『〇〇県▢▢市替々の湯での記録』中編

まえがき
後編でなく中編になってしまいました……。中編は男女入れ替わりものです。男の人にあまり詳しくないので私の書く男性はリアル関係のある男性がモデルなことが多いので偏ってます(笑)
ちなみに前編+後編の字数を見てしまうとここまででも良いのでは?となるのですが、書きたいネタが……。そして、私の本来の考えでは短編的なものでした。なので、後編こそは3作品つけて2万字以内目標で調整中。集団2本と同性もの。そして、1つは今までとは違った書き方に……。それでは、中編もぜひぜひ~!最後には前編と同じく入れ替わった人たちへの簡単なインタビューがあります!

「替々の湯」について
一.政府公認の銭湯です。
二.上記のため、どんな異変がありましても当銭湯は一切の責任を負いません。
三.「替々の湯」にて異変がありましたら、必ず銭湯スタッフに連絡してください。
四.異変は必ず起こる訳ではありませんので気軽な気持ちでお入りください。
五.異変は湯に浸からずとも起きてしまうかもしれません。

[20XX年7月10日 佐藤ひかり(17),木野航(16)]
【Side:佐藤ひかり】
 「え、例の銭湯に?」
「そう、『あの銭湯』に!うちらで!明後日に」
例の銭湯……「替々の湯」に唐突に誘ってきたのは、私佐藤 ひかり(さとう ひかり)と小学生の頃から仲良しの友人である廣田 菜月(ひろた なつき)だ。
「元々、ダンス部の後輩ちゃんと練習帰りに行く予定だったんだけど、家族との予定入った上に、『あの日』、予定より……ね?それで銭湯に行くなんてヤバいからってことで。で、そうそう。私は大丈夫だけど、アンタも大丈夫?」
「……う、うん、私も大丈夫だけど?」
「じゃあ、決まり!」
「けど、なんで菜月と後輩さん、わざわざあんな伝説がある銭湯に?私の部活の先輩の妹さんが、先輩の彼氏さんと入れ替わったって話とか、私のお兄ちゃんのバイト先の友だちが、お兄ちゃんと同じ学校の先輩と入れ替わったって話聞いたことあって怖いんだけど……?」
私の周りで起きたことはないが、周りにいる人たちの周りで入れ替わりが起きたということは何度か聞いた。そして、私はそれらの話を聞いていると怖くなった。例えば、妹さんと彼氏さんの入れ替わりが起きた先輩は、彼氏さんの身体になった妹さんと結婚をした訳でもないのに高校生の年齢から「彼氏の身体」と同棲生活が始まったことで妹さんに頼み添い寝をしてもらっていたり、妹さんの身体になった彼氏さんとは姉妹ごっこやGLごっこをしながら、女になったことで10何年間男であった彼氏さんが知らない女の子の身体の知識を教えることになっているそうだ。もしも、私の中に別人の精神が入って、その人の周りの人の暇つぶしなどに使われるなんて怖すぎる。
「怖いからこそじゃない!ちょっとした運試しと度胸試しよ!」
「それなら、菜月ひとりで行けば……?」
「えぇ~~、薄情者~~!!うちら乙女よ?女があんな場所に行って万が一男の人と入れ替わったらどうすんのよ?好き放題じゃない。その対策のためにも知り合いといったら何かあっても止めてくれるかもじゃん?」
確かにその通りである。私たちが男子なら別にそういう心配はいらないのかもしれない。けれど、私たちは女である。入れ替わりからの性被害のコンボに遭ってしまうかもしれない。それを止めるためには協力者が必要だ。
「けど、私も菜月も誰かと入れ替わったら無理なんじゃない?入れ替わりって集団とかでも起こるみたいだし」
「んーー、そこなのよね。けどま、集団での入れ替わり話なんて聞いたことないし?それは完全な都市伝説なんじゃない?実は私前お母さんと1回だけ行ったことあるけど大丈夫だったし、周りもそんな騒ぎ起きてなかったし。どうせ、今回も大丈夫よ大丈夫!!」
菜月は私の机を大きく叩いて言い切った。
「はいはい、分かった分かった。明後日の土曜ね、時間は?」
「んーー、部活あるからーー……部活帰りの夕方は?ひかりもテニス部の練習あるでしょ?」
「うん」
「じゃ、夕方から!練習終わったら校門前で待ってましょ!」
「ん、りょーかい……」
私は少しため息をしながら応えた。すると、窓側の私の席から少し離れた席のヤンチャ男子集団の声が聞こえてきた。
「ななな!今度俺らであの銭湯行こうぜ!」
「はぁ~?別にいいけど。もしもなんかあったらどうすんだよ」
「もし、年寄りとかオッサンとか変な奴と入れ替わる~なんてことあったらどうすんだよ!な?悠陽?」
「そうそう。だから俺らさすがにやめとくわ!!」
「マジそれ!!!」
小野 大翔(おの だいと)と古川 悠陽(ふるかわ ゆうひ)の2人は顔を見合って野澤 浩太(のざわ こうた)の誘いを拒否した。
「はぁー……お前らほんっと度胸ねーなー……ち〇こちゃんとついてんのかお前ら?」
野澤は小野くんと古川くんに近づき、2人の股を掴んだ。
「どぅわーーー!!!!やめろや!!!なにすんねん!!!」
「……ってーーー!!!急には卑怯だろ?浩太お前今度覚えとけよ!!」
「お前ら2人に簡単に触られる浩太様だと思うか?」
野澤たちが騒いでいると、教壇近くで騒いでいた3人に木野くんが近づいて行った。
「はよ、朝から元気すぎ、お前ら」
「お、航!はっよー!」
野澤は木野くんに挨拶をしながら近づいていった。それと同時に……
「……朝から航の『イイモン』の調子チェーーーックッ!!!」
野澤は木野くんにもさっき2人にしたことと同じことをしようとしていた……が、木野くんは野澤の腕を片手で掴み、もう片方の腕で逆に野澤の股を掴んだ。
「ふぐっーーーー!!!……っだぁぁーーー!!!」
「毎日毎日いい挨拶してくれんな?え?浩太さんよ~?」
木野くんは怖い笑顔で野澤の痛がる顔を見ていた。
「う~~……っつーー……だぁ~~!航お前マジでどんな掴み方なんだよ!!」
「んだよ?愛情込めて掴んでやってんだよ。……で、お前らさっきまでなんの話してたんだよ?」
木野くんは席に座りながら3人に聞いていた。
「ほら、あの銭湯のことだよ、浩太の奴今度そこ行こうって言うねんよな」
「で、俺と大翔は拒否った!」
「はぁ……そうそう、コイツら度胸なさすぎんだよ。で!航はどうよ?」
「あぁ?俺も行かねーよ、そんな危ねーとこ」
「んだよんだよんだよ!お前らーー!……おーし、お前ら!じゃんけんで決めんぞ?俺は行くの確定として他クラスのアイツらも誘って今日の昼休みじゃんけんで決めんぞ?そのじゃんけんに参加しなかった奴は男気ねえ!ってことで罰ゲーム!な?」
「……んだよ、それ。小学生のガキのときなら意地でもやったけど高校2年の今そんなん言われて……」
「お?やんねーのか?航『ちゃん』、ソコにデケーもん持ってんのに女々しいなー?え?」
「……チッ。うぜ」
木野くんは野澤からの煽りに対してイヤそうな顔をしながら小声で呟いた。
「分かったよ、やってやんよ!大翔と悠陽もじゃんけん出ろ!!」
「うえー……ま、いいけどさ……他クラスの奴らも誘ってじゃんけんって久しぶりだしな」
「え、悠陽やんのか?」
「……浩太の奴のダルがらみイヤだろ?」
「あぁ……」
「じゃ、決まりだな!」
私と菜月……いや、それ以外のクラスの人たちもあの男子たちのやり取りを注目していた。それもそのはず、あの男子たちはヤンチャ系ということもあって女子からもヤンチャからは無縁の男子からも恋愛や憧れの気持ちがあるのと同時に顔もいい。性格がちょっと子どもっぽい野澤も顏がいい。そう、野澤……
「……ひかり、ずっと野澤のこと見てるけど……やっぱまだ……」
「ち、違うから!男子ってほんとバカだなって思いながら見てただけだから!!」
「ふーん、そっかそっか……」
菜月はニヤついた顔で見てきた。
「そ、それに一番かっこいいのは木野くんだし?顔よし、体格よし、スポーツ万能、喧嘩も強い、それに笑顔が素敵で、クールさもある……けど無邪気さもあって……」
「けど勉強はダメダメ。そしてそして、アソコもデカい……」
「そ、そこはどうでもいい!!野澤が言ってること真に受けないでよ!!恥ずかしい……」
そんなことを話していると朝学活のチャイムが鳴った。
 菜月との約束の日が来た。
「せんぱーい?一緒に帰りませんか?」
菜月との約束の校門前に向かおうとしたら、テニス部の後輩が話しかけてきた。
「あ、ごめん。今日他の友だちと約束あるから……」
「あ、そうなんですね……せっかく野澤先輩の耳寄り情報があったからそれ教えよう……」
「は、は、は!?ちょっと!!なんで野澤が出てくんのよ!」
「え、あ、野澤先輩『と』は、もう、別に……」
「~~~……」
私は唸りながら後輩を見ていた。
「あ、えっと、ほんとごめんなさい!!」
「いいよ、別に……むしろ教えてくれようとしてたのに感じ悪くしてごめんなさい。」
「先輩……」
「で、耳寄り情報って?」
「ふっふふー……野澤先輩今日友だち数人と遊びに行くそうです!」
「……え?」
「……?」
「それだけ?」
「いやいや、本命はその場所ですけど……先輩興味ないならこれだけの情報にしときますね~~」
「……ま、別にいいけど」
「先輩それじゃ、さようなら~」
「うん、さようなら」
……結局野澤がどこに行くのかは分からなかったけど、今の私にはそんなことは関係のないこと。私は気を取り直して菜月との約束の場所まで向かった。
 「ごめ~ん!待たせた?ダンス部の練習、発表の通しとかもあって長引いちゃったのー!」
「……え、あ、ううん、全然!私も今来たとこ」
「ん~?どったの?」
「え……なにかおかしかった?」
私は後輩から聞いた野澤のことが気になっていた。それで、少しボーっとしてしまっていた。
「……ううん、なんでもない!じゃ、行こ行こ!」
「うん」
こうして、私と菜月は「例の銭湯」……「替々の湯」へ向かった。
【Side:木野航】
 「だぁーーーっ!なんで負けたんだよ!クッソー……大翔の奴は行かずに済んだのによー……」
悠陽の奴は「あの銭湯」に絶対行きたくねーって奴だった。だが、じゃんけんの結果、コイツは行くことになった。行くことになったメンバーは、俺木野航と、古川悠陽、太田 駿(おおた しゅん)の3人。んで、今回の件の言い出しっぺの野澤浩太。この4人でだ。太田のことはあんま知らねーが、浩太と仲いいってことでたまにつるむ程度だ。
「ま、諦めろよ……俺らはじゃんけんで『勝っちまった』んだからよ」
「……そうだけどさ、太田―、そうなんだけどよ、勝ったはずなのに、勝ったはずなのによー……」
「はぁ……悠陽お前いつまで愚痴ってんだよ、まーた浩太の奴にダル絡みされっぞ」
俺も横から悠陽に言わせてもらった。
「あーーーっ!わーったよ、わーった!漢古川悠陽、もう愚痴なんてしねーよ!」
「おーっし、いいツラだ、古川!」
太田は笑顔で悠陽の肩を組んだ。
「お!お前ら!やっと来たか!」
俺らが話してると、浩太との待ち合わせ場所の「あの銭湯」に着いた。
「それに、ずっとイヤがってた悠陽もちゃんと来たんだな」
「あぁ!もうどうとでもなれ!それに、もしかしたら超絶美女のおねえちゃんやエロい体の女の子と入れ替われるかもしんねーしな!もし、そうじゃなくても、変わらずに漢古川悠陽の魂はソイツの中で生きてやるよ!!」
「お、どうしたどうした!急に……まさかお前もう誰かと入れ替わってる、とかか……?顔は良いのにビビりで小心者でアソコも小せー悠陽になっちまうなんて……」
「はぁー!?俺は俺に決まってんだろ!それに誰がビビりで小心者だ!!……ち〇こもデケーし……多分……」
悠陽は最初は声を大きく自信満々に言っていたが、テメェのち〇この話になると自信が消えていったのか声が小さくなっていった。
「そ、それに!そんなん言ってっと、もし俺が美人なねーちゃんの体と入れ替わっても浩太には触らせても見せてもやんねーからな!」
「ははっ、わりぃわりぃ。あんま怒んなよ、ゆ~ひ!」
「……そいや、浩太お前、やけにここに来たがってたけどなんか目的でもあんのかよ?」
俺はずっと気になっていたことを浩太に聞いた。コイツが行きたがる理由……なんなんだ?
「ん?あー、別に大きな目的とかねーけどよ、ちょっとした度胸試しとか、ワンチャン俺自身か俺の周りの奴が非日常に巻き込まれて退屈しなくなっかなー、ってよ?」
「……ま、らしいっちゃらしいな」
俺はため息をつきながら頭をかいた。他の2人も呆れたような顔をした。
「おっし!んじゃ、お前らとりあえずさっさと入んぞ!」
浩太は先に銭湯の中へ入っていった。俺らも浩太の後を着いて入って行った。
「お、今日は悪ガキの兄ちゃん3人まとめてか!」
中に入ると番台のおっさんが早速絡んできた。
「悪ガキって、人聞き悪いな、おっさん」
「はっはははは!おっさんの耳や情報網侮るなよ~?お前らの喧嘩情報も名前も知ってる。そこの金髪の兄ちゃんが木野航。隣の体格のいい兄ちゃんが太田駿。その後ろにいる茶髪の兄ちゃんが古川悠陽。んで、俺に反論してきた生意気そうな兄ちゃんが野澤浩太。え?どうよ?合ってっか?」
「……あぁ、合ってるよ」
「おっさん、どこで……!」
「す、すげぇ……」
「お、おいお前ら、今日初めてここ来るよな、な?」
俺らは全員驚いた。
「で、驚いた兄ちゃんたち、入んだろ?もちろん地元の奴らだからここの湯のことは分かってるよな?」
「……あぁ、分かって俺らは来たんだ」
浩太はひとり前へ進み、番台のおっさんを睨んだ。
「おぉーおぉー、おじさん怖くて倒れちまいそうだよ、ぶっはははは!!!」
「……チッ、変なおっさん」
「あー、そうだそうだ。あと兄ちゃんたちには関係ねーかもしれないが、兄ちゃんたちと同い年くらいの女の子たちもさっき来てたよ」
「へ~、知り合いだったりするんかな?」
「おい、悠陽。とりあえず金払って行こうぜ」
「あぁ、そうだな」
俺らはひとりずつおっさんに金を渡すと男湯へ入っていった。
【Side:佐藤ひかり】
 私たちは目的の銭湯に着き、中に入ると、受付?のおじさんが話しかけてきた。
「おねえちゃんたち、いらっしゃい」
「は、はい!」
私は緊張から変な声を出してしまった。横で菜月が笑ったような気がするけど……相手をする余裕もない。
「お、そっちのポニーテールのおねえちゃんは、来てくれたことあるよね?」
「覚えてたんですね!すご……」
「そりゃーね!ここにずっといるから勝手に覚えられるんだよ」
「ほえ~……」
菜月は興味があるのかないのか分からない声を出しながらお金をおじさんに渡した。それに続いて私も、おじさんに渡した。
 「銭湯、初めてかも……旅館とかホテルの、なら修学旅行とかであるけどこういう場所は初めて……」
「え!マジ?んじゃ、ひかりにとって初めての経験ってことじゃん!」
「ちょ、ちょっと!?言い方!その言い方やめてよね……!」
「ふふふっ、ごめんごめん!」
「も~……」
「てか、アンタほんと脱いだらスタイルいいよね」
菜月は私の下着姿を見ると、急にイヤらしいおじさんのようにジロジロ見てきてそんなことを言ってきた。……嫌味か、嫌味なのか?ううん、菜月は嫌味っぽくないのは分かってる……分かってるけど、菜月の胸やくびれや腹筋、色白さなどを見ると、嫌味を言われているように感じてしまう。
「う~~……もう!早くお風呂入ろ!体とかスタイルとかどうでもいいから!」
「はいはい、ほんと拗ねた顔も可愛いんだから~!」
「あ~もう!菜月~~!!」
菜月は私のほっぺたをぷにぷにと触ってきた。
【Side:木野航】
 「やっぱ、小さいな~~、悠陽は。顔と体格と身長の割に」
更衣室に着いて服を脱ぎ始めると、浩太は早速悠陽をいじり始めた。
「だぁ~~!うっせーよ!そーゆー浩太だって太田と航には負けてるじゃねーかよ!」
「そりゃあ、コイツらには負けるだろ?ま、一番は航だけどよ?な、駿!お前もそう思うだろ?」
「はぁ……お前ら『大きい』『小さい』うるさすぎんだよ」
浩太に同意を求められた太田は、俺と同じことを思っていたみたいだ。俺が言おうとしていたことを代わりに言ってくれた。
「ぴゅ~♪さすが持ってるモンが違う奴はかっこいいことを言うね~」
「へいへい、もう好きにしろ」
太田は折れてしまったのか、浩太と昔からの付き合いだからこそ、なのか相手をするのをやめた。
「おい、浩太……あと一応悠陽も。ここ、俺らだけじゃなくて他の客たちもいっから、あんま騒ぎすぎんなよ?」
「ほぉ~い」
「はいはい……なんで俺まで注意されたんだよ」
浩太も悠陽も適当に返事をしてきたが、土曜日の夕方なのにあんまり客の声とかが聞こえないのを考えると、あんま気にしなくても大丈夫なのかもな。
「んじゃ、俺脱ぎ終わったし先入っとくな」
俺がタオルを肩にかけて行くと、後ろから小さな声で
「やっぱデカい奴は隠さずに行くんだな……」
「いや、お前も隠さないだろ?」
「お!ってことは、俺も実はデカいってことか!?」
「……幸せだな」
浩太と悠陽の話し声が聞こえてきたが、俺はスルーした。
 俺が浴室に入ってシャワーの前に座ると後を続いて来た太田が話しかけてきた。
「木野、隣いいか?」
「ん?あぁ、いいぞ」
「サンキュ」
「…………」
俺は隣に座った太田を見ると、俺のよりは小さいが腹筋や体格では負けていることを服を着ていたとき以上に裸だと感じた。……それと、「もうひとつの部分」にも目がいった。
「お前体格マジでいいな……それに、ち〇毛処理してんだな」
「ん?あー、彼女に言われてな、で、処理してんだよ」
「なるほどなー、彼女いんだ」
太田も俺もシャンプーを泡立て髪を洗い始めた。
「あぁ。お前は?」
「去年まではいた。今はフリー」
「そうだったのか、なんかごめんな」
「は?なんでここで謝んだよ?そうされたら俺、惨めみたいになるじゃねーかよ」
「そ、それもそうだな……すまない」
太田は体格や浩太と昔からの仲で俺らとつるんでいる割には真面目ってーか、お堅いとこがある。ま、そーゆー奴も浩太を止めるには必要だから良いんだけどな。俺らが話している内に浩太たちも浴室の中へ入ってきていた。
「……そういえば、木野は陰毛は処理してないようだが、他の毛は処理してるのか?」
「急に変な質問だな。他の毛は別に処理してねーよ。元から薄いんだ。ほんとは濃いほうが……」
話していると、目の前が真っ暗になった。入ったばっかなのにもうのぼせたのか、なんて考えると、すぐに目の前がまた明るくなった。
【Side:佐藤ひかり】
 「はぁ~、いいお湯ね~……」
「うん、ほんとほんと」
「このままアクシデントなく終わりそうよね」
「それでいいじゃん~」
私と菜月は髪も体も洗い終わったので湯舟に気持ちよく漬かっていた。
「それはそれでつまんないけど、確かにね~……」
「そうそう……」
私は目を瞑りながら前に伸びてリラックスした。……けど、急にお湯の温かさがしなくなり、伸ばしたはずの腕は、髪の毛のシャンプーを落としていた。あ、あれ……?髪なら洗ったはずだけど……。
「……?どうした、急に黙って……?」
え、あれ?男の人の声が隣から聞こえてきた。女湯のはず……ここは女湯。そのはずなのに……。私はゆっくり目を開いていくと、目の前には男の人のアレがあった。
「……い、あ、あ、うそ、うあーん!」
私は体を丸めて胸や股を隠そうとした。けど、内股をしたくてもうまく出来ない。そのせいで逆に恥ずかしいことになってしまっているかもしれない。
「お、おい!木野?どうしたんだ?」
……木野?木野って聞こえたけど、まさかあの「木野くん」?私、木野くんと入れ替わったの?
「……うっ、あ、あの、その、『木野』って『木野航』……ですか?」
私は涙目になりながら隣にいた男の人に聞いてみた。もしも、木野くんの身体になっていたのだとしたら、木野くんの見た目と声で涙を流しながら敬語になっているのだろう。
「あ、あぁ。そうだが……?まさか、中身木野じゃないのか……?」
「ど、どうした!駿!航もなんだ、その変なポーズは!?」
……最悪だ。私の後ろから聞こえてきた声は、野澤の声だった。まさか、野澤もいるなんて。後輩が言っていた野澤の情報って「ここ」のことだったのね……。
【Side:木野航】
 「……いいんだけどよ。男らしくてよ。ま、女の子たちは俺みたいに薄いほうがいいんだろうけどな」
「……は?どうしたの?」
……おかしい。今、隣には太田がいる筈だ。だが、女の声が聞こえてきた。それに、俺は髪を洗っていた筈だが、湯舟にいる。しかも、胸には2つの膨らみがあり、股にはぶら下がっている筈のモノがない。俺は手を腰、腹辺りから胸へとなぞってみた。すると、女のようなくびれや細さが腰から感じ、そして胸のギリギリ下辺りまでいくと男の俺にはない筈の膨らみが。そして、隣を見ると、同じクラスの廣田が「どうしたんだ、お前は」と言いたそうな顔で俺を見ていた。
「……は、は!?なんで廣田が……!……そういうことか!入れ替わったのかよ!!おい、廣田!俺は木野だ!この体は誰だ!?」
俺は廣田の肩を掴んで怒鳴り声で聞いた。女の肌を簡単に触るのは男としてどうかと思うが、冷静に考えることなんて今の俺には出来なかった。そもそも、俺は今この女の子の胸辺りを付き合ってもいねーのに触りかけちまったから今更だ。
「えっと、え、木野って木野くん、よね……?えーっと、ひかりよ!今の木野くん、佐藤ひかり!」
「佐藤……!佐藤かよ、俺!じゃあ、今俺の身体に入ってんのは佐藤ってことかよ!」
俺は廣田の肩を離すと、勢いよく湯舟から立ち上がり、男湯のほうへ向かって叫んだ。
「おい!!佐藤、木野だ!!!今俺になってんだろ!?合ってんなら返事しろ!!!!」
【Side:佐藤ひかり】
 「……あ、木野……くん……?」
女湯の方から私の、木野くんの声が聞こえてきた。
「わ、航!?それに、ひか……佐藤?女湯に航がいて『佐藤』ってことは、ここにいる航は……」
野澤が驚いた声で私と女湯のほうを交互に見る。
「チッ……そうだ!そっちにいる俺は佐藤……の筈だ!他にも入れ替わってねーなら!!」
「う、うん!佐藤……佐藤だよ、木野くん!」
「マ、マジか……木野の奴、女子と入れ替わったのかよ……」
「うおーー!!うらや……じゃなくて大変そうだな、航と佐藤さん……」
「うっそーーー!ひかり、マジで木野くんなの?!勝ちじゃん、勝ち!!どうよ、男子の体!……なんちゃって!へへへっ」
うー……。古川くんも菜月もふざけてるでしょ!古川くんは訂正したから良しとして、菜月は絶対許さない。なんなの!もーっ……!……菜月への怒りが出てきたと同時に、木野くんに私の体を見られているだろうし、私も木野くんの体を……少しだけ、ほんっと!少しだけ見てしまった。しかも、他の男子たちの裸も目に入ったし、かっこよくて男らしい木野くんの身体で一応今は私の裸を男子たちに見られたくないがために、木野くんらしくないおかしなポーズをしてしまっている恥ずかしさも混ざって涙がこぼれ始めた。
「お、おい!木野……じゃなくて、佐藤……さん?涙……」
「……ちが、ちがう、の!恥ずかしく、て!出て、くる、の……!」
私は何度か顔は見かけたことはあるが名前を知らない男子に心配をされた。けど、どう返せばいいのか分からないし、木野くんのイメージダウンだろう、と考えると余計に涙が出てきて声がうまく出なくなった。
「あ……?佐藤!泣いてんのか?なんかあったか!?浩太辺りにでもなんかされちまったか!?すぐそっち行く!!」
「は、は!?俺はなにもひか……佐藤にはしてねーよ!決めつけるな、航!!」
「あ、ちょ!木野くん……!裸、裸!責めてバスタオルちゃんと……!!」
……うっそ、木野くんなにしようとしてんのよ……わざわざ、うそ、え、ほんと?……なんてことをグルグル考えていると、更衣室から走ってくる音、そして、浴室のドアを勢いよく開ける音……。バスタオルも巻かずに全裸の「私」の姿が見えた。後ろには「ごっめーん、止めれなかった、許してね☆」という顔をしながら舌を出してバスタオルをキチンと巻いた菜月が遅れてやって来ていた。全裸の「私」の姿に男湯にいたお客さんたちや、男子たちは目を見開いていた。……今の私は全裸の男、私の周りには全裸の男子が3人もいる。そして、極めつけは全裸の「私」……。私は涙も声も出なくなった。そして、勢いよく、倒れてしまった。
【Side:木野航】
 俺の目の前で佐藤の奴はぶっ倒れた。佐藤に近づこうとすると、太田が目線を上にしながら話しかけてきた。
「お、おい、木野!さすがに、バスタオル巻け!目のやりどころに……」
「そうよ、木野くん、とりあえず、バスタオル巻くか、服着てからここに来なさい!」
俺は太田や浩太、悠陽、客たち男どもの視線や空気を強く感じた。
「……チッ。確かにそうだな。今の俺は女の体だもんな……服着てくっよ。とりま、番台のおっさんのとこで合流しようぜ」
「分かった、佐藤さ……じゃなかった。木野」
「じゃ、私もさすがに気まずいから木野くんのお着換えの手伝いするわね~!」
「は!?手伝いなんていらねーよ!ガキじゃあるめーし!!」
「えぇ~?アンタ、女の子の服とか下着に慣れてんの~?」
「……わ~ったよ、頼む、廣田」
「はいは~い!あ、木野くんの体のひかりのことはアンタたちに任せるから!あ、けど!ちゃんとデリケートに扱いなさいよ!じゃ、行こ、木野くん!」
俺がバスタオルを巻き終わると、廣田に背中を無理矢理、押されて俺たちは男湯から女湯へ移動した。
 「……めんどいんだな、ブラとか無しでそのまま服着たらダメなのか?それに下もスース―する」
「ダメよ、それ許してひかりに怒られるの私だもん!」
「へいへい……。あと、廣田お前、さっきから佐藤の胸とか足わざと触ってんだろ?」
「え~~、気のせい気のせい!着替えさせるために仕方なく!」
「けっ……どうだか」
「……ん~~。な~んかガラの悪いひかり、ね~」
「しゃーねーだろ、中身は佐藤じゃなくて俺なんだからよ」
「『俺』とか『廣田』とかひかりの声で言われると変な気分。それに足大きく広げすぎ!パンツ見えそうよ~」
「あぁ、そうかよ。パンツくらい見られても別に恥ずかしくね~よ」
俺は耳をほじりながら適当に答えた。
「あ~……。ひかりに反抗期が……。うぅ、お母さんとても悲しいわ……およおよ……」
「はぁ~……めんどくせ。廣田って意外とめんどい奴なんだな」
「ん、あ~、そういえば、あんま私たち関わったことなかったわね」
「そうだな」
「ふぅ~ん、やっぱ木野くんの、男子の入ったひかりもまた違った良さがあるわね~……」
廣田はうんうん、と頷きながら俺を、「佐藤」を見ていた。……マジで鬱陶しすぎる。浩太といい勝負だ。
「おい、廣田。着替え終わったから俺はさっさとアイツらと合流してーんだが?」
「あ!それもそうね、私も早くホンモノのひかりと合流したいし、おじさんのとこ行きましょっか!」
「おう」
俺と廣田は女湯の更衣室を後にした。……はぁ、なんで俺がこんな目に。女になったことでこれから学校でどうアイツらと関わればいいんだよ、家でも姉貴や弟から弄られるの確定だろうし……。クッソめんどくせー。
「ん?どうかした、木野くん?顔すっごい怖いけど……」
「なんでもね~よ、これからのこと考えただけだ」
【Side:佐藤ひかり】
 微かに男子たちの声が聞こえてくる……。あれ?私確か菜月と……。あー、そっか。そうだった。思いだした。だから、胸の膨らみがないんだ、股に違和感があるんだ。今、自分が男の子であることを考えたり、木野くんの体で木野くんらしくないことをしたことを考えると、何故か股にあるアレが反応して気持ちが悪い……。
「お、佐藤!目、覚めたか……?」
「ん……んん、の、野澤……?」
目を開くと、私の目の前には心配そうな表情をした野澤がいた。
「頭痛くないか?」
「……ちょっと痛い。けど、なんで野澤、私のこと膝枕してまで?今の私、木野くんだよ?」
「まぁ、絵面としてはアレだが……。佐藤なことに変わりはないからな」
「……そっか、ありがと。ごめん」
「あ~~!調子狂うな~~!航の顔と声なのに!」
「確かに!航なのに航じゃなくて変な感じだよな~!」
「あ、ふ、古川くん。それと……えっと?」
野澤だけじゃなくて、古川くんと名前の知らない男の子もいた。3人は着替えて服を着ていたが、私はまだ裸だ。タオルは誰かが巻いてくれたのか腰にだけ巻かれているからアレは隠せていた。胸辺りは腕で精一杯隠した。
「太田、太田駿だ、佐藤、さん……だよな?」
「は、はい!よ、よろしくお願いします、太田くん」
「……変な感じだな~……航の顔と声で、くん付けに苗字呼びだと……」
「逆に、ひかりの方は完全に『男』だしな」
「そうだな……」
「けど、浩太の目的通り、退屈じゃなくなったな!」
「……ま、そうだな。航が女の子になって、ひかりが航なんて面白いからな」
「お、面白くなんかないから!!私がどれだけ恥ずかしいか……!それに、『ひかり』って呼ぶのもうやめてくれる?」
「あ、あぁ、そうだったな。すまない、佐藤」
「う、うん……」
「……あのさ、佐藤さん、そろそろ服着ね?さっきから、航の見た目で乳首、腕で隠してたり、タオル越しにち〇……アレ、ピクピクさせてんの、気になってよ……ぷっ、ごめん、俺先出るわ、じゃ!」
古川くんは笑いを堪えながら、男性の更衣室から出て行った。私は、古川くんを一発殴りたくなったが、それよりも「タオルの下」のことを指摘されて恥ずかしくなり動けなかった。太田くんも野澤も気まずそうな顔をしながらも、私からは目を逸らしてくれている。
「……あー、じゃ、俺らも先いくわ。行こうぜ、浩太」
「あ、あぁ、そうだな!駿!あ、佐藤!俺らも、お前の連れも航入りの佐藤もおっさんのとこで待ってるからな!早く来いよ!!」
太田くんたちも気を利かしてか走って出て行った。私は他のお客さんもいるが、ひとりになった。
「はぁ……着替え、か……。そうだよね、これからは着替えるときやお風呂や、トイレのとき……う、今からイヤがってたり誰かに頼ってたらダメよね……」
私はベンチから立ち上がり、木野くんの、と思われる場所を探した。なんだか、歩くたびに足にアレが当たって不快だし、胸を腕で隠しながら涙目になっている金髪のヤンキー風のイケメン男子を不思議そうに見つめてくる事情を知らないお客さんたちの視線が辛い。お客さんの中には察してくれているのか、注目をすぐに止めたり見てこない人もいる。
「と、とりあえず、下から、早く着ないと!」
 男子の着替えはブラジャーも背中を止める必要もないのですごく楽だった。
「……ふぅ。あとは木野くんがいつも着けてるネックレスを……。よし!」
私は更衣室を出て皆に早く合流しようとした。……けど、その前に鏡を確認したくなった。鏡を見ると、やはりそこには木野くんの顔があった。金髪で、ピアス穴が耳にあって、筋肉で逞しい腕や胸、凛々しい眉。だけど、お風呂後ということもありノーセットの髪型、目つきはいつも喧嘩上等のように鋭いが今の木野くんの目つきは頼りない。頑張って、いつもの木野くんみたいな目つきをしてみようとしたら、簡単にできた。きっと目の筋肉?慣れ?でだろう。
「……はっ!いつもの木野くんの目だ!!やった!出来た……!」
私は嬉しくなり、そのままの目つきでいつもの私のような話し方をしてしまった。……違和感しかなかった。
「き、木野くんの話し方意識してみないと……。えっと、えっと……あ、あと声も!もっと低めでかっこよく……!こほこほっ!ゴホン……!おし……!いつも通りの俺の目つきだな!やればできるじゃねーか!……ぷっ!なにこれ、変なの!やっぱ無理!ははははっ……!」
いつの間にか私は木野くんになったことを楽しんでしまっていた。このまま、野澤の、浩太のち〇こを掴んでやったら面白そうだな……いや、さすがにガキくせーか……。って、なんでか私は完全に木野くんに染まろうとしてしまっていた!鏡を見て「木野航」の顔と姿を目の前に映していると、自身が木野くんであるように感じてしまった。危ない危ない……!……けど、「木野航」だと思えば恥ずかしさも股についているモノへの不快感も無くなって楽に……って駄目駄目!私はすぐに目を強く瞑った。私は佐藤ひかり!!木野くんは、ひとりだけ……!木野くんは私の中に!そう、そう……!私は目を開けると、すぐに鏡から離れて皆のところへ向かった。
 更衣室を出ておじさんのところへ着くと、皆がいた。何故か、古川くんは「私」、というか木野くんに首元を掴まれながらほっぺをつねられている。
「……えっと、なんで古川くん……?」
私は恐る恐る古川くんのことを聞くと太田くんも野澤も笑いを堪えながら、菜月は目を皆から逸らしている。すると、木野くんが睨みながら答えてくれた。
「悠陽の奴、俺の、あー、だから佐藤が入った俺のことで大笑いするわ、俺が入った佐藤のギャップだとかなんとかで大笑いしやがるから絞めたんだよ。……チッ、佐藤の体だとあんま力が入んねー……クソ!」
「……もー!あんまり私の体で変なことしないでよ!」
「……わーったよ、なるべく気ぃーつけるよ」
木野くんはそう言うと、古川くんを離した。
「……はぁーはぁー……むしろ佐藤さんに掴まれてほっぺたつねられるならご褒美だろ……中身航だけど。佐藤さんの髪の匂い……」
「……おい、悠陽!てンめーーッ……!!!調子乗んなよ!そんなんだからテメーはいつまで経っても彼女もマトモに出来ずに童〇なんだよ!」
木野くんはそう言うと、古川くんの股を掴みにかかった。……やめて、マジで……。私の見た目と声で。
「どぅおーーーー!!!い、痛いようで、痛くない……不思議な感じ……」
……古川くんはかっこよくはあるけど、本当に「残念」だ。……というか、私の体や声で好き放題したり匂いを嗅いだり変な目で見ないで欲しい……。コイツら、中々に調子乗ってんな、え?
【Side:木野航】
 「仕方ねーだろーが!佐藤の体だからか、いつもの力が入んねーんだよ!」
俺は確かにいつものような力と掴み方をしている……筈だ。だが……
「……おい、お前ら、さっきから俺の体で好き放題やってんな?」
……は?俺の勘違いか、今、俺の後ろから「俺の声」で「いつもの俺」……かはあんま自分自身のことだから分かんねーが、そんな感じがした。今の俺の中には佐藤の奴が入っている筈だが。
「お、おい?佐藤……?ど、どうした?」
「どうしたもねーよ、浩太。木野……航でいいか。航と……悠陽が俺の見た目で好き放題やってからよ、ちょっと……な?」
佐藤は俺の体と声でさっきまでとは大違いの様子だった。妙に裏返った声じゃなく、相手を威圧させる低音、自信がなく涙が簡単に出そうな目ではなく、鋭く睨みつけた目だった。
「さ、佐藤……さん?いや、え、航?え、お前ら元に戻ったの?え?」
「戻ってねーよ!!俺はここだ!そこにいる『木野航』は佐藤で合ってっよ!!」
「ほぁ!?は?え?は?」
「おい、悠陽。テメー、さっきから俺の匂い勝手に嗅いだりち〇こ握られて喜んでるじゃねーかよ?俺が今から航の体で掴み直してやろうか?」
……佐藤に目と顎で「おい、離してやれ」と合図されたから俺は掴んでいた手を離した。すると、佐藤は悠陽のち〇こを勢いよく握りつけた。
「うげっう!!!!だーーーっ!!!どゅーーーー!!!あうあうあーーー!!!いつも、の、いつもの、航の、キレさせたときの、ごめんごめん、マジごべんな、ざい!!」
……佐藤の奴マジかよ……マジで握りやがった。さっきまで男の体をイヤがってた奴と同一人物かよ……。
「……おっし、これくらいにしといてやるよ。次また変なことしたら覚えとけよ。航もあんま変なことすんなよ?」
「は、はい……」
「……あぁ」
俺は佐藤の近くへと行き、佐藤の肩を掴んだ。
「へっ、意外とやるじゃねーかよ。見直したよ、佐藤」
「……ん?あ、あぁ、あんがと……?ってのも変か」
「ふっ、そうだな」
佐藤は俺の顔で?を浮かべたような顔をしながら礼を言った。
「……マジぃ~~、ひかり……?どゆ状況よ……」
廣田の奴がやっと口を開いたかと思うと、目と口を大きく開けて佐藤を見ていた。
「ま、佐藤の奴意外と男らしかった、ってことじゃね?」
俺が笑いながら言うと、廣田はまだ目と口が大きく開いていた。
「……まぁ、その、なんだ……。ビビらせてすまねー……なつ……廣田。あー、いや、菜月!あーー!前までお前のこと名前で呼んでた筈なのに急に……あー、クソ!」
佐藤のそんな発言を聞いて余計廣田は目と口が馬鹿みたいに開いていた。俺は佐藤に、廣田に聞こえないくらいの小声で話しかけた。
「……おい、佐藤。余計、廣田の奴目と口が大きく開いたぞ、どうすんだよ?」
「は?そんなん俺に言われてもだなー……。勝手にアイツが開いてんだろ?」
「……はぁ。マジで変な感じだ。『俺』と話してる感じで」
「お前もかよ、俺もだ。女の『俺』の筈なのに男口調で変な感じだ」
「あ?俺は、俺だ。男口調でいいだろうが」
「……チッ、それもそうだな」
「おーっし、ひかりちゃんに、航。お前らのこと菜月ちゃんに言われた通り政府や家族に伝えといたよ」
俺と佐藤が話していると、オッサンが別室から出てきた。
「ん?オッサンに伝えといてくれたのかよ、俺らが入れ替わったこと」
「あ、あぁ。そうみたいだ。俺らが男湯のほうにいる間に廣田さんと木野が伝えてくれてたそうだ」
「お!まじか!サンキュな、航!廣田!!」
「ん?んん?んんん?あれ、女の子が兄ちゃんの中に入ってる筈だけど?あれ?」
案の定、オッサンは今の佐藤の様子に困惑していやがった。
「……あ!分かった!『そーゆー系』の女の子だった、とか?……いや、待てよ、おねえちゃん、そんな感じではなかったもんね~」
オッサンは、心が元から男だった女だったのではないか、という考えをしたみたいだが、すぐに違うことに気づいた。……むしろ、俺も、俺らも、佐藤の急な変化には驚いているし気になっている。
「……あ~、その……うっ、なんだ……?こう、あ~、無理……。その、えっと……『私』気付いたら、えっと、その、あの……」
……は?どうした、佐藤?急に佐藤の奴は浴室や更衣室から出てきたばかりの様子に戻った。
「ひ、ひかり!も、戻ったのね!性格?雰囲気?」
「う、うん……!ごめんね、菜月。急に……」
「ううん!いいよ!戻ってくれたし!驚いたりはしたけど!」
そう言いながら廣田と佐藤は抱きしめ合った。……おい、それ俺の体。
「……はぁーー……。おい、お前ら俺の体でなに抱き合ってんだよ、キモイだろうが」
「え!?あ、ごめんなさい!木野くん!」
「……まーた『木野くん』か。さっきまでの方がよかったぞ、お前?」
「それは、アンタの見た目通りだからでしょ?」
「そうそう、変に女みてーな俺を見せつけられなくていいからよ!……で、佐藤はなんで『俺』みたいになったか分かんねーのか?急にか?」
俺が佐藤に聞くと、佐藤は俯きながら答えた。
「えっと……それは、あの……すっごい恥ずかしいんだけど……あー、その、えっと……鏡、見てね!そしたら、木野くんの顔がちゃんと映っててそれ見てたら自分が木野くん……に見えてきて、それで……」
「ほぉ~、なるほどね、いるよ、いるいる!たまにそういう子!おねえちゃんはそーゆータイプだったってことだね」
「入れ替わった相手に性格が流されることですか!?」
「そう、たまにな、ある」
「……ってことは、木野が佐藤さんみたいになることも……」
太田の奴がそう言うと、浩太と悠陽が俺をジッと見てきた。
「は!?なる訳ねーだろ!なにが悲しくて女みてーなこと、男の俺がしねーといけねーんだ!!」
「ま、なる奴がたまにいる、って話だから、兄ちゃんも必ず、ってことじゃねー」
「なーんだ、つまんね……」
「航が『野澤くんイケメン!素敵!!』とか『古川くんの変態!もうイヤ!』とか『佐藤さん、私の体で、乱暴、しないでよ!うわーん!!』とか言うのを佐藤の体で見れると思ったのに……」
浩太と悠陽がつまらなそうに言いやがる。……ざけんな、コイツら。
「はぁー……テメーら、もう勝手に変な妄想してテキトーにオ〇っとけ」
「ちょ、ちょっと!木野くん、あんまり私の体でそんなこと言わないでよ!!」
「しゃーねーだろ!そーゆーのが『俺』なんだよ!!」
「う~……もうっ!」
佐藤は頬を赤くさせながら俺から目を逸らした。
「……そろそろどうするよ?」
「あ~、帰っか?」
太田が聞いてきたので、俺が答えると他の奴らも頷き、銭湯を出ていく。俺と佐藤が出る前に、おっさんが声をかけてきた。
「あぁ、そうそう!おねえちゃんたち、申請が通ったらアンタらの家に連絡するから。大体明日の朝には連絡いくから」
「は、はい!ありがとうございます!」
「あぁ、おっさん、あんがとな」
佐藤が丁寧にお辞儀する中、俺は頭を簡単に下げた。こうして、俺らは銭湯を後にした。
【Side:佐藤ひかり】
 私も木野くんも、あれから2日後の月曜日に学校に行くとクラスや学校の皆から質問責めにあった。そして、その日学校に行く前に木野くんから「あるもの」も貰った。
 月曜、学校に行くよりも前に、私は木野くんと会っていた、いくつかの確認のために。
「日曜に渡した俺の制服、ちゃんと着こなせてんじゃねーか」
「あ、ありがと。あとは髪のセットだけど……」
「わーったよ、今日は時間もうねーし、また今度教えてやるよ、俺のセットを」
「う、うん。……ところでさ、木野くん、これから、その、私の体にはブカブカな男子の制服着るの……?」
私は木野くんが「私」の体で無理して着ている制服姿を下から上へ目を移動させながら聞いた。すると、木野くんは呆れたような顔で言ってきた。
「ちげーよ、バカ。この体に合ったサイズの男ものの制服がねーから仕方なく元の俺の制服着てんだよ。だから、昨日お前に1着しか渡さなかっただろ?月曜に俺の着る制服がなかったり、お前から制服借りずに済むために!あと、俺の私服はお前にまた明日渡すから」
「ありがと木野くん!」
まぁ、木野くんにはスカートよりも、ズボンの方がいいかもしれない。スカートだったら下着が丸見えになったりしてしまうだろうし……。けど私は揶揄ってみた。
「あ、木野くんにも私の私服と制服プレゼントしよっか?」
私は意地悪に笑いながら聞いた。次の木野くんの反応は呆れるよりも完全にキレながらだった。
「はぁ!?いらねーに決まってんだろ!!なんで俺が女の服着ねーといけねーんだよ!」
「今の木野くん女の子じゃん」
私はまた意地悪に笑いながら、聞いた。
「うっ……チッ、男ものの制服用意するし、私服もこの体に合うサイズ用意すっから女の服なんていらねーよ」
「あれ……?じゃ、今木野くん家でなに着てるの?」
「ブカブカだけど俺が元から着てたやつと、中学の弟から貸してもらってるやつ。弟のだと、まだ合ってっから……。で、佐藤はどうしてんだよ?まさか、お前、俺の体でスカート履いてる、とか言わねーよな?」
「し、してないからね!そんなこと!私も、お兄ちゃんから貸してもらってるの!」
「……なら、いい。あと佐藤。お前ぜっっっったいに、俺の体でスカートとか履くんじゃねーぞ!」
「は、履かないから!そもそも、履けなかったし……あ!」
「……おい、『履けなかった』ってどーゆー意味だよ?」
「えっとー……履いてはないからね!……私の、木野くんの体に合わなかったから……。」
「はぁー……。いいよ、別に。俺も俺でお前の体と入れ替わったとき、全裸で男湯突撃とかしたしよ……」
「ちょ……!忘れてたのに、忘れてたのに!もうっ!」
私は完全にそんなこと忘れていたが、思いだしてしまった。
「あー、すまね」
木野くんはさっきまでの私への仕返しと言わんばかりに、謝りながらも小馬鹿にしたような笑いをしていた。
「……って、あ!そろそろ行かなきゃ!木野くん、行こ!」
「別に良くね?俺遅刻とかよくすっしよ。それに今日は遅刻しても許されんじゃね?『〇理来ちゃって慣れてなくて時間かかりましたー』とか『男の体に慣れてなくてション〇ンすんのに時間かかりましたー』つってよ?」
「え、うそ?来てた!?え、分かった……?」
「はぁ……ジョーダンだよ、言い訳のための『もしもの』!来てたらお前に会ったときに聞いてただろ?それに、俺ん家姉貴もいっから、姉貴にも聞くしよ?」
「そ、そうだね……そうして……」
私は顔を赤くしながら答えた。木野くんは「顔を赤くさせんな、キメー」と言いたそうな目をしていたが気を遣ってかめんどくさいからか口には出していなかった。
「あー、あと『コレ』やるし、この前のネックレスもお前にやるから着けたいとき着けていいぞ?」
木野くんはズボンのポケットから箱を取り出した。その箱を貰い、開けると中にはいつも木野くんが学校に着けてきているピアスが入っていた。
「え、いいの、これ……?それに、ネックレスも」
「いいよ、別に。他にもネックレスならあるし。ピアスも……。元に戻れることとかほぼほぼ聞いたことねーけど。お前の体で開けるの、やめといた方がいいかも、ってよ……」
木野くんは目線と声を徐々に落とし頭を搔きながら言った。
「ふぅーん……。優しいとこあるんだね」
「は!?ちげーよ!それに俺はいつでも女には優しいだろーが!?」
「ふっふふふ、そういうことにしとくね!あと、別に開けたいなら開けてもいいからね?」
「……わ―った、考えとくよ」
「けど、なんで私服とかアクセサリーとかプレゼントこんなにしてくれるの?私は全く木野くんに出来てないのに」
「そもそも、お前のはいらねーよ!貰っても着る訳ねー!姉貴にでもプレゼントする!……お前に渡してんのは、お前が俺の体、見た目でハンパな恰好とかダセー服着ねーようにあうるためだ。……あと、お前、あんとき……鏡見て『男』なってただろ?あんときのお前、良かったからよ?また……『木野航』はここにいっからお前には譲らねーが、『漢佐藤ひかり』を見せつけて……欲しーからよ……。あんときのテメーかっこよかったぜ。俺の女にしても良かったくれーだ!」
木野くんは照れ臭そうに、けどいつもの木野くんのような雰囲気で笑顔を見せながらそう言ってくれた。そして、私の胸へ拳を突き出し、握り拳で叩いてきた。
「ぷっ!なにそれ……!……『俺の女』か。ふぅー……、『私の男』の間違いじゃねーのか?航?」
「……あんま調子乗んなよ?佐藤?」
「お前こそな、航?」
それから『俺たち』は3限が終わるギリギリくらいに学校へ行った。それまで航と色々話したり髪のセットを教えてもらったり浩太や悠陽、大翔、太田たちのことを色々と教えてもらった。学校に着く前くらいに俺は……私は恥ずかしくなりまた元に戻った。
 昨日は入れ替わってから初めての学校だった。そして、木野くんから貰ったネックレスとピアス。私は鏡を見ていた。
「……ふぅー。木野くんから昨日教えてもらった通り、いつもの木野くんの髪型、よし!あとは……」
私は首にネックレスを着け、ポロシャツのボタンを半分開けて中の私服を半分見せる木野くんのスタイルをした。そして、最後にピアスを、耳に通した。開けたことなんてないが、今私の耳に開いた穴をピアスが通っている。……最後に鏡で何度も確認した。
「……おしっ!いけたな!」
俺は顔を何度か叩いた。そして、カバンを持って部屋を出たら、お兄ち……兄貴が階段を上がってきていた。
「……ん、ひかり?雰囲気変わったな。体通りっていうか……」
「いいだろ、別によ。んじゃ、兄貴!俺、航と待ち合わせしてっからもう行くな!あ、あと!今日、兄貴が部屋に隠してるオススメの……『アレ』いくつか貸してくんね?じゃ、楽しみにしてっから!」
「え、あ、あぁ!……え?あ?え!?……ひかりじゃなくて木野くんか……?」
俺は驚く兄貴の反応を心の中で楽しみながら階段を下りて行った。
「ひかり!朝ごはんは?」
「んー、いらね!俺、急いでっから!ごめんな、母さん!」
「へ、ひかり……?」
「ひかり、様子おかしいだろ、母さん?あれ、ひかりじゃなくて木野くん本人なんじゃね?」
「けど……ん~~?」
母さんに兄貴2人揃って驚いている反応に心の中ではドキドキと笑いが生まれながら家を出ると、俺は少し恥ずかしくなって立ち止った。だが、俺はまた顔を叩いて航との待ち合わせ場所へ急いだ。
[その後の佐藤ひかり(木野航の身体)さんへのインタビュー]
Q1.「男」のとき学校や家ではどういう反応されてる?
「初めてのときはクラスの皆から驚かれましたけど、最近は受け入れてくれるって感じですね。『木野みたい』とか『航がふたりいる感じ』って。そう言われるたび木野くん機嫌悪くしてましたけど。家では『本当にひかりか?』って心配されて面白かったです。最近はお兄ちゃん『弟ができたみたい』とか『けど妹が……』って喜んだり残念がってますね」
Q2.「男」のとき学校や家ではどんな感じ?逆に「女」のときは?
「学校では……浩太や航たちとバカしたりしてっな。あと、体育とか保健が男側でやることなったから浩太たちと競ったり、保健のときは……まぁ、その、な?で、家だと兄貴からオススメの『アレ』教えてもらって航のデカい〇んこをアレしたり、だな。女のときの、ってか元の俺は学校だと廣田と喋ったり、『俺ら』のノリにあんま合わせられないって感じだな。航とはよく話してっけど。あー、あと体育の着替えや水泳のときにすっげーイヤがってんな。ほかの男のも、航のも見たがらなくてよ。家だと、入れ替わる前と体が違うってことくらいの違いだな」
Q3. もしも入れ替わる人を決めれるなら?
「んー、この体で満足してるしなー?ま、挙げるとしたら太田とかか?アイツ、航も言ってたけど航より体格いいし、航の次くらいの大きさっぽいからよ、経験してみたいなー、って!ま、元の俺はまた男なんて嫌がりそうだけどな」
Q4. 言いたいことなんでも!
「んー、特にねーから終わりー!」
[その後の木野航(佐藤ひかりの身体)くんへのインタビュー]
Q1.女の子の身体になって学校や家でどんな感じ?
「あ?なんでンなこと……。ま、あんま変わんねーよ。別に浩太たちと距離できた訳でもねーし。俺が女になったからって調子乗って挑んでくる奴らはいるが浩太たちに、佐藤も守ってくれるしよ……だーっ!なんで俺が守られねーと……!あと、家だと姉貴から『これ着てみてよ』つって可愛らしいモンばっか着させようとしてくっから拒否っても弟の奴が力技で……『兄貴ガチで女の子じゃん!』って煽ってきやがるし……!あークソ!俺が元に戻ったときか男の身体になったら覚えとけよ」
Q2.困ってることあったりする?
「さっき言ったことだよ。ほかにも色々あるけどよ。力ねーし、立ちシ〇ンうまくできねーし、生〇あるし、佐藤も入れて浩太たちと『そーゆー話』してもあんま、だしよ……」
Q3. もしも入れ替わる人を決めれるなら?
「男。断然男がいい。男つっても俺が認めた男がいいけどよ?それか『俺』に戻りてー。女だと、姉貴たちに弄られっし、ほかの男たちからしたら夢かもしんねーが、俺的には楽しくねー」
Q4. 言いたいことなんでも!
「気分悪くなってきたからさっさと帰る。じゃな」

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