る恐る半券へ手を近づける。そして指先で半券を手に取ったのを確認すると、私は持っていた手を下ろし、第一段階の成功を心から噛み締めて顔を綻ばせる。
「これがどうしたの、東雲さん......?」
「......靄門くんってさ、すごくその......優しいよね。人畜無害で、係の仕事とはいえ私みたいな存在にも話しかけてくれて......」
「ほ、褒められてるのかな、僕......」
「そそ、それにさ、よく見たらタイプっていうか、その、何ていうか......もう、あなたしかいないっていうか......」
「え、え......?」
 私のてんでまとまっていない言葉の羅列。顔を赤くして戸惑い顔で私を見つめる彼。傍から見れば、この上なくカオスでかつ初々しさのある近年稀に見ぬ逆プロポーズだろう。そして私は、ゆっくりと彼のもとへ歩み寄る。
「ちょ、な、何......?」
「私、そう思ったの......靄門くんしかいないって......」
 もしかしたらデタラメアイテムで、何も起きないんじゃないか。そういう気持ちは正直まだ残っている。だけど、私は夢のために私を懸ける。もし失敗しても......靄門くんなら問題なく終わりそうな雰囲気あるし!
「私......私......」
「だ、大丈夫? ほ、保健室行く?」
「......ああ、やっぱりこの子だわ! 決めた!」
「ええっ!?」
「靄門くん......私と生涯の入れ替わりパートナーになりましょう!!」
 そして私は、左手で彼の半券を持った手を持ち上げ、右手でポケットから勢いよく優待券を取り出し、大声を上げながらその両方を太陽へと掲げる。そんな私に、燦燦と輝くいつもの太陽は―――。
 突然私の視界を真っ暗にさせ、一瞬で気を失わせた―――。


 しばらくして私は目が覚め、ゆっくり起き上がった。急に視界が真っ暗になって気絶したのにはびっくりした。熱中症? 分からない......それにしても体に違和感がある......やけに視界が高いような......それに、ないものがあって、あるものがないような......。
「あ、そうだ! 靄門くん! 靄門くん!」
 私は彼の無事を確認しようとすぐそばを見ると、そこには私の体が横たわっていた。どういうこと? どうして私がここに......じゃあ私は誰なの? 私は......そうか......今の私は......!
「靄門くんに......なってるんだわ......!」
 いつもの女子のアルト声じゃない男子のテノール声が口から吐き出される。体を見下ろすと、男子臭漂う男子の制服を身にまとっていた。胸を触ると、意外とデカいと評判の胸もなく、まっ平らになっている。手も普段より大きく、視界に髪も見えない。
「男子の股間って......こうなっているのね......」
 ズボン越しに股間を触ってみる。もにゅ、もにゅ。そこには初めて触る、そして触られているおちんちんの感覚があった。BL本でしょっちゅう見かけるおちんちんが、自分の股ぐらについている。そして触るごとに、徐々に大きくなっていることも分かる。
「そしてこれが、勃起......うほほ」
 男子って服越しに自分の手でちょっとおちんちんを揉んだだけでも勃つんだという驚きを覚えつつ、自分が男子の体になったことを完全に認識し、思わず変な笑みがこぼれる。切り立った崖のはるか遠くに見える向こう岸だと思っていた『異性』に、私は今なっているのだ。
「ふふ、ふふふふ......」
 なくなりかけのパンをちぎって食べるように、今自分が感じている幸福感をゆっくりと咀嚼する。やがてその幸福感が最高潮に達すると、この体が無性に愛おしくなり、両腕で思いっきり抱き締めた。
「はああ......本当にこの体を、生涯私の好きなようにしていいのね......少なくともこれで行き遅れることはないし、どんなに寂しい時も靄門くんがそばにいてくれるのね......」
 傍から見れば、靄門くんが寝ている私の横で変態なことを言っている変態男子に見えてしまうだろう。しかし、幸い周りに人はいない。いや、こうなることを予知して人がいないところに彼を呼んだのだ。そしてその彼は今、隣の私の体に......。
「ん......う......」
「......うふふ、噂をすれば」
 私の体になった彼が起きだしたので、とっさに横に行って添い寝をする。寝起きのようにゆっくり目を開ける私の顔、男子の目線で見ると補正がかかってかなりかわいい。
「気がついた?」
「あれ、何で僕寝て......え、何で目の前に僕が......」
「夢だと思う? 靄門くん......いや、今はかすみちゃんかな?」
「え、え......」



 今起きていることが夢でないことを徐々に理解しだす彼は、先ほど以上のおどおどっぷりを私の顔いっぱいに表現している。私はもはや彼に対する緊張は完全にほぐれている。見た目が私で緊張のしようがないし、元に戻るのも私次第。彼は完全に私の支配下にあるのだ。
「靄門くん。私ね、最初はこの力をイケメンに使おうと思ったの。でも、勇気のない私にはできなかった」
「何......? どういうこと......?」
「だからあなたに使ってみたんだけど、すごくこう......今の状態、しっくりくるわ。私、ずっとこのままでもいいかも」
「もしかして、東雲さん......?」
「そうよ。あなたの体と私の体を入れ替えたの。あなたと私はこれからいつでもお互いのあらゆる物を入れ替えることができる。体以外でも、何でもね」
 戸惑う彼の頭を優しく撫でながら、今起きていることを懇切丁寧に説明する。元凶は私だというのに......。彼はその説明を聞きながらも、より一層おどおどしている。とてもかわいい。
「そしてその主導権は全部私にあるの。素敵じゃない? ふふっ」
「そんな......僕、急にそんなこと言われて......どうしたらいいか分かんないよ......」
「大丈夫。あなたは私の生涯の入れ替わりパートナーとして、私のそばにいて、私の言うことを聞いてくれさえいたらそれでいいの」
「うう......」
「絶対悪いようにはしないから、ね?」
「......はい」
「ふふ、聞き分けの良い子は好きよ......」
 生殺与奪の権は我にありと言わんばかりの口ぶりで彼を説き伏せ、完全に自分の支配下に置くことに成功すると、私は彼を力いっぱい抱き締め、計画の第二段階の成功を心から噛み締める。


「というわけで靄門くん、よろしくね」
「うん、でも......まだ何の実感も湧かないんだけど......」
「そのうち慣れるから大丈夫だって! そ・れ・に......」
「ひゃあぁ!?」
「私の体、実は結構エッチだから、胸なりお股なり、好きにしちゃっていいわよ?」
「や、やぁっ、そんなことしないってば......」
「強がっちゃって......」
 入れ替わったばかりでまだ女子の体に慣れていない彼の胸を触り、女子としてあえがせる。私はもうとっくに男子の体に慣れたわ。そのうち、オナニーとセックスの快感もたっぷり味わってやるんだから!
「さて、それじゃあ行ってくるわね」
「え、行くってどこへ......?」
「霧崎くんのところに決まってるじゃない! 私、あなたとして告白しようと思うの!」
「ええっ! な、なんでそんなこと......!」
「至高のBLが見たいからよ! じゃ!」
「ちょ、ちょっと待ってよぉ!」
 そして私は私の体を彼に託し、最終段階へいざゆかんと、男子の脚力で運動不足の女子になった彼を振り切り、颯爽とその場を後にする。足取りが軽い。筋肉がつき、走る時に邪魔なデカ乳もないからというのもあるが、私の完璧な計画が次々と成功している喜びが私にバフをかけているのだ。
 至高のBL計画の達成まで残る関門は一つ。靄門くんとして、全力で霧崎くんに告って、OKをもらって、あとは元に戻れば完了! 靄門くんと霧崎くんの至高のBLを拝ませてもらうわよ!


■第三章■
「き、霧崎くん! お待たせ......!」
「ん? ......なんだ、お前が書いたのかよあの手紙」
「う、うん! 昨日はお世話になりました、靄門です......!」
 私は足を急がせ、屋上にたどり着く。屋上には、フェンスに腰かけてポケットに手を入れ、空を見上げながら一人たたずむ霧崎くんがいた。かっこいい。本当にかっこいい。
 だけど、それゆえに緊張する。同性になれば男子に対する意識も多少は変わってくると思ったけど、全くそんなことはない。靄門くんの心臓を激しく鼓動させ、靄門くんの唾を飲み込みながら、私は震えた足を屋上へ踏み入れ、一歩一歩彼のもとへ近づいていく。
「で、何の用だよ?」
「あ、あの......その、ね......」
「早く言えよ。次俺のクラス移動教室なんだから」
「あの......えっと......!」
 気だるそうに髪をかく彼を目の前にし、言葉を発そうとするも、本能的に言いよどんでしまう。彼は告白とは微塵も思っていないようで、次の授業のことを気にしている。このままじゃいけない、勇気を出して言うのよ、私......!
「そ、そそ、その......わた......ぼ、僕と......ち、ちゅき......!」
「ったく、ハッキリしゃべれよ! 何だ!?」
「わわわ! ああああ、あの! あの......!」
 中々言えない私にしびれを切らした彼が、腰に手を当てて顔を近づけてきた。その瞬間、私の、靄門くんの体が最高潮に熱くなる。顔も焼けるように熱い。きっと彼からは真っ赤に見えているだろう。早く言いたい。だけど、怖い、だけど......!
「ぼ、僕、霧崎くんのことが好きなんだ! つ、付き合って欲しいんだ!!」
「......!」
 私はありったけの勇気を振り絞り、ついにその一言を彼に言い放つ。その瞬間、強い追い風が吹き、その言霊が彼の顔面に強くぶつけられる。
 目を見開き、しばし押し黙る彼。私の強く握った両手は、既に汗でぐっしょりだ。
「......そうか、お前、そういう趣味があったのか」
「あ、あの! 趣味っていうか、その......人間として好きというか、その......」
「でもわりぃな、付き合えねぇ。俺、女が好きだからよ」
「あ、あ! そ、そうだよね! あは、あはは......」
「まぁその......なんだ、がんばれよ。じゃあな」
「あ、ああ! うん! がんばり、ます。あは、あはは......」
 彼は気まずさたっぷりの素振りで私に二言三言言うと、そのまま私のそばを横切って屋上を去った。告白することに全ての力を注いでいた私は、彼のその言葉を聞いた瞬間に全身から一瞬で冷や汗を噴出し、彼の言葉を脳死で聞くだけのうなずきマシーンと化した。
 でも、そりゃそうだよね。女の子にモテモテの超絶イケメンの彼なら、ほとんど絡みなんてなくて、カーストが違って、ましてや同性の靄門くんなんて絶対に選ばないよね。理想のカップリングって勝手に決めつけて、勝手に盛り上がってたけど、薄々分かってたよ。
「......ひっく......えぐっ......」
 屋上の扉が閉まる音を聞くと、私は膝から崩れ落ち、目から大粒の涙をこぼす。こうして私の至高のBL計画は、失恋と言う形で幕を閉じた。


 私はそのまま靄門くんとして午後の授業を受ける。頭がぼうっとして、何も入ってこない。だけど、靄門くんが不真面目に思われてはいけないので、ノートはしっかり取り、呼ばれたら靄門くんにしっかりなり切る。私になった彼は、何も言えない私の心情を察してくれているのか、そのまま私として授業を受けてくれている。ごめんね、ありがとう。
 やがて授業やホームルームが終わって放課後を迎えると、私はそのまま無言で彼のセーラー服の袖を掴み、一緒に下校することを促す。彼は私の男子の手にそっと女子の手を置き、無言で了承してくれた。

 一緒に帰り道を歩く私と靄門くん。途中まで同じ道なのが今では奇跡的に思える。
「......ごめんね、フラれちゃった」
「......いいよ、気にしないで」
「本当ごめんね、私、身勝手なことしちゃって、ごめんなさい......」
「東雲さん......おいで」
「あっ......」
 再び涙がこぼれそうになった私を見て、彼は優しく私の体で抱き締めてくれた。私の体に包まれた彼に包まれる私。彼の大きな胸が母親のように温かく、柔らかく、そして優しい。そして頭を撫でられると、私は堪えきれずに彼を抱き締め返し、その胸の中で再び号泣した。
 私の計画は潰えた。だけど、代わりに大切なものを手に入れることができた。靄門くんという至高の入れ替わりパートナーを。もうBLなんていい。彼と一緒に最高の青春を送ろう。私と靄門くんは二人で一人、これからよろしくね。靄門くん、いや、満斗くん――!


 一週間後―――
「は~、やっぱBL最高だわ!」
「結局BLにハマっちゃってるね、かすみちゃん......」
「あったり前でしょ! たった一日でこれまでの私のBLに対する積み重ねが水泡と帰すわけないっしょ! あと、私のことはかすみたん、でしょ!」
「あ、ごめん......か、かすみたん......」
「ごめんも禁止だよ、満斗きゅん!」
 あれからしばらく。私は失恋を大きなパワーに変え、私の夢のBL部屋に靄門くん改め満斗きゅんを連れ込み、BL活動に勤しんでいた。いつまでも失恋を引きずっていては人生面白くない。それに、私には理解のある彼こと満斗きゅんがいる。最近は彼にもBL本を勧めていて、着実に腐男子としての道を歩ませている。
 しかもそれだけじゃない。この一週間は失恋を忘れるように、彼と色んな入れ替わりを楽しんだ。普通の入れ替わりだけじゃなく、声だけ入れ替えたり、感覚だけ入れ替えたり、性器だけ入れ替えたり......私も彼も、それはそれは満喫した。異性の体同士で色んなプレイするのって最高だね。
 ある時は性別を入れ替えた。彼はルックスもスタイルも普通ゆえに陰キャ男子から隠れて好意を持たれてそうな普通女子になり、私はその陰キャ男子と化した。私のデカ乳はそのままおちんちんのデカさに変換された。いや、せっかくおちんちんデカいのに陰キャ男子って正直どうよ?
 またある時は記憶を入れ替えた。彼の幼い頃の思い出から黒歴史、人には言えない性癖に至るまでの全てを覗くことができ、まるで心まで彼に染まったような感じになってすごく興奮した。最近は私をオカズにオナニーしたこともあるみたい......私も君をオカズにしたぜ! 記憶交換したからもうバレてるけどな!
 それから、彼はやはり年頃の男の子のようで、私が霧崎くんに告りに行ってる間も、おっぱいを揉んだりお股を触ったりしたらしい。そして私との入れ替わりプレイも最初は戸惑ってこそいたが次第にノリノリになり、性器入れ替わりのくだりになると私と全く同じテンションで動きから言葉まで完全に素の私とシンクロしていた。さすが、私の相棒だね!
「それじゃあ満斗きゅん、今日は顔から下の入れ替わりプレイしよっか。それとも立場入れ替わりがいい?」
「あはは、そうだな......顔から下の入れ替わりがいいかな? おっぱい、好きだし......」
「よっ、この正直者! 今日も私のBL活動に付き合ってくれたからね! 入れ替わってたくさん......あああああ!!」
「わっ! ど、どうしたの......?」
「これよ! これなら絶対達成できるわ! 私の至高のBL計画!」
「ええ......まだ諦めてなかったんだね......」
「あったり前でしょ! 相手は超絶イケメンの霧崎くんよ! おいそれと忘れられるわけないわ! こうなりゃBL本読んでるどころじゃない!」
「さっきと言ってること矛盾してないかな......」
「細かいことは気にしない! 私の指示に従ってね! 私の体でおっぱい揉みまくったりオナニーしまくったりしていいから! いい!?」
「分かったよ、かすみちゃん......」
「か・す・み・た・ん!」
 前言撤回。突然私の脳に走った電流が、忘却の彼方に消し去っていたものを再び呼び起こした。そうよ、諦めなければ夢は叶う。あの時はフラれたけど、今思いついた作戦でもう一度アタックすれば、きっと今度こそ至高のBLを拝めるはずよ、ふふ、ふふふふふ......!
「かすみたん、顔怖いよ......」
「私のこういう素の顔を見せられるのは、満斗きゅんだけだよ♡」


 翌日、私は再び手紙を霧崎くんの下駄箱に入れ、満斗きゅんと一緒に教室に向かった。私と満斗きゅんはすっかり人前でも話しこむようになり、周囲のクラスメイトたちから奇異の目で見られていた。そりゃあいきなり接点のない二人が仲良く話してるの見たら変に思うよね。あ、それともBLの話してるのがいけなかった?
 まぁそれはともかく。私たちは昼休みを迎えると、二人で手をつなぎ、屋上へ向かった。屋上の扉を開けると、そこには再び霧崎くんが一人で待ってくれていた。いつも先に着いて待ってくれてるとか本当にイケメンすぎて既に情緒がヤバい。
「ん......? 何だお前ら? お前らが呼んだのか?」
「は、はい! そうです!」
「僕たちが、呼びました......」
「......意味分かんねえなあ、二人で手つないで俺のとこまで。それに......いや、何でもねぇや」
 きっと霧崎くんじゃなかっととしても、私たちの今回の呼び出しはさぞ意味不明なことだろう。そして私はすかさず、霧崎くんが言おうとしていたことを代わりに告げる。
「靄門くんが霧崎くんに告白したこと、誰にも言わなかったんでしょう!?」
「っ! な、何でお前が......!」
「知ってるの。だって私が言わせた張本人だから。だけど遊びで言わせたんじゃない、私の本気の計画なの!」
「......とことん意味分かんねえやつらだな」
「答えて! じゃないと、私......」
「あーもう! 言うわけねえだろそんなこと! それでこいつがいじめられたらどうすんだよ!」
「......!」
 勇気を振り絞って霧崎くんと会話をする。そして霧崎くんのその言葉を聞いた瞬間、私は思わず鳥肌が立った。隣にいる満斗きゅんも、握っている手の感触だけで私と同じ感情になっているのが分かる。なんて、なんてイケメンなんだろう。
 やっぱり、満斗きゅんはこの人とつながるべきだわ―――。
「で、用件はなんだ? それで終わりか?」
「き、霧崎くん! 僕の名前、分かる......?」
「......ああ、靄門だろ。それがどうした」
「覚えてくれてたんだね......嬉しい......!」
 そして今度は満斗きゅんが霧崎くんと会話をするや否や、私から手を放し、ゆっくりと彼のもとへ歩み寄る。その歩みのスピードは増し、早歩きになり、やがて走って彼のもとへ向かっていく。
「お、おい! どういうつもりだ!」
「僕は東雲さんじゃない......僕は靄門 満斗として、霧崎くんに本気で恋をしたよ!」
「だからあの時ダメ......って......!?」
「だから僕、君だけの女の子になるよ......」
 そして満斗きゅんと霧崎くんが交わる瞬間、私は入れ替わりを発動させた。顔から下を入れ替え、私の体は学ランを着た満斗きゅんになる。そして満斗きゅんは、顔はそのままでセーラー服を着た私の体になり、霧崎くんに勢いよく抱きついた。
 突然の非現実を目の前にして目が点になる霧崎くん。しかしさすがはイケメン、満斗きゅんをとっさに抱きかかえ、ケガをしないように満斗きゅんの頭にそっと手を当ててゆっくりと倒れる。
「ちょ、何でお前っ......!」
「ねえ、今の僕は女の子なんだけど、ダメかな?」
「いや、は? どういうことだよマジで!」
「それもこれも全て私が張本人です。どうも、東雲です」
「いや呼んでねぇよ!」
 整理の追いつかない状況に動揺する霧崎くん。そんな彼の前に私はぬっと姿を現し、そして即座に彼にツッコまれる。
「......でも待て、お前が事情全部知ってんだな?」
「え、は、はい」
「......よし分かった、後で話聞かせろ。おい、靄門」
「何?」
「色々言いたいことはあるし、全然整理がついてねえけど、こんなバカみてぇな告白してきたのはお前が初めてだよ......ったく」
「ご、ごめん......でも僕、君のことが本当に好きなんだ!」
「分かった分かった。あのよ、何となくだけど、この間の告白は不本意っていうか、お前自身の意思じゃなかっただろ?」
「あ、そ、それは......」
「まぁ、でもよ......あれのおかげで今の告白が、すごく俺に刺さったぜ......」
「え......!?」
「それに、女のお前、すごくかわいいな。なんつーか......ホレた」
「そ、それって......!」
「ああ......付き合ってくれ」
「......!」
 そして満斗きゅんはその言葉を聞き、感無量のあまり、無我夢中で霧崎くんを思いっきり抱き締める。霧崎くんはたくましい体でメスボディの満斗きゅんを抱き締め返す。
 ついに、ついに私の至高のBL計画が達成された。私の思い描く至高の攻めと至高の受けが、私の手によって結ばれたのだ。後は体を元に戻しさえすれば、私の計画は完全に終わる。なんて私ってすごい! そう、私こそBLの神なのだ! あっはっはっは!!


■エピローグ■
 皆さんどうもこんにちは、東雲 かすみです。私はようやく至高のBLをこの目で拝むことができ、念願の夢がようやく叶いました......と言いたいところですが、少し事情が変わりまして......。
「蔵人くん、好きぃ......」
「俺もだぜ、満斗......」
 確かにBLはBLですよ、顔はね。だけど体から下は異性同士です。霧崎くんは私の説明を一通り聞いた後、元に戻すことを拒んで、エチエチなメスボディになった満斗きゅんだけを愛すと言ったんです。ええ、その時点で計画は全部パーですよ。イケメンの言うことだから反抗なんてできませんよ。
「んん......ん......んちゅ......」
「んっ......れろっ......」
 そして早速お互いがうっとりとした顔つきで激しく唾液を交換し合うディープキスをしているではありませんか。何ですか、顔は男なのに早速そういうことをしているってやっぱり元から好意的に思ってたんですか? じゃななぜあの時の私はフラれたのですか?
 てか満斗きゅんも、いくら私たちが処女と童貞だからやるのが億劫だったとはいえ、まだ私とキスしてないのに何でもう霧崎くんとキスしてるんですか? あと名前呼びも早くないですか? 私と君は言い慣れるのに数日かかったんですよ?
 いやまぁ、腐女子としてはこの上ない光景ですよ? 顔だけ見ればね? あと、ぶっちゃけ女としても私の体が超絶イケメンに抱かれてるんだからたまったもんじゃないですよ。もう私、どうあがいても幸せ者ですよ。でも、じゃあ何で私不満なの? 何で? もしかして妬いちゃってる? 満斗きゅんに? 満斗きゅん私の実質的彼氏だよ?
「あの〜......私どうしたらいいですかね......」
「そこで見てればいいじゃねえか。BL好きなんだろ?」
「全体としてのBLを見たいっていうかですね......だから体を......」
「ダメだ。言っただろ? 俺は女が好きなんだ」
「み、満斗きゅんは男の子だよぉ! ねぇ満斗きゅん!?」
「えへへ、僕、女の子だよ......」
「あ"あ"あ"あ"あ"か"わ"い"い"!! うん! 満斗きゅんはそのままかわいい女の子でいてね!」
 二人の幸せの空間が強いATフィールドとなり、私という存在を阻む。トホホ......と思いながらふと自分の体を見下ろすと、そこには満斗きゅんのオスボディがある。うん、じゃあいっそのことこの体をまさぐりにまさぐってセルフレイプでもしてやろうかな? それはそれでアリ! えへ、えへへへ! やば、勃起してきた!
「蔵人くん、僕からお願いがあるんだけど......」
「おう、何だ?」
「僕たちがこうして付き合うことになったのも、僕が今こうして女の子でいられてるのも、全部東雲さんのおかげなんだ......。だからね、東雲さんも混ぜてあげて欲しいの......」
「......そうか。おい、東雲!」
「ハイ何でしょお!?」
 そうして性欲を持て余そうとした瞬間、満斗きゅんの何やら女神的な言葉を聞いた霧崎くんが私を呼ぶ。即座に気をつけして硬直する私のオスボディ。股間も違う意味で硬直している。
「満斗からのお願いだ。仕方ねえからお前も抱いてやるよ。来い」
「えぇ!? 女が好きなのに男の体でもいいんですかぁ!?」
「満斗の体なら、この際特別だよ。いいから早く来いよ」
「かすみたん......一緒に蔵人くんに抱かれよう......♡」
「ハ......ハイ喜んでぇ~~~っっっ!!!」
 至高の攻めと至高の受けの私に対する至高の言葉。たまらず上着を脱いで上半身裸になり、輪の中に入っていく私を優しく迎える二人。ATフィールドなんてものはもうとっくに存在しなかった。
 こうして私の至高のBL計画は、至高の三角関係が形成されたという形で幕を閉じました......。そうだよ、これも計画のうちだったんだよ! もうみんなが幸せならそれでいいんだよ! めでたしめでたし! あっはっはっは~! 勃起が止まんねぇや~~~!!



おしまい

あとがき
腐女子が織り成すドタバタラブコメ入れ替わり小説、いかがだったでしょうか?余談ですがこの作品、何と半月で仕上げることができたんです!もしかしたらその半月の間はずっと腐女子に憑依されていたのかもしれない…?いやだったら憑依書かんかーい!(セルフツッコミ)

ページ最上部に移動